New changes ―新しい変化―
フィチもカール・カイサも、ヴァイオレットガールもレインボー・アイリーンも、落ち着いたものだった。
「わくわくするね!」
6番と7番と、ふたりの女性シムレーサーもうまく並んだものだった。笑顔で軽く会話を交わす。
カール・カイサはシムリグに身を預け、龍一の方に向き、親指を立てる。
「いいレースをしよう。でも、負けないよ!」
無言ながらそんなメッセージが伝わる。龍一も笑顔を返し、親指を立て返し。
「いいレースをしましょう。僕だって、負けませんよ!」
と、目でそんなメッセージを送る。3番のフィチも、カール・カイサに笑顔を向け、親指を立て。次いで4番のシムレーサーにも振り向き、笑顔で親指を立て合う。
この予選の様子も動画投稿サイトにてライブ配信される。
ソキョンはあのコスプレコンビのチャンネルを覗いた。すでにライブ配信を始めて、チャットと楽しげに話している。
アイスランドと日本、韓国の時差は9時間。日本と韓国の時間が9時間先に進む。アイスランドは午前11時になる少し前、ということは、日本と韓国は夜、20時=午後8時になる少し前だ。
コスプレコンビはウィングタイガーのユニフォームを身にまとっている。コンビはトレーニングを欠かさず均整の取れたボディをしており、女性アスリートのようにも見える。
「フィチ、龍一さん、ふたりが観てますよ」
ソキョンはスマホを龍一とフィチに見せた。
仕事上の付き合いではあるが、お互い人間同士の人付き合いもできて、互いに親しみを感じていた。
「ウィングタイガー、ファイティン、ファイティン!」
ひとりが言えば、相方も、
「ウィングタイガーでワンツー! ファイティン、ファイティン!」
とにこやかに言う。
フィチも龍一も、照れと闘志を同時に覚えるのだった。
「よし、僕がポールで君が2位で、決勝もそれでいこう」
「おいおい、オレが1位でフィチが2位だろう」
「……うふふ」
軽く牽制と冗談を飛ばし合うふたりに、優佳は思わずほほえんでしまった。ウィングタイガーにチームオーダーはない。ふたり、切磋琢磨し合ってワンツーでフィニッシュできるに越したことはない。
「張り合いすぎて共倒れだけはしないでね」
ソキョンは笑顔でふたりを牽制する。牽制されて、ふたりは、
「はい」
と、苦笑まじりに返事をするのだった。
韓国ではコスプレコンビだけでなくフィチの両親も、日本では龍一の両親が、それぞれ予選の配信を観ようとテレビの前でスタンバイしていた。




