Qualifying ──予選──
「Wow!」
「来ました、来ましたよ。ワールドレコード3位のレインボー・アイリーンが来ました!」
司会と解説が、レインボー・アイリーンの出した1分30秒800の表示を見て、感心して言う。
「カール・カイサとわずかコンマ001秒の差。レインボー・アイリーンが3位に上がりました」
「あ、フロントスポイラーをよく見れば『We love Shaun』と書かれているのが見えますね」
「ショーンは息子さんの名前ですね。インタビューでは、勝利をショーン君に捧げられるよう頑張りたいと言っていました」
「そうでしたか、素敵なことですね」
司会と解説がそんなやりとりをかわす。配信を視聴しているアレクサンドラは歓喜のガッツポーズをし、おまけにショーンのほっぺにキスをするという、まだ予選で3位なのにまるで勝ったような様子だった。
事態が読めていない幼いショーンだったが、母親からのキスは素直に喜んで笑顔を見せた。
PRID-e (プライド) のスタッフは、よし、もっと行けとハッパをかける。言われるまでもないとレインボー・アイリーンもペースを上げる。
「あらら、ちょーっと困った展開になってきたわねえ」
レインボー・アイリーンが3位に上がったということは、フィチは4位に下がったということだ。しかも龍一はまだペースが上がらず、順位は10位だ。
「もう、仕方がないわねえ……。そろそろ本気出さないと、本気で怒りますよ」
これに特にぎくっとしたのは龍一。フィチは慣れたもので、わかりましたと軽く流す。
(どうしたんだろう)
龍一もまさか2回目も様子見をする馬鹿はしない。タイムを出しにいってるのだが、思うようなタイムが出ない。自身の自己ベストの1分30秒777からも遠い。
ウィングタイガー視点から、幸いにも上位3位はタイムをさらに縮めることはできず、届きそうで届かないところで止まっている。
「プレッシャー、ですかねえ……」
「あるかも……」
優佳が言うことにソキョンは小声で反応する。龍一は何もかも初めてで異世界に飛ばされた気持ちになって、そこに試合のプレッシャーが加わり、本調子が出せないでいる……。ありうることではあるが。
「まあ龍一さんは新人でもあるし、多くを求めることは、今大会ではしないけれど。それでも調子が悪すぎれば……」
契約の更新は、ない。
プロの世界である。当然のことであり、龍一も承知の上だ。
期待されながらも振るわずプロの世界から去った選手は多い。




