Final ──決勝──
もちろん、スタッフが慌てて飛んできて諫めるのだが。
龍一は思わずギクッとしてしまった。遠い異国の地で、日本人は自分と優佳だけ。チームで来ていなければ、途方に暮れるばかりだったろう。
「すいません、ちょっと、お手洗いに……」
と、スペースを離れた。済ませるものを済ませて、戻る途中、ヴァイオレットガールと会った。
龍一を見て、手を振るのを見て、手を振り返した。と思えば、こっちに近付いてくる。
「Are you OK?」
ゆっくりと、そう話しかけてくる。そのおかげで何を言ってるのかはわかった。英語が苦手でもそれくらいはわかった。
「あ、ああ。うん……」
咄嗟に英語が出ず、もごもご何を言ってるのか自分でもわからなかった。
(って、心配してくれてる?)
アーユーオーケー? 大丈夫? ってことだ。平静を装っているが、お見通しのようだ。
ヴァイオレットガールも、咄嗟の日本語が出ず、言葉に詰まった感じだった。
(ど、どうしよう)
龍一はややパニック状態になってしまった。改めて、フィチの通訳のありがたみを痛感した。
他の人たちもいる中で、ふたり向き合っている状態だ。そのまま通り過ぎてゆくものの、
あいつら何やってんだ? と不思議そうにこっちに目を向けられもした。
ポールポジションを獲得し、優勝候補のヴァイオレットガールが、ドラゴンと無言で向き合っているのだ。
(ライバル心剝き出しで睨み合っているのか)
と思う者もあったとしても不思議はない。
(ど、どうしよう)
マスクをしているので口元が分からない。どうにか目を笑顔モードにしてはいるが、上手くいっているのかどうかわからない。
これで、どうなるんだ? と不安が増してゆく。ヴァイオレットガールは自分に何を伝えたいんだろう。いや、心配してくれて、励まそうとしてくれてるのかもしれないが。
言葉の壁を痛感しまくっていた。
ふと、ヴァイオレットガールは目を見開き、言葉を発した。
「と、トモダチ、ガンバルッ!」
「What?」
気が付けばヴァイオレットガールは肘を出していた。朝も肘タッチをするにはしたのだが。しかし変なところで英語で反応出来たものだが。
まさか、トモダチ、ガンバル、と言われるなんて。
(トモダチ、友達か……)
プロの試合でこんなフレンドシップでいいのだろうか。ある残虐系格闘ゲームで相手を殺さずにいたら、フレンドシップ! と言ってもらえるというのを、なぜか今ここで思い出してしまった。
それはさておき。
ヴァイオレットガールはずっと龍一を見つめている。照れくささを覚えるくらいだ。




