02 捨てられ拾われ
俺がもう一度目を覚ますと、視界に入ってきたのは小さな手の平だった。
あれ、もしかして俺赤ん坊になってる?
俺が戸惑っていると、目の前に若い女性が顔を覗かせた。
「まぁ! かわいい私の赤ちゃん。未来は立派な王になるわ」
え、王様? 俺の思考は追いついていなかった。
「おぉ、なんて可愛い我が息子よ。早く大きくなっておくれ」
つぎに顔を出したのは、口ひげが立派な中年の男性だった。もしかして、この人が王様?
2人が話しているのを、俺は目をぱちくりさせながら聞いていた。
なんとか、この2人に今の状況を説明してもらわないと。俺は自分の思いを頭の中で念じた。
「あのー、はじめまして。俺、そうまって言います」
「な、なんだ!? 頭の中に声が響いてきたぞ!」
「私もです! これはどういう事?」
あれ? もしかしてテレパシーが使えるの俺。
俺が首を傾げていると、母親が俺に近づいてきた。
「もしかして、あなたがやっているの?」
「そうです。あの、ここはどこなんですか?」
俺がテレパシーで話しているのがわかったのか、2人とも固まってしまった。
「どうされたのですか?」
「きゃぁーっ! 悪魔よ! 悪魔の子が産まれたわ!」
最初に悲鳴を上げたのは、母親の方だった。
「どうして、私の子が悪魔なんかに……」
母親は取り乱しているのか、顔を手で覆い泣きだしてしまう。
「誰かおらんか! 早くこの赤子をどこかへやってくれ!」
え、俺どうなるの?
俺は内心焦った。王様の言動からすると、俺は捨てられるのか?
すると、兵士がやってきて、俺を抱えて部屋から出ていく。
あぁ……俺これから捨てられるのか。短い人生だったな。
俺は泣きそうになった。しかし、兵士は城を出て森まで来ると、俺にこう言った。
「きっと、あなたを見つけてくれる人がいますから、どうかお元気で」
兵士はそれだけ言うと、走って行ってしまった。
「どうしよう……俺このまま死んじゃうの?」
俺の思考はグルグルしていた。
とにかく泣かないと。もしかしたら、誰か泣き声を聞いてやってくるかもしれない。
俺は必死に泣いた。誰か気づいてくれ!
俺が泣いていると、茂みが音を立てた。
だ、誰か来たのか? でも、もしかしたら狼とかだったりして……
「なんと! 泣き声を聞いて来てみたら、赤子がいるではないか!」
現れたのは人間のおじさんだった。王様よりひげは少ないが、キリッとした目は凛々しかった。
俺は怪しまれないように、今度はテレパシーを使わず泣いた。
「おぉ、大丈夫だぞ。早く私の屋敷に連れて帰ろう」
やったー! なんとか死なずに済むぞ。
俺が喜んだので、おじさんもうれしそうだった。
「帰ったらまずはミルクだな。それから必要な物を揃えるとしよう」
おじさんが連れてきてくれた所は、けっこう大きな屋敷だった。
これは俺が小さいからか?
「さぁ、うんとお飲み。こらこら、あまり急ぐんじゃない」
俺はのどが渇いていたせいか、がっついてしまった。
おじさんは注意しながらも、顔はうれしそうだ。
「私には子どもがいなかったから、お前がうちの子になってくれればうれしいよ」
俺は了承の意味をこめて笑った。それをわかってくれたのか、おじさんは頷いた。
「そうか、それはよかった。なら、名前を決めないといかんな」
おじさんが悩んでいたので、俺は出来る限り短く声を発した。
「そうま、そうま」
「おぉ、お前の名はソーマと言うのか。いい名前だな」
おじさんはわかってくれたようで、俺はソーマとなった。
それから5年の月日がたった。俺はおじさんの所で今も暮らしている。
おじさんは、ジェフという名前で魔法の研究をしている人だ。
部屋にも魔導書がたくさんある。
「ソーマは勉強熱心だな」
俺はその魔導書を読んで、この世界の魔法を覚えた。
実践するのはまだだけど、知識としては頭の中に入った。
「すごい……いろんな魔法があるんだな。俺も使えたりするのかな」
よーし、一度試してみよう。
俺はジェフおじさんに内緒で、裏庭で魔法の練習をした。
「全てを燃やせ、フレイム!」
呪文を唱えると、勢いよく炎が出てきた。
「やったーっ! あれ、でもなんか勢いありすぎない?」
炎は周りの木にうつり始めてきたので、俺は慌ててまた呪文を唱えた。
「炎を消せ、アクア!」
次は大量の水が炎を消した。しかし、量が多かったのか、俺にまで水がかかってしまった。
「ひぇーっ! 冷たい!」
「あぁっ! 坊ちゃん、大丈夫ですか!」
俺がびしょぬれで尻もちをついていると、メイドのお姉さんがやってきた。
「まぁっ! 一体何があったというの……」
この事はジェフおじさんの耳にも入って、その日はすごく怒られた。
「勝手に魔法を使ってはいけないよ! 今回はまだよかったが、お前が怪我をするところだったんだぞ」
「ご、ごめんなさい……」
ジェフおじさんに怒られてから、部屋に入るのも禁じられた。
俺が退屈で外にいると、おじさんが武装している女性を連れてきた。