Final ──決勝──
レインボー・アイリーンは龍一に寄り添いスマホを掲げてセルフィーを撮る。
「これを、ショーンとアレクサンドラに見せるね」
(なかなかフレンドシップな。それに日本語上手いな)
けっこう練習をしたようだ。たどたどしくも意味はちゃんと分かった。
その様子を眺めて、ヴァイオレットガールやフィチたちは笑顔で頷く。
差し出されたスマホには、マスク姿ながら目を細めるレインボー・アイリーンと、やや緊張した感じの龍一が映っていた。
「じゃあね~」
レインボー・アイリーンは笑顔で手を振りテーブルに戻る。彼女はやっぱり彼女だった。
だがそのおかげで、龍一はやや心がほぐれて、優佳に言われた通りがっつり食った。食欲はあった。腹が減って仕方がなかった。なんせ昨夜は悔しさのあまり食事をとらなかった。
昨日の夕食は各自、自由なタイミングでレストランでとることになっていたが。龍一は部屋にこもりっぱなしだったのだ。
こんなことは人生で初めてのことだった。
スタッフ同士雑談をしている。
「コロナ禍が明けたら観光で改めてアイスランドを訪ねてみたいな」
そんなことを話していた。
感染対策でホテルとアリーナしか行き来できない決まりで、観光は厳禁とされていた。
優佳といえば、黙々と食事をとっている。普段はおっとりしている彼女だが、さすがに決勝の日を迎えて、緊張は禁じ得なさそうだ。
厳しめに言うのも、それもあるかもしれないと龍一は思った。
全体的にチームの雰囲気はほどよく重く、引き締まっていた。
フィチはある程度は慣れた感じで、リラックスしてビスケットを頬張り。野菜ジュースを喉に流し込む。
ソキョンは眼差しこそ鋭いが、その瞳は輝きも増している、
龍一は、自分を落ち着かせて、がっつり食った。あんまり腹がいっぱいになりすぎたら眠たくなることもあるが、フィジカル的なことを考えると、腹八分などと言わずにがっつり食った。
「終わり? じゃあ、行くわよ!」
全員が食事を終えたのを確認して、ソキョンはそう言い。先頭に立って、バスに乗り込んだ。
その姿はまさに、ボス、だった。
背中で語る。私についてこい! と前から引っ張ってくれるボスであり、リーダーだった。
チームのメンバーも、ソキョンの力強い姿に続いてバスに乗り込む。
警官役もヤクザ役もキメて演じる、あの韓国人ムキムキマッチョ兄貴俳優出演映画の中にいるような、心強さだった。
バスは出発する。
ほぼ同じタイミングで、チームヴァイオレットとPRID-eのバスも出発する。




