Go over 100%! ―100%を超えろ!―
優佳は満面の笑みを浮かべ、それを韓国語に訳せば。ソキョンたちもそうですと笑顔で頷く。
ピットアウトしたとき、AIカーは連続S字区間にいて距離が空いていたから、貸し切り状態で淡々と周回をこなすかたちになった。
フィチといえば、じっくりAIカーを追う一方で無理はしない。急ブレーキをで追突させようとする素振りは見せるが、それは承知のことなので上手く対応し、車間距離を保ち。機会をうかがう。
ソキョンたちも余計なことは言わず、じっとレースの成り行きを見守る。
(しかし、雨はやっぱり難しいもんだ)
距離が空いて単独状態とはいえ、難しいコンディションだ。視界も悪い、路面も滑りやすい。コントロールも難しい。慎重さが求められる。
(結局これも自分との戦いなんだなあ)
あっ、と思った。
マシンは連続S字区間の最後の右コーナーでの立ち上がり。リアが流れる、オーバーステアだ。咄嗟にカウンターを当て、大振りドリフト状態で右コーナーを抜けざるを得なかった。しかし次の右直角コーナーまでの区間で体勢を整えられず、やむなくブレーキを踏みこんで止まりそうなほど減速せざるを得なかった。
「う!」
どん、と後ろからぶつけられる衝撃。おたおたする間に差を詰められ、しかもわざわざぶつけられた。
(なんて野郎だ!)
それからAIカーは真っ白な車体を見せつけ、走り去ってゆく。
(ちきしょう。今に見てろよ)
今はじっとこらえて。今に見ろ。と、AIカーに念を向けながらレースを続行する。
「ああ」
フィチが思わず声を上げた。最終コーナーの入り口で、追突させられてしまったのだ。
2台のマシンは吹っ飛び、フェンスに激突し。タイヤが明後日の方向を向くほどの大破。
FATAL DAMAGE!
と、赤い字が表示される。
「すみません……」
フィチはため息をつき、ハンドルのボタンを押してやむなくポーズをする。
「やっぱり100%ベリーハードは難しいわね……」
ソキョンもため息をつく。
ミスをしない走りに加えて、あからさまでえげつなく、かつ巧妙な妨害。よくそんな風にしたものだ。
と、男性スタッフが漏らしたが。
「でも、その方が闘志が湧きます」
フィチは笑顔で答えた。不思議なもので、ムカつきはするものの、闘志が湧き。勝った時の嬉しさは一段と高い。
「休憩する?」
「いえ、リスタートします」
「そう、頑張ってね」
パッと見普通の男の子のようなフィチだが、その心根はファイターだった。クラッシュに巻き込まれて、闘志がさらに燃え上がったようだ。




