Go over 100%! ―100%を超えろ!―
(読書の力って、すごいわねえ)
ソキョンはフィチの来歴に思いを馳せる。子供のころはゲームに興味はなく、もっぱら読書が好きで本を読み漁っていたそうだ。
その範囲は朝鮮の英雄ホン・ギルドン(洪吉童)を題材にしたものや武侠小説、古今東西の名著や流行りのラノベやSFにまで及んだ。
「生きるべきか死ぬべきか」
「黙れ下種!」
などと、物語の登場人物になり切った遊びもしていたそうだ。
15のころ、友達がレースゲームをしてて、一緒に遊んだ。それを重ねるうちに、なぜか、開眼するものがあって、レースゲームをやりこむようになって。今に至る。
本から学んだことはたくさんあるそうだが。
「人生何があるかわかりませんねえ」
などと、まだ二十代前半なのに、そんな大人びたことを言うものだった。その一方で、闘争心が湧くと、ホン・ギルドンをはじめとした、本で親しんだ英雄豪傑が胸中に浮かび上がり、勇気が湧くのだという。
ソキョンは目の前に垂れた前髪を指でどかしながら、フィチの心の中のホン・ギルドンに思いを馳せた。
ともあれ、リスタートをしたフィチはAIカーを追走する。
「おっ」
連続S字区間の出口、インを開けた。咄嗟に飛び込み、そのまま抜き去った。抜き去るまでAIカーは何かを仕掛けたようだが、フィチはそのまま抜き去った。
ヒュー。と、男性スタッフのひとりが口笛を吹いた。
(AIカーはクラッシュに巻き込むために、わざと隙を見せるときがあるけれど。それは抜くチャンスでもあるのよね)
フィチは上手く機会を生かした。このテクニックや機転あればこそ、チームに招き、プロとして活動出来ているのだ。
だが引き離せない。AIカーは猛然とフィチに迫る。スタミナを考慮しなくてもいいから、もう初っ端からイケイケだ。
その間に、龍一の方ではフィニッシュする。
2位。と言っても、1対1の勝負なので、負けだ。それも2周遅れ。
ただ優佳とソキョンたちはその様子を笑顔で眺めていた。
「途中で投げ出さずに完走したのは、とても大事なことですよ」
優佳は笑顔で言い。ソキョンたちも笑顔でうなずき。龍一は照れる仕草を見せて。
「そ、そうですか。ありがとうございます」
と、答えた。
とはいえ、大雨の設定で100%ベリーハードのAIカーを相手にレースをするのは疲れる。龍一は休憩してよいか尋ね、ソキョンはこれを許可した。
「フィチはスタミナあるんだな」
「フィチ選手はトレーニングもしてますからね。プロだからフィジカルも大事になるんですよ」




