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迷光より出ず①

 用意されていたキトンに袖を通す。真白のそれは、見た目より厚みがある布地のようだ。肌が透けてしまうかと心配したが、そのようなことはない。

 スピカは姿見を見て自嘲(じちょう)する。まるで似合わず、服に着せられているようだった。


「入っていいかい?」


 二回ノックが聞こえ、スピカは扉を振り返る。


「どうぞ」


 入ってきたのは、アルデバランと二人の男女。


「彼らとは初対面だろう。先日の歓迎会ではいなかったからな」


 アルデバランは二人を横目で見つつ、スピカに紹介する。


双魚(うお)の一族……絆結びし賢者。ロディとアモルだ」


 女性・ロディは快活な印象でスピカに片手を振り、男性・アモルは興味無さそうにスピカから目を離して客室を見回している。


「アンティキティラの視察から先程帰ってきたところでね」


「大変だったんだから! 狼の一族が暴れ回ったみたいでさ。昨日スコーピウスが来てくれたから何とかなったけど」


「で、これが時期乙女? はー……こんなちんちくりんが?」


 スピカはアモルの言葉に縮こまる。ロディはそれを見て、アモルの肩を強めに叩いた。


「いてっ」


「今から継承って時に、変なこと言わないの」


 幼子に言い聞かせるようなその声に、スピカは少しばかり気が緩み、ふふっと笑い声をもらす。ロディはそれに気を良くした。


「今回、蛇使いがいないから、私達がサポートするからね」


「え? いないんですか?」


「アルデバランがそう言ってたけど。だから、危なそうなら絆結びの術で応急処置してくれって」


 スピカは訳が分からないと言うように首を振る。


「ああ、ごめんね。知らないもんね。

 絆結びってのは、私達、双魚(うお)の輝術。リボンに術をかけて、あなたとアルデバランの手首を繋いだら、片方の感覚を共有できるのよ。だから、危なかったらアルデバランがヤバいの半分請け負ってくれるってこと」


 スピカはなおも首を振る。アルデバランが勧んで肩代わりを請け負ってくれるとは思えない。サビクを立ち会わせないようにするための口実ではないかと疑ってしまう。


「ま、俺らがいるから。ヤバかったら言って」


「今回特例でしょ? アルデバランも酷いよねー」


「国がこんな状況だ。早いに越したことはない。五年先だと手遅れかもしれない」


 アルデバランはそう言って、スピカに向き直る。そして片手を差し出した。


「さあ、行こうか」


 スピカは頷き、自分の手を重ねた。

 部屋の外に出ると、ヒマティオンを羽織ったメイドが二人、スピカを待っていた。彼女らは松かさがついた杖を掲げ、静々と腰を落とす。

 乙女の宮は、相変わらず静かであった。夜中ということもあり、屋外からの音もない。心臓の音がやけにうるさく、スピカは両手で胸を押さえた。息を止めればおさまるかと考えたが、試してみても同じことだった。


『大丈夫よ。安心して』


 エウレカの声がする。相変わらず柔らかな声色で、心強ささえ感じる。だが、昨日の出来事が気になって、信用しきれずにいた。

 楽しげな声で言った『上手くいくかしら』とは、どう言う意味だったのか。聞きたいが、声に出せない。

 メイドが並んで歩き出す。向かう先は二階の広間。そこで継承の儀が行われる。怯えていても仕方ないとばかりに、スピカは大股で歩き出した。


「早く終わらせて、アルフとアヴィと一緒にダクティロスに帰るの。大丈夫。上手く行くわ」


 誰にも聞こえない程の小声で呟いたにも関わらず、エウレカはそれを笑った。

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