Final ──決勝──
龍一はそれからはるか後ろの10番手グリッドからのスタートだ。
「遠いなあ……」
ポールポジションのヴァイオレットガールのマシンが遠くに感じる。それだけ昨日の自分は、しょぼい走りをしてしまっていたのだ。グリッドに着いてそれを改めて感じた。
この様子はライブ配信されている。
龍一の両親もフィチの両親も、あのコスプレコンビも、アレクサンドラとショーンも、世界中のゲームファンが動画配信サイトにアクセスして、このレースを観ている。
スタートへのカウントが始まる。
シグナルと同時に数字が表示されてゆき……。
GO!
の表示。
全車一斉にスタートした。突き抜けるようなモーターが響き渡る。
45週の決勝、ファイナルレースがスタートした!
ポールポジションのヴァイオレットガールはスタートダッシュに成功し、トップで第1コーナーに入ってゆき、それにスパイラル・Kことフィチ、カール・カイサ、レインボー・アイリーンと続く。
それからさらに後続のマシンが駆け抜けてゆく。
司会と解説も嬉々として声の仕事をこなす。チャットも盛り上がる。コスプレコンビも声を上げて実況を楽しむ。
龍一は、下がりもしなかったが上がることもなく、10番手のままスタートした。
(始まった……!)
身体が震えそうだ。それを必死に抑えて、前に着いてゆく。先頭が遠い。
(やっぱり予選とは違う!)
嵐の中、難易度100%ベリーハードのAIカーを相手に死闘を繰り広げたが。それとは段違いの緊張と、張り詰めた雰囲気。
会場の雰囲気に吞まれそうだった。
ヴァーチャルなはずの、ディスプレイのマシン一台一台が、血の通った生き物で、さらには獣で、自分に襲い掛かってきそうだった。
突き抜けるモーター音は、獣の咆哮を思わせた。
シムリグを自身をリンクさせ、マシンを走らせるが。自分のゼッケン2のマシンすら何かの拍子に裏切りそうな、そんな弱気に襲われる。
(ダメだダメだ!)
「焦らないでください。まずステディな走りを心掛けてください」
ヘッドセット越しにソキョンの声と、それを訳す優佳の声がする。
ステディ、安定させろということだ。
「りょ、了解……」
とだけ応えるのが精一杯だ。でも確かにその通りだ。どんな不甲斐ない走りでも、最低限完走せねば。完走を最低限の義務と自分に言い聞かせる。
そのまま1週目が終わる。先頭はヴァイオレットガールのまま。2番手争いが激しい。フィチのすぐ後ろに着けるカール・カイサのすぐ後ろに着けるレインボー・アイリーン。
追突しそうなほど接近し、隙を伺う。




