Go over 100%! ―100%を超えろ!―
ともあれ、フィチ。AIカーに道を譲ってから、粘り強く追走する。それはラストラップまで続いた。が、もちろんゴールまでそのまま、というわけはなかった。
第1コーナーから猛然とプッシュし、インを突こうとする素振りを見せ、揺さぶりをかける。接近するにつれ水しぶきは増し、視界はさらに悪くなる。雷光が閃き、雷鳴が轟く。
AIカーはフィチの接近を察してラインをふさぐどころか、あからさまに減速して、意図的に接触しようとする。
すぐに減速してやりすごす。と思いきや、すぐにアウト側に回り。なんと大外刈りでアウト側からAIカーに並んだ。
「フェイクか」
龍一はぽそっとつぶやき。そういえば韓国にはエターナルキングとまで言われる、そんな感じの名前の凄腕プロゲーマーがいるなあとか考えた。
インから行くと見せかけて、アウトに回る。まんまと引っかかったAIカーは、今度はアウトに膨らみ接触してこようとするが。
それより先にフィチのマシンが抜き出た。視界が開ける。
第2コーナー、減速もそこそこにスライド気味に突っ込み、連続S字区間も抜けようとする。
いけるか。
誰もがそんな期待を込めてレースの成り行きを見守る。
連続S字区間を抜け、その次の右直角も抜け、同じ右直角の最終コーナー。追走を示すデルタマークが画面下に表示されている。AIカーはAIカーゆえに、コーナー入り口の減速で追突し、クラッシュに巻き込もうとするのだが。フィチもそれは承知の上。
インを閉めない。するとAIカーはインを突くのだが、そこで意図的にアウトに膨らみ、接触し、クラッシュさせようとする。
「これもフェイクか」
龍一は小さくうなる。
すぐさまフィチはアクセルを踏み込んで、ドリフト状態でカウンターを当て最終コーナーをクリアし。AIカーは置き去りにされ。メインストレートに入ればすぐに体勢を立て直し、フルスロットル。
鋭いモーター音が高まり。マシンはフィニッシュラインを越えて、ゴールした。
1st!
と、表示が出る。フィチの勝ちだ。
「おお、さすが」
龍一は思わずうなる。ソキョンも優佳たちも笑みを浮かべる。しかし、
「ダメです」
とフィチは真剣なまなざしで振り返って言う。
「勝ったといっても二回目のプレーで、です。これが予選だったら僕はリタイヤでした」
優佳の通訳で何を言っているのかを知り。勝利に浮かれず冷静さを保つフィチに、これがプロかと龍一は驚きを禁じ得なかった。
それもそうだと、ソキョンたちはすぐに真剣な表情に戻った。




