Final ──決勝──
ベッドに倒れ込んで「悔しい」をどれだけつぶやいたかわからないまま、いつの間にか眠っていて、目が覚めた。
「……」
龍一は何も言葉を発しない。何も考えない。
スマホが鳴る。優佳からだ。
「おはようございます」
その声を聴いて、少しほっとする。
「支度をして、レストランに来てくださいね。決勝です。食欲がなくても、無理やり詰め込んでください」
「ああ、昨日ショートメール返信できなくてすいません」
「いいですよ。でも、次はないと思ってください」
厳しめに言う。
優佳の性格からして、心を鬼にして敢えて言っているのがわかって、心にちくりと針を刺されたような痛みが走る。さすがに反省を覚える。
言われた通り身支度をして、ホテルのレストランに来れば。ウィングタイガーの面々が集まっていた。
他のテーブルではヴァイオレットガールのチームヴァイオレットや、レインボー・アイリーンのチーム、PRID-eも来ていて。
互いに手を振る。
検査をして全員陰性だったが、念のため座席ひとつ開け、テーブルの真ん中にはアクリル板が立てられていた。
窓から陽光が差し込み、朝日が心の氷を溶かしてくそうな感じがする。
「今日は決勝です。みんな死ぬ気でお願いね」
鋭い眼差しでメンバーを見まわし、ソキョンはけっこうなことを言う。プロチームだから当然のことだ。
朝食はバイキング形式で、みんなそれぞれ思い思いに自分の食べたいものを取ってくる。ビスケットが好きなフィチは、ビスケットをたくさんとってきていた。
「いやあ、バイキングにビスケットがあってよかったよ」
と、ご満悦そうだ。
その他スクランブルエッグやソーセージ、ポテトサラダ、オニオンスープに野菜ジュースなどなど……。
メニューを取りに行くと、ヴァイオレットガールがやってくる。マスクをしているが、目は細く、笑顔でいることがわかった。肘を出してきたので、肘タッチをする。
龍一は英語が話せない。ヴァイオレットガールも日本語が話せない。だから、余計なことは言わずに、
「今日はいいレースをしよう!」
と、笑顔で頷き合う。どこか照れているようにも見える。
(シャイなところもあるんだな)
闊達なアスリートガールな印象も持っていたから、意外な気持ちでもあった。
た。
ヴァイオレットガールは余計なことは言わず、手を振り、自分の席に戻っていった。
そのすぐあと、
「ちょっと、いい?」
と、たどたどしい日本語でレインボー・アイリーンが話しかけてくる。
「へ? ええ、いいですよ」
「一緒にセルフィー撮ってくれる?」
「え、セルフィー? ええ、いいですけど……」
「ありがとう、サンキュー!」




