Final ──決勝──
「さ、サンクス……」
たどたどしくも、それくらいは言えて。肘タッチをする。
(友達か……)
もしかしたら、ライバルと言いたかったのかもしれないが、そこで咄嗟に出た言葉がトモダチだったことに、龍一は、心の中で清水が沁みるようなものを覚えるのだった。
「You are my tomodachi!」
「thank you my friend!」
やっと英語が出て。ヴァイオレットガールも安心してか、普通にフレンドと言った。
(友達か……)
朝会った時、ヴァイオレットガールは何も言わなかったのではなく、言えなかったくらいのことは分かったが。それでも、何かしらの言葉を掛けたくて、こうして改めて声を掛けてくれた。
ライバルでもあり、友達でもあり。
そうこうするうちに、オープニングセレモニーの時間がやってきた。
スタッフは専用スペースで、選手はシムリグのそばに立って。
ふと、龍一はヴァイオレットガールの方を見た。とともに、レインボー・アイリーンも視界に入る。
「……」
場内が暗くなる。司会が大会の始まりを告げる。音楽が流れてきて、徐々に場内が明るくなてくる。
この様子はもちろん動画配信サイトにてライブ配信されている。
シムリグのそばの選手の何人か、ヴァイオレットガールとレインボー・アイリーンに、龍一とフィチ、カール・カイサ、あのバリバリタトゥーのレッドヘアの選手や他数名が、跪いていた。
世の中には様々な理不尽がある。差別もまた一向になくなる様子はなく。それに対しての抗議の意を示すため、試合のオープニングセレモニーで勇気を振り絞って膝をついて、抗議の意を示すアスリートは多い。
それに倣い、ヴァイオレットガールたちも、この大会のオープニングセレモニーで膝をつく姿勢を見せたのだ。
……オープニングセレモニーが終わる。
選手たちはシムリグに身を預ける。ヘッドセットを身に着け、ハンドルを握り、ディスプレイをまっすぐ見据える。
龍一は大きく息を吐きだす。
世界大会だ。世界一を競い合うのだ。ディオゲネスのワールドレコードを競っていた時はアマチュアだったのが、今は……。
なんという人生の変化だろうか。
場内は静寂に包まれる。嵐の前の静けさのように。
ディスプレイはピット内で、クルーはコースを指さし、ゆけ! と指示をする。
それから画面がフェードアウトして、フェードインして明るくなれば。スターティンググリッドに着けていた。
ポールポジションはヴァイオレットガール、2番手グリッドにはカール・カイサ、3番手グリッドにはレインボー・アイリーン、4番手グリッドにはフィチ。




