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観測できぬテラヘルツ①

 跳ね橋に繋がる遊歩道をスピカは走る。胸の内にあるのは、恐怖と焦り。

 今朝、地下牢の看守から話を聞いて後悔した。話を聞いたことではなく、問題を先延ばしにしてしまったことについての後悔だ。

 跳ね橋までやってきて、スピカは足を止める。全速力で走ってきた体は疲れ切り、激しく鼓動していた。


「スピカ、待って!」


 アヴィオールとレグルス、そしてファミラナがそれを追い掛ける。彼らも激しい息をしており、必死でスピカを追いかけていたと見受けられる。


「サビクさんかグリードさんに助けて貰おうよ」


 息を切らしながら、アヴィオールが言う。ゼエゼエと吐き出す息に咳が混ざる。


「待てないわ」


「待った方が絶対いいって!」


「スピカちゃんだけじゃ、どうにもならないよ。大人の賢者に手伝って貰わないと」


 レグルスもファミラナも、アヴィオールの意見に同意している。彼らはスピカを止めるために追いかけていたのだ。

 だが、スピカは焦って仕方がない。話している時間も惜しいとばかりに、友人を放って駆け出しそうになる。


「待ってってば!」


 アヴィオールは咄嗟にスピカの腕を掴んだ。


「離して!」


「一人で行っちゃだめだ!」


 しかしスピカは、渾身の力でそれを振りほどく。


「だって、アルフの裁判よ!

 昨日まで知らされなくて、今朝会いに行ったらもう連れてかれただなんて。私にわざと話さなかったんだわ!」


 スピカはすっかり取り乱していた。瞳に涙を溜めて、瞼で蓋をして首を振る。そんな彼女の頬を、アヴィオールは両手で包み込む。


「しっかりして!」


 アヴィオールの怒鳴るような大声に、スピカは驚いた。浅く呼吸を繰り返し、やがて落ち着きを取り戻す。途端に足の力が抜け、その場にへたりこんだ。


「とりあえず、サビクさんに馬車を頼もう。裁判所に行かなきゃ」


 スピカは頷くことさえできず、ただ呆然とする。


「俺は、予定通り親父に話を聞く。ファミラナは?」


「私は、蠍の宮を訪ねてみる。法王陛下がいらっしゃるかどうか、わからないけど……」


 スピカは考えが纏まらない頭のまま、自分にできることを考えている。

 そして、一つ思い出した。

 

「クリスさん……」


 アヴィオールは屈み、スピカの顔を覗き込む。


「クリスさんが、どうしたの?」


 スピカはアヴィオールに訴える。


「クリスさんは時計の賢者。時計の輝術は過去を見る術。クリスさんの術が、アルフの無罪の証拠になるわ!」


 どうしてクリスティーナのことを忘れていたのか。スピカは考えの至らなさを恥じる。


「今からでも、クリスさんに来てもらえれば!」


「わかった。ファミラナ、頼める?」


 ファミラナは頷く。


「クリスさんに相談するのが先だね。時計屋さんに電話してみる」


 ファミラナは来た道を振り返る。

 そこに、一台の馬車が通りかかった。それはファミラナの目の前で止まる。

 馬車の窓から顔を出したのは、サビクとグリードであった。


「君達……裁判所に行かなかったのかい?」


 サビクが目を丸くして問いかける。スピカは首を振った。


「さっきまで知らされなかったんです」


「そんなまさか。アルデバランが黙ってたのか……?」


 サビクの呟きに、スピカは「わからない」と首を振る。そして立ち上がり、馬車へと近付き問いかけた。


「ディクテオンさんは、私を父から遠ざけてます」


「どうやらそうみたいだね」


 グリードが馬車のドアを開ける。馬車には、あと2人分の席が空いていた。


「乗れ。行き先は一緒だ」


「僕も乗せて!」


 アヴィオールが声を上げる。そしてスピカの隣に立った。

 グリードはサビクを振り返り、意見を求める。二人は声を交わさず、表情だけで互いの考えを汲み取る。そして同時に頷いた。


「乗りなさい」


 スピカは馬車に乗り込み、アヴィオールに手を伸ばす。その手を握り、アヴィオールも乗り込んだ。


「ファミラナ! クリスさんに連絡がついたら、裁判所に行くよう伝えて!」


 スピカは窓越しに声をかける。ファミラナはスピカを見上げた。


「わかった!」


 御者はサビクを振り返る。出発しても大丈夫かと声をかけると、サビクは頷いた。

 二頭の馬は、鞭打たれて歩き出し、それがやがて早足になる。スピカは窓から顔を出して、宮殿の方を振り返る。

 レグルスとファミラナは、スピカに向かって手を振っている。そしてすぐに宮殿へと向かって走り始める。

 馬車は跳ね橋の上を駆けていく。

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