表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sim Racing Novel Faster Fastest  作者: 赤城康彦
20/99

Battle against myself ―自分との戦い―

「じゃ、僕もこれにて。あとでメールするから、読んでくれ」

「あ、ああ。わかった」

 フィチはボイスチャットをオフラインにして。龍一はヘットセットを外し、椅子から立ち上がって軽くストレッチをする。

「……」

 腕を、アキレス腱を、背筋を伸ばし伸ばしして。身体をほぐす。ほぐしながら、さっき見たヴァイオレットガールとレインボー・アイリーンの走りが脳裏に閃く。

「やるか」

 ゲームをオンにして。メニュー画面からタイムトライアルに入る。

 ディオゲネスの市街地コースを走る。走って、走って、走りまくった。ひたすらひた走った。

 しかし……。

 タイム表示は無情にも赤。

「くそ」

 つとめて冷静になろうとするが、赤い数字につられて自分の目も赤くなってゆきそうだった。

 1分31秒の前後を行ったり来たりし。777を越えることが出来ないでいた。

 部屋の隅に置いている時計はちくたく時を刻み。

「あ……」

 気が付けば22時を回っていた。

「何時間もプレイして、自己ベストも更新出来ねーのかよ」

 やむなく観念して、ゲームをオフにし。電源も切る。

 このまま闇雲にプレイしても時間の無駄だ。それに、やりすぎは身にも心にもよくないし、ゲーマーとしての良識にも反する。

 明日も早いし……。

 ……じわ。

 と、目に涙が浮かぶ。

 立ち上がって冷蔵庫の缶コーヒーを一口飲む。

「自分に勝てないのが、こんなに悔しいなんてなあ」

 思わずため息をつく。

 それから、一気に缶コーヒーを飲み干した。

 冷たいコーヒーが火照った心身に心地よかった。それでも目に滲む涙は抑えられなかった。


 翌日からしばらくも、タイムトライアルを頑張ったが、どうにも更新ならず。悔しさは晴らせなかった。

 しかし、さすがにこんなことばかりもしんどくて飽きてくるし。気晴らしにForza E以外のレースゲーム=シムレーシングもプレイした。

 他に好きなのはラリーマスターズというラリーを題材にしたゲームタイトルだった。

 このゲームタイトルにもタイムトライアルモードはあるが。それはせずにカスタム本戦モードの、一番簡単な、難易度0%のベリーイージーで、ヴァーチャルな勝利をつかみとって。思う存分気晴らしをしたものだった。

 目をとんがらせて限界に挑むばかりがゲームじゃない。時にはそんな気晴らしも必要だ。


 そして、日曜日。

 コロナ禍の中、世の中色々ありつつも、龍一はどうにか生活出来て、シムレーシングも出来ていた。

「オレは恵まれている方だなあ」

 とつぶやく。

 自分やライバルに勝てない悔しさばかりでなく、恵まれていることを謙虚に感謝しなきゃと、自分に言い聞かせる。これも自分との戦いだ、と。

 朝起きて、身繕いをして、朝食を食す。

 さて今日はどう過ごそうか。などと考えるまでもない。

 打ち合わせだ。

 韓国のeスポーツチーム「ウィングタイガー」のメンバーとして、朝10時からフィチやチームスタッフとビデオチャットで打ち合わせをしつつ、Forza Eの大会に向けて練習しなければいけない。

 そう、龍一はプロゲーマーとして、新たなスタートを切るのだった。


Battle against myself ―自分との戦い― 終わり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ