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川の底に沈んだもの

街があれば、そこに住む人がいるように。ギルドがあれば、そこに所属する冒険者や職員がいる。

そして当然ではあるけれど、冒険者も人もみんな、本質的な部分は変わらない。

つまり、何事かというと―――。


「おいおい、なんでここにお前みたいなやつが居やがるんだ? えぇ? 『妖精失くし』さんよぉ!?」


私を見るなり、いや、自身とともにいる妖精が何かを感じ取っていたのか。私たちがギルドの門をくぐる前から、そこにいた男から、そんな声をかけられた。


「…………」

「けっ、だんまりかよ」


男を一瞥するだけで、特に返事もしない私に、つまらなさそうな声が帰ってくる。そんなことを言われても、私に言えることはない。どうせ何を言っても、私が悪者で、向こうが正義なのだから。

であれば、適当に聞き流していれば、向こうも飽きて他に興味を移すだろう。これまでに何度もあった、ごく普通の流れ。……だった。


「えっと、すみません。そこにいられると、通れないのですが」


そんな声が私の隣から男へ向かう。

声をかけられてようやく気が付いたのか、驚いたようにスカイさんを見つけ。その肩にポポル、妖精がいることに、さらに驚いたような顔になった。人ってそんな風に驚くこともできるのね、なんて思ったのは内緒にしておこう。


「なっ……おま……」

「ああ、そういえばまだ名乗ってませんでしたっけ。初めまして、おぉ……んん゛、スカイディです」


そんな男を見て何を思ったのか、いきなり始まる自己紹介。当然、いきなりそんなものを始められた男は、呆けるように固まってしまった。


「ちっ!」


が、すぐに持ち直して小さく舌打ちをすると、荒い足取りで門から出て行く。流石に『妖精失くし』ではないスカイさんには強く当たれない、という所かしら。


「……えーと、なんだったんでしょう?」

「さぁ、ね」


それは向こうのセリフだと思うわ、とは口にせずにとぼけておく。ともあれ、ギルドに着いたのだから、と空いているカウンターを探し始めた。



「川が堰き止められている原因、ですか?」

「はい。船が沈められているのは、人為的なものだと聞いたのですが」

「そこまでご存じなのですね」


いくつかあったカウンターの一つ。依頼を受け付けるためであろうカウンターに空きができたので、そこへ歩み寄り、すぐさまスカイさんが口を開いていた。


「今までギルドに寄せられた情報は、こちらに纏めてあります」


そんなスカイさんの言葉に、受付嬢さんが手元の紙を差し出してきた。二人して覗き込むと、そこには。


「魔力跡……ですか?」

「はい。船が沈むこと自体は、時たまあります。それでも、これまでは撤去できていたので問題はなかったのですが」

「今回は撤去できない……。その魔力跡が邪魔をしているということかしら?」

「その通りです。本来、魔力跡とは、人が魔術を使った際にそこに残る魔力の跡というだけで、それ自体には何の効力もないはずなのですが」


続きを読むようにして資料を眺めると、その魔力跡が他の魔力を吸い取っているのか、付近では魔術が使えなくなってしまっているのが書かれていた。

加えて、船の残骸そのものを動かすこともできないような魔術を使った跡らしい。

確かにこれでは、どうにかすることは難しいわね。


「こちらからお話しできることは以上です」

「ありがとうございます。この事で依頼は出ていますか?」


当然といえば当然だけど、こういった場合、ギルドでは情報のために特別な依頼が出ていたりする。


「あ、はい。もちろんあります。協力してくださいますか?」


今度は後ろの棚から、受付嬢が紙を取り出す。その内容は、この事件の情報に対して報酬が支払われる、というものだ。

スカイさんはもちろん、私も船が使えないと困る。二人して頷くと、受付嬢が依頼書を手渡してきた。


「でしたら、そちらをそのままお持ちください。それが依頼受注の証になります」


受注書を受け取りつつ、ギルド証を見せてカウンターを離れた。



「さて、それじゃあどうしましょうか?」


カウンターを離れ、そのままギルドを出るように扉をくぐると、スカイさんに声をかける。

少し時間が過ぎたとはいえ、まだお昼の時間には早い。今できることと言えば、船の場所を下見する事ぐらいかしら。


「そうですね……」


少し考え込むようにして黙った後、ぽんと手をたたいて。


「ちょっと川に行ってみましょうか」


私の考えとちょうど同じことをスカイさんが口にした。

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