New changes ―新しい変化―
ソキョンは明日の予選のレース形式をスマホで確認する。予選は単独のタイムトライアルでスターティンググリッドの位置を決める。
「ここで、いろんな気持ちが弾けたんですねえ」
優佳はしみじみ言う。
このアリーナは今開催されているForza E World GPの他にも様々な世界大会が開催されており。eスポーツの聖地のような存在でもあった。
アリーナ周辺には、中の様子を想像しながら外でたたずむeスポーツファンの姿も見られた。
「パンデミックじゃなかったらなあ」
と、悔しそうに、アリーナを眺めながらつぶやく。
場面を中に戻し……。
「そうね」
ソキョンも優佳に少し反応する。
Forza E World GPの前に別のゲームタイトルの世界大会が開催されて、それは動画配信サイトでも配信されて、ソキョンも優佳も観ていたものだった。
会場入りして1時間ほど経って。場内放送で、ミーティングをする旨が伝えられる。
各自練習を一時中断して、シムリグから立ち上がり、会場の中央にたたずむ黒人男性の開催者に注目する。スーツをビシッと着こなし、まだアラフォーほどの見た目ながらそれ以上の年数を生きたような威厳を漂わせる。
「パンデミックの大変なときにこの大会を開催できたことは非常に嬉しい。協力者、参加者各位に感謝申し上げる」
うやうやしく一礼をし、まず感謝の言葉を述べた後。そばにいた白人女性司会者とアジア系男性解説者を紹介する。龍一は双方ともに知っている、女性はベルギー人で、男性は台湾系アメリカ人だ。ほかの大会でも司会者や解説者として活躍しているインフルエンサーだ。
英語を話しているので何を言っているのかわからないが、フィチが通訳を買って出てくれたおかげで何を言っているのかわかった。
ふと、参加者で日本人は自分だけなことに龍一は気付いた。それと、たくさんの参加者がいたにも関わらず、予選を通った者はわずか25名なことにも気付いた。
それだけ、嵐の難易度100%・ベリーハード一発勝負は厳しかったということだろう。
「率直に申し上げるが、25名が予選通過をしたのは予想より少し多かった。20名を切るかもしれないと思っていたからね」
笑い声が漏れる。ジョークなのか本気なのか測りがたいが、世界大会の予選として、狭き門として厳しめの設定をするのは道理ではある。
「でも、我が社の表現力も堪能してもらえたと思うが、いかがかな」
(AIの意地悪さも……)
おかしみと苦笑が入り混じる笑いが漏れる。




