New changes ―新しい変化―
他のプレイヤーやスタッフとも、全部ではないが親指を立てるなどの挨拶を交わすこともあった。
シムリグに身を預けっぱなしも身体に負担があり、龍一とフィチはストレッチをして身体をほぐす。
「それにしても、すごいなこのシムリグは」
すぐにゲームに戻らず、改めてシムリグを眺める。シートのフィット感やハンドルの握り心地、大画面湾曲型ディスプレイの没入感。なにもかもが異世界に飛ばされたような気分になる。
「ほんとうの車より高いよ」
「ほんとに。オレの軽四より高いな」
「父さんも母さんも僕のシムリグの値段を知って驚いていたけど、これを見たら腰を抜かすだろうね」
フィチもシムリグを眺めて、そんなことを言い合う。
「レースで勝てば、買えるわよ」
ソキョンが笑顔で言い、優佳が訳す。そう、プロの試合なので賞金が出る。もっとも、チームに所属しているので賞金はチームに渡される。が、それに伴い順位に応じた臨時金や、1位になったら高めの勝利給も出る。その金額だってたいしたものだった。
両親はeスポーツのことを知り、賞金のことを知ったとき、ゲームの世界も王長嶋やカズラモスのようなプレイヤーがいて、多額の賞金が出るプロの世界が出来上がっているのだと、本当に驚いていたものだった。
ここに来て、龍一はそれも実感していた。
正午の休憩はきっちり1時間。目のコンディション維持のためにも、スマホも見ない時間をもうけて、きっちり休むことは必要だった。
シムリグにはフィチと龍一だけでなく、ソキョンや優佳らスタッフも腰掛けてその感触を確かめていたり、本戦に向けての話ばかりでなく、雑談もしたりして、時間を潰した。
「オレ、トモシビ推しなんだ」
「そうなんだ、僕はクミホーリ推しだよ」
などと、気になるポップアイドルグループの話に興じる。トモシビもクミホーリもあるファンタジーゲームのゲームキャラであると同時に、そのゲームキャラがポップアイドルとしてヴァーチャルアイドル活動もして、大人気を博していた。
「私はビアーサ推しよ」
「私はジャイヴァ推しですねえ」
「オレはセーラフェイン推しだな」
スタッフも交えてポップアイドルの推しの話になった。
そうこうして時間を潰し、ソキョンは腕時計を覗く。
「はいはい、それでは練習を再開しましょうね」
笑顔でにっこり言い。龍一とフィチも笑顔で頷き、シムリグに身を預けて、Forza Eを起動させ、走り込みを行った。
しばらくして、ヴァイオレットガールもレインボー・アイリーンも、シムリグに戻り、練習を再開し。それからまたしばらくして、カール・カイサもシムリグに戻って、練習を再開した。




