04 ゆうひの過去
ゆうひに引き留められて、俺たちはまた向かい合って座った。
「じゃぁ、話してくれるかな。ここに来た理由を……」
「わかった……あれはそうま君とあの日待ち合わせていた時の事。私はいつも通り家を出たの」
ゆうひは、ぽつりぽつりと話し始めた。
「そしたら、目の前に黒い空間が現れたの」
「黒い空間?」
「そう。そして私はそれに飲みこまれた。気づくとどこかの城にいたの」
俺はどうにか理解しようと頭の中で考えた。
それって、こちらの世界に転移させられたって事か?
俺が腕を組んで考えていても、ゆうひは構わず話を続ける。
「その城では強い人材が欲しかったみたいで、別の世界から人材を集めているらしいの。私は転移した時に剣を扱えるスキルを手に入れたみたいで、すぐに上達したわ」
「うん、それは俺もすごいと思ったよ。スキルのおかげだったんだな」
「それから私は、いろんな戦いに駆り出された。たくさんの人が戦って死んだわ」
ゆうひは、とても悲しそうな目をしていた。
「私も戦ったけど、防衛するのがやっとだった。それで私だけ生き残ったの」
「でも、ゆうひが生きててくれてよかったよ」
「ちっともよくないわ。私を庇って死んだ人もいるのよ。私は世界に絶望したし、生きていくのが辛かった……」
「ご、ごめんゆうひ。俺、何も知らなくて……」
「ううん。私の方こそごめんね。ちょっと取り乱して……」
きっとゆうひはこの世界で辛い思いをしてきたのだろう。俺も想像できないほどの苦しみがあったに違いない。
「私はなんとか城に戻ったけど、私をこの世界によんだ奴が、役立たずって私を殴ったわ。その時決めたの、ここを出ようって」
「……それで、ゆうひは逃げたのか?」
「えぇ。追ってはあったけど、なんとか応戦しながら逃げたわ。そして海を渡ってこの国に着いたの」
「それで、今は俺の護衛ってわけか」
「えぇ。もうあれからどれくらいたつかしら。もう思いだせないわ……」
「ゆうひ……」
「でも、そうま君はもっと背が高かったはずだけど、なんでそんな小さくなったの? 姿も違うし……」
「実は俺、この世界に転生したんだよ」
「えっ! なら、一度死んだって事?」
「そう。でも、ここでゆうひに会えたから転生も悪くないな!」
俺が笑いかけても、ゆうひの表情は変わらない。今までの戦いで心が疲れてしまったのだろう。
俺はゆうひをよんだ奴に怒りを覚えた。
「しかし、ゆうひをよんだ奴、けしからーん! ゆうひに酷い事をする奴はこの俺が許さないぞ!」
「そうま君?!」
俺がいきなり大声を出したので、ゆうひは驚いていた。
「ゆうひ、そいつを一発殴りに行こう! せっかく逃げてきたゆうひには悪いんだけど……」
俺の提案に、ゆうひは俯いてしまう。やっぱり嫌だったか?
「せっかくあんな所から逃げてきたのに、また戻るの?」
「そうなんだけど、ゆうひもむかつくんじゃないのか? 他にも転移させられている子たちもいるかもしれない。好き勝手させてていいのか!」
「……」
ゆうひは黙っている。許せないと思うのも俺の勝手だし、ゆうひは止めるかな。
「……わかった。一発殴りに行こう」
「え、いいのか?」
「うん。私もむかついていたのは本当だし、思いっきり殴ってやるわ」
「よかった、ゆうひがこの提案にのってくれて……」
「でも、私がのらなかったらどうしてたの?」
「それは……俺だけでもそいつを殴りに行くよ!」
「そんな事、私が全力で止めるからね」
「やっぱりそうなるよなー」
俺が肩を落としていると、ドアがノックされた。ドアを開けると、メイドさんが立っていた。
「坊ちゃん、お食事の用意が出来ましたよ」
「あれ、もうそんな時間かな。あっ! さっき買った物、冷やさないといけないのがあった!」
中を確認してみると、少し柔らかくなっていた。
「すみません……早く厨房に持って行けばよかったんですけど……」
「まぁっ! 坊ちゃんがわざわざ?! そんな事、私がしますのに……」
メイドさんは俺から慌てて受け取ると、厨房の方に走っていった。
「なんだか、悪い事しちゃったかな」
「お屋敷の子どもも大変だね」
それから俺たちは、食事をとった。その時もゆうひの顔色は変わらなかった。
どうにかして、ゆうひを笑顔に出来ないかな……あんなに優しくてあたたかな笑顔だったのに……
俺はちらりとゆうひを見ながら、心の中で決意を固めた。