ひと夏の出会い
第30回ひだまり童話館『開館8周年記念祭』
お題「8の話」
真由美は小学校1年生。夏休みは、いつもおじいちゃん、おばあちゃんの家へ行くことになっています。
真由美はおじいちゃんたちの家の周りを虫取りあみを持って走り回ります。蝶を捕まえるため。ひらひらとした綺麗な蝶は、真由美のあみを避ける。
「もう! もっと近くで見たいのに!」
真由美は蝶を捕まえて、観察したいと思っていました。綺麗なものが好きな真由美。だから蝶を見たい。でもなかなか捕まえられずに、疲れてきてしまいました。ぜえぜえと息を吐きながら、それでも蝶を追いかけていると、おじいちゃんの家から離れて、ずいぶんと遠くへ来てしまったようでした。真由美は道に迷ってしまっていたのです。
「どうしよう……」
真由美は泣きそうになり、うずくまってしまいました。そんな時、真由美に声をかける人がいました。
「どうしたの?」
真由美に声をかけたのは、真由美と同じくらいの年の男の子。真由美の顔を覗き込んでいます。真由美は泣きそうな顔を隠して、言いました。
「迷ってしまったの……」
その男の子は真由美を見つめました。
「田島のじいちゃんのところだろ?」
男の子は何故か真由美のおじいちゃんのことを知っていました。
「どうして知ってるの?」
真由美は不思議に思いました。男の子は「田島のじいちゃんが、孫が来るって言ってたぞ」と言いました。そして、「連れてってやるよ」。男の子の言葉。真由美はほっとしました。
男の子は「連れて帰ってやるから、少し遊ぼう!」と言い出しました。この辺では子供が少ないとのことで、遊びたかったようです。真由美はおじいちゃんの家へ送ってもらえる安心感からうなずきました。
2人は走り回ったり、木に登ったりして遊びました。そして帰らなければいけない時間になりました。真由美は、「もう帰らなきゃ」と言いました。男の子はうなずき、真由美のおじいちゃんの家へ送ろうとしました。そこで、はっとして真由美を見ました。
「最後にいい所へ連れてってやる!」
「え、でも、もう帰らなくちゃ」
「すぐそこだよ」
それなら、と、真由美は男の子の後に着いていきました。道を曲がって真由美の目に飛び込んできたのは、たくさんのひまわり。太陽へ向かって顔を上げ、所狭しと咲き乱れていました。
「わあ、すごい! 綺麗!」
綺麗なものが好きな真由美。その光景に圧倒されました。
「すごいだろ」
男の子は言いました。
「うん!」
真由美は嬉しくて思いっきりの笑顔を男の子へ向けました。
「ここのひまわりは8月が1番綺麗だよ。また来年も見に来るといいよ」
男の子は言いました。
「うん! 絶対に見に来る!」
そして真由美は、男の子におじいちゃんの家の近くまで送ってもらい、帰りました。
「ただいま!」
真由美は元気よくおじいちゃんの家へ入っていきました。真由美はお父さん、お母さんに、ひまわりのことを話しました。とても綺麗だったと。
「1人で行ったの?」と、お母さん。
「ううん、男の子と一緒だったよ」。真由美は答えました。すると、そこへおじいちゃんが来て言いました。
「この辺りに小学生くらいの男の子はいないよ」
「え、でも……」
真由美は戸惑いました。確かに真由美は男の子と遊んだのです。
「その子の名前を聞いたかい?」
おじいちゃんに言われて、真由美は首を横にふりました。おじいちゃんは考えたように言いました。
「それはきっと土地神様だね。たまに遊びに来るんだよ」
真由美は驚きました。
「ひまわりを見たんだね?」と、おじいちゃん。
「うん」と、真由美。
「この辺にはひまわりはないんだよ。土地神様が見せてくれたんだね」
おじいちゃんの言葉に真由美は驚きました。
「でも、また来年見に来るって約束したの」
真由美の言葉におじいちゃんは楽しそうに笑いました。
「真由美は気に入られたんだね」
「ひまわりは8月が綺麗だって言ってた」
「また遊びにおいでって意味だよ」
おじいちゃんの言葉に真由美は嬉しくなりました。
「また来年もひまわりを見られるかなあ」
真由美の言葉におじいちゃんは優しく答えました。
「8月になったら、また見に行けるよ」
真由美は満面の笑みを浮かべました。「また来年」あの綺麗なひまわりを見られるのです。真由美は今日の思い出を胸にしまい、またあの男の子と遊びたいな、と思いました。
来年、真由美の夢はきっとかなえられるでしょう。