ホラーショック
初掲載:2015年 02月15日
カラン、カラン、カラカラカン、コロン――――。
ホールインワン。
指輪は澄んだ音をたて、ピンボールの球のように白いバスタブの壁に弾かれ、排水口に消えていった。
「うそ……」
反射的につぶやき、手を突っ込む。が、小さい穴に指輪は入っても、手は入らなかった。
「どうしよう……」
大切な指輪だった。
婚約指輪ではなかったけれど、それに近い、彼からもらった大事な指輪。
まだもらって間もなく、嬉しくて風呂掃除にもつけていた。
それが洗剤で滑って、こんなことに――――。
自分の不注意さを呪った。
風呂場に指輪を持ち込んだことを後悔し、落とした己の指を叱咤し、彼が指輪のサイズを間違えたのでは、と疑い、洗剤に八つ当たりをし、あげくの果てに、バスタブに穴があるのが悪い、と責任を転嫁した。
一通りのことをやったが、怒りは納まらない。
なんとか指輪を取り戻さなくてはいけない。
なんといっても大好きな彼がくれたものだ。
それをなくすなんて、あってはならない。
バスタブのふちに爪を立てる。
キリキリキリ―――――嫌な音が辺りに響いた。
「もう!バスタブ破壊してでも、取り戻すんだから!」
憤怒の形相で、バスタブを睨みつけ、叫ぶ。
すると――――、
ケホン―――――――……カラン……
「あら……」
バスタブの蛇口から指輪が飛び出した。
「うそ……」
次の日、彼が泊まりに来た。
「ああ、いい湯だった。ところでさあ」
「なあに?」
「お前の家のバスタブ、青かったっけ。なんか青ざめて見えたけど」
「……さあ、そうだったかしら……」
慎ましやかに、にっこり微笑んだ。