20 決闘前夜
しばらく歩いていると、コロシアムが見えてきた。
けっこう古い建物らしく、所々にひびが入っている。
「このコロシアムは、誰でもエントリーが出来るんだにゃ。決闘は明日。それまで少年とひと時を過ごすといいにゃ」
「あなたには、絶対負けないから」
「いい目をしているにゃ。明日が楽しみだにゃ」
それから俺たちはエントリーを済ませ、シルフィが案内してくれた宿に泊まった。
「じゃぁ少年。明日楽しみにしてるにゃ」
「その少年ってやめてくれよ。俺はそうまって言うんだ」
「ならソーマ。明日はあたしを応援してくれにゃ!」
「それは、さすがに無理があると思うんだけど……」
「冗談だにゃ。ソーマの応援が無くても、あたしは負けないからにゃ」
シルフィはそう言って、また俺に抱きつき頬を寄せてきた。
「し、シルフィ! 皆が見てるから!」
「ふふっ。せいぜい気まずくなるといいにゃ」
シルフィは、いたずらな笑みを浮かべながら帰っていった。
残された俺は、皆の方を振り向く事が出来なかった。
というより、ゆうひの顔を見る事が出来なかった。
「そうま君、早く中に入ろう」
「う、うん……」
俺は少し気まずかったので、ゆうひの顔を見ずに返事をする。
すると、ゆうひがぽつりと呟いた。
「それにしても、ずい分さっきの子と仲が良かったね」
「そ、それは、シルフィがじゃれてくるだけだよ!」
「何を焦っているの?」
「ゆうひが変な事言うからだろ」
俺とゆうひが言い合いを始めたので、ツクシが気になって駆け寄ってきた。
「ソーマとゆうひさん、なんでケンカしてるの?」
「ケンカじゃねーよ!」
「そう。そうま君が勝手に怒っているだけ」
「怒っているのは、ゆうひの方だろ」
「私は怒ってなんかいないわ。気のせいじゃない?」
「いいや。俺がシルフィにじゃれられている時、ゆうひ雰囲気が怖かったもん」
「……」
うっ、無言の圧力だ。目が怖い。
俺は無表情のゆうひにおされて、1歩下がる。
「まぁまぁ、お2人とも言い合いをなさらず。部屋に行って休みましょう」
メアリ、ナイス! 俺は気まずい空気から抜けだしたくて、足早に部屋に向かった。
「……なんで男たち5人が同じ部屋なんだよ」
そうなのだ。さすがに5人にもなると部屋が狭い。
「文句を言うなら、お前にかまっていた子に頼めばいいだろう」
「もうシルフィの事は忘れて下さい」
「いやー、見ていて面白かったからつい、な」
「アルタさん、性格悪いですね」
「おい、アルタ様の悪口は許さんぞ」
ガイナが鋭い目つきで睨んできたので、俺は顔を引きつらせる。
その光景が面白かったのか、アルタさんは口に手を当てて笑いをこらえていた。
「ガイナ、そう睨むなよ。ソーマが怖がっているじゃないか」
「お、俺ちょっと外の空気吸ってきます!」
俺は、その場から逃げるように部屋を出た。
「はぁー……なんとかあの場所から逃げ出せたけど、ゆうひと言い合いしちゃったからどうしよう……」
肩を落とした俺の耳に聞こえてきたのは、女性たちの話し声だった。
なんだ? 部屋から話し声が聞こえてきている?
俺はそっとドアに近づき耳を当てる。
「ゆうひ様、ソーマ様の事で悩んでいらっしゃるのですか?」
「メアリさん……私、そうま君にあんな風に言うつもりなかったんです」
「それはシルフィ様の事ですね」
「はい。彼女がそうま君にじゃれているだけなのはわかるのに、心の中がモヤモヤするんです」
「それは、ソーマ様に好意を抱いているからではないですか?」
「好意、ですか? 確かに私たちは幼なじみで大切ですけど、それ以上の感情はないですよ」
「それは、まだあなたが気づいていないだけです。きっとわかりますよ」
「そうなんでしょうか……」
ふと足音がドアの近くまで聞こえたと思ったら、いきなりドアが開いた。
俺はその拍子に倒れてしまい、慌てて正座になる。
顔を上げれば、無表情のゆうひと目が合った。
「こんな盗み聞きする男に、そんな感情はないと思います」
「ゆ、ゆうひ……これには訳があって……」
「ソーマ様、盗み聞きはいけませんよ!」
「メアリ違うんだ! 誤解しないでくれ!」
「……問答無用」
その時、俺の左頬にゆうひが平手打ちをした。興味本位で聞くんじゃなかった。
「た、ただいま戻りました……」
「わぁっ! ソーマ、どうしたのその頬の手形は」
「聞かないでくれると有り難いんだけど……」
「ほぅ。さては、女性陣の部屋でも覗きに行ったか?」
「アルタさん、これ以上誤解をうまないで下さい!」
俺は内心泣きながら、急いでベッドに潜りこんだ。
誰かが俺の背中を叩いてくれているのがわかったので、多分ツクシかドーラだろう。
俺は、少し落ち着いて眠りにつく事ができた。




