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リブサイドの宿屋にて

「それじゃあ、身分証になるものを見せてくれ」


目の前の二人組が門を抜けて行くのに合わせ、門番が私たちに手を差し出される。

当然、それを断ることもできないので、懐からギルドの証を取り出して、差し出された手に乗せる。

と、そこまでは良かったが、隣の彼は果たして身分証になるものを持っていただろうか。

特別そんな話はしなかったので、急に不安になるが、幸いにも彼も同じように、ギルドの証を取り出して、門番の手に乗せている。


「二人か。えーと……」


それを確認した後、門番がそれぞれのギルド証を覗き込んでいく。

とはいっても、大したことは書いていないので、精々が犯罪歴との照合だろう。

問題があるとすれば……。


「……ちっ、『妖精失くし』かよ」


私のそれ。

小さく呟くようにして言ったようだが、私の耳にはしっかりと届いていた。


「何か問題が?」


それをわかっているのか、分かっていないのか。とぼけるようにして問いかけるスカイさん。


「いや、そこまで問題じゃないんだが……」

「…………」

「今この街は少し、ピリついているんだ。頼むから余計な面倒は起こさないでくれよ」


ああ、そういうことか、と合点がいく。

確かに、さっきそんな話を聞いた。何でも船が座礁し、流通が滞っているのだとか。そんなところに嫌われ者である『妖精失くし』が来れば、それこそ火に油でも注ぐ展開になりかねない。

いつもより、渋られているのはそのため、ということらしい。

が、門番も、妖精がいるスカイさんにまでは強く言えず。結局、スカイさんがしっかり見張っている、ということで無事に通してもらった。


「物好きな奴もいるもんだなぁ」


そんな言葉に背を押されようにしてようやく、私たちはリブサイドへと足を踏み入れた。



門から続く大通りを歩くこと少し。一軒の宿屋が見えてきた。

一階は酒場を併設しているのか、にぎやかな声が大通りまで聞こえてくる。


「ここ、入ってみましょうか」


指さすスカイさんの顔はいつもと変わらない。いや、その『いつも』が分かるほど見ているわけではないけれど。

ここまでに数軒、宿屋を尋ねては、私を見て断られているが、それを全く気にしていないらしい。

その事に、流石に少し申し訳なく思いつつ、頷くようにして足を向けた。


「……いらっしゃい」


出迎えてくれたのは、宿屋の主人だろうか。不機嫌そうに見えるのは気のせい、だと思いたい。


「二人なんですけど、空いていますか?」

「……食事なら好きな場所に座れ。……泊まりなら帳簿をつけるから、こっちに来い」


……どうやら部屋も空いているらしい。一瞬だけスカイさんと視線を向けあった後、主人のいる場所まで足を進めた。



カチャリ、と音を立てながら扉を閉める。やってきたのは宿の二階にある一室。先ほど主人から案内された、二人用の部屋だ。


(少し疲れている…のかしら)


ふわふわするような、不思議な感覚に襲われながら、備え付けのベッドに倒れ込む。

向かいには空のベッド。スカイさんはまだ部屋に来ていない。今頃は食事の最中だろうか。


帳簿に名前を書き、代金を前払いで渡した後。鍵を受け取り振り返った私達を襲ったのは、視線。別に敵意剥き出しのそれがあったわけじゃない。それでも感じた、大量の視線、視線、視線。

その場すべての人が向けてくる視線と、ついさっきまであったはずの会話が止まったが故の静寂。

その二つが、両方とも私に向かっていることはすぐに分かる。私にとって、珍しくもないからだ。

けれど、スカイさんは違う。彼は、私と一緒、というだけで今、注目を集めてしまっている。であれば、私がここから外せば少しはましになるだろう。

そう考え、眠いから…などと適当な事を口にして、返事を待たずに階段へと足をかけた。


「後で簡単な物でも持って上がります」


なんて言葉が後ろから聞こえたような気もするのだけれど、そういうことではない。

本当に、そういう能天気にも見えるところは、訳の分からないままだ。


(……訳の分からない、と言えば)


スカイさんと旅を始めてここまで数日。時々私の左目を眺めている事があった。

何かを探すような、何かを確かめるような、あの視線は、なんだったのだろう。

流石に、左目だけを注視されたことはなかったので、むず痒い。左目を押さえるようにして、特別変じゃないよね…、なんて思いつつ。私の目蓋はゆっくりと落ちていった。

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