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人と妖精、それから魔術

「調査、だと? お前たちが?」


川の堰き止め、その現場にたどり着いた私たちを出迎えたのは、そんな言葉だった。その場を管理するギルドの職員だろうか。胸にはその証でもあるバッジが輝いている。


「はい。一度ギルドの方でも話を聞いたのですが、せっかくだし一度見ておこうと思いまして」

「確かに人では一人でも多い方がいいが……」


ちらり、とこちら、というよりも私に目を向ける職員。その目は警戒ではないものの、猜疑を含んでいるように見える。

大方、『妖精失くし』に何ができるのか、といったところかしら。


「心配しなくても迷惑はかけないわ。それに、解決は早い方がいいでしょ?」

「……わかった。確かに、調査が進む分には問題ない。だが、俺たちもまだ調査中なんだ。くれぐれも、勝手な真似だけはしないでくれよ」


その言葉に周りを見れば、確かに目の前の職員と同じような格好をした人がまばらに見えた。その人たちからの指示には従え、ということだろう。

当然、その言葉に反対する気もない。スカイさんも特に反対することはないと思ったのか、二人同時に頷いた。


「それならいい」


それから、何かを思いついた場合も行動に移す前に、職員に声をかけることを条件に、調査の許可を得ることができた。


「……っと、魔力跡はあそこだ」


と、職員が思い出したように指さされた方を見ると、空中に揺らめくようにして、記号のような物が浮かんでいるのが見える。風が吹けば簡単に揺らいで消えそうなそれは、間違いなく魔力跡。


「ありがとうございます」

「礼を言うわ」


それぞれにお礼を口にすると、私たち二人の足はさっそく、魔力跡へ向けられた。



結論から言うと、私たちにわかることはなかった。ギルドや他冒険者も調査している、もしくはその後なのだから、当然と言えば当然ではあるのだけど。


「なるほど、これが魔力跡」


他の人が少し見て、それから何度か魔術を試そうとしてから去っていくのに対して、スカイさんだけが興味深そうにしげしげと眺めてはいたけれど。そこまで珍しいものでもないはずなのに、その反応はまるで、初めて見たようなそれだ。

……まさか、本当に初めて、なんてことはないわよね?


「……さん、リアンさん?」

「っ! ごめんなさい、ぼーっとしてたわ」


と、考え込んでしまっていたのか、スカイさんの呼び声に気が付かずにいたらしい。


「それでえーと、何かしら?」

「いや、大したことではないんですけど」


と、一息を置いてから再びスカイさんの口が開く。


「魔術、使ってみてくれませんか?」

「魔術、ね……。え?」

「え?」


その一言に、私の思考が止まる。まさか、冗談かしら。


「え、あれ? 何かおかしなこと言いました?」

「おかしなことも何も、私は『妖精失くし』なのよ」

「えっと、はい」


どこか会話がずれているような気がする。頭を抱え込みたくなるような気持ちを抑え、すっとぼけたようなスカイさんの顔に、思わずため息をついた。


「そんな私が、魔術なんて使えるわけないでしょ!?」

「え! そうなんですか!?」


帰って来た言葉に、今度こそ頭を抱える。

そもそも魔術とは、人が扱えるものではない。けれど、世界には人の外敵が少なくない。そんな状況を神が憐れみ、授けられたのだと言われている。

使い方も、ただ呪文を唱えたりすればいいわけではない。


「妖精が、周囲から魔力を集めて人に渡す。それを受け取って初めて、人は魔術を使えるのよ」


それもあって、『妖精失くし』は魔術も使えず、役に立たないという印象も持たれる。これぐらいのことは基本中の基本のはず……よね?


「そ、そうなんですね」


のけぞるようにして驚くスカイさんに、驚きたいのはこっちよ……、と頭を振る。確かに彼は常識とズレたところがあるが、まさかここまでなんて。


「おかしいなぁ、あの時は確かに……」


そんなことを呟くスカイさんをよそに、話を進めるためにも口を開いた。


「それで、どうして急に?」

「あ、はい。どのくらい魔力跡から離れれば、魔術が使えるのかなと、思いまして」

「ああ、それなら―――」


と、魔力跡からさらに離れた場所、ちょうど川の上流に当たる部分を指さす。


「確かあそこまで離れると、使えるようになるみたい」

「なるほど」


ありがとうございます、と口にした後。考え込むようにして黙り込んでしまったスカイさん。

結局、その日できた調査としてはそこまでだった。

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