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3 息子の独白(1)

()内は心の声です。

 ありえない話だとは思うが、俺は人の心が読める。

 物心がついたときにはすでにこの能力を持っていた。

 まわりも同じだろうと思って生活をしていると、幼稚園の頃に、何度か多少気持ち悪がられるような経験をした。

 人の心を読めているみたい、と言われたとき、普通は人の心は読めないのだと気づいた。


 そこからは、どうにかしてこの能力とうまく付き合っていこうと、必死に身の振り方を考えた。

 大人の心情も読めてしまう俺は、小学校に入る頃には、大人が思う子供はこうであるべき、という規範にのっとって行動し、この能力をうまく隠して生きることができるようになっていた。

 自分で言うのも何だが、子供にしては少しスレた子供に育っていたと思う。大人の考えが常に脳に流れ込んでくるので、仕方がないのかもしれないけれど。


 ちなみに、両親にこの能力のことを伝えるつもりはない。両親が俺に対して常に気を使って接しなければいけなくなるのも嫌だし、何よりばれたときにどう思われるかが不安だった。

 ここではこれ以上深く俺についての話はしないが、とにかく俺はそういった能力を持っている。


 俺の両親はいっつも喧嘩ばっかりしているが、俺からしてみれば砂糖を吐きそうなほど甘々な内容だった。


「なんで私と話してるのにその女の人の話ばっかりするの?」


「いや、今書いてる小説の取材にいったときに、たまたまそのお店の人と仲良くなって、それがちょっと嬉しかったから……」


「ふーん、その人と会話が弾んで、おまけでデザートを御馳走してもらって、楽しそうで何よりね」


「ごめんね、他の人の話ばっかりしちゃって。どうすれば許してくれる?」


「どうすればっていうのは、その……」


 母が悩んでいると、父は正面から母を抱きしめた。


「君の気持ちになって考えてあげられなくてごめん。次からは、あんまり他の女性の話はしないようにする」


 母は顔を真っ赤にして、蕩けたような表情を父の首元にうずめて隠す。


「ーー!!……知らないところで女の人と関わってるのは嫌だけど、束縛はしたくないから、できるだけ私に話して。知らない人と会ってるのを知らない方が嫌。ーー話せないようなことさえしなければ、大丈夫だから……」


「するわけないだろ。僕には君しかいない」


 思い出しただけでも砂糖を吐きそうだ。心の声が聞こえている俺からすれば、喧嘩を始めた段階からイチャイチャが始まっているようなものだ。

 ちなみにこの時の母の心の声は、


(こんなに怒ってごめん、本当は、知らない女の人の話をされると不安になる……)


 というものだった。父にハグされたときなんかは、


(すきすきすきすきすき……)


 と、甘えた声で永遠に呟いているので、僕は頭を抱えて耳を塞いでいた。耳を塞いでも聞こえてくるから意味はないけど。

 どうして両親の色恋沙汰を見させられなければいけないのか。ある意味拷問のようだった。


 そして、一通り母が感情をぶつけ、いつものように仲直りをしてイチャイチャした後。母はその日の夜に時々、寝床を抜け出してアトリエでひっそりと泣く。

 夜中、トイレに行こうと思った俺がアトリエから母の心の声を聞いたとき、何事かと思って気づかれないように近づくと、母はうずくまりながら泣いていた。


(こんなに怒ってばっかりいたら、彼はいつか愛想を尽かしてしまうかもしれない。彼はずっと、しんどい思いをしているのかもしれない。私は、いない方がいいのだろうか……)


 俺は父の心の声を聞いて、愛想を尽かすわけはないと知っているし、めんどくさい彼女をとても愛おしく思っていることも知っている。そうでなければ、あんなに喧嘩ばっかりで結婚しようなどとは思っていないだろう。

 息子から心配されたことを気に病んでさらに自分を責めることになっても嫌だし、父がいる限りは母のメンタルケアは父に任せておいて大丈夫かと思ったので、とりあえずその日はそのまま自分の部屋に帰って眠ることにした。

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