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暇になった

 嫁いで思ったことランキング第1位【暇】



 まだこちらに来て数日しか経っていないのだが、めちゃめちゃ暇だ。

 学校はもちろん無いし、仕事もない。


 しかも家事はだいたいケイトさんがやってくれる。



 そう、ケイトさんも暇なのだ。干されているので。


 ケイトさんと新婚さんぽいこと…デートみたいなことをする訳でもない。

 となると本当にすることが無い。


 現実だったらスマホを見たりテレビを見たりもできるけど、ここには無い。

 自分の爪も見飽きたので、天井の木目であみだくじをしてみた。



 飽きた。



 家事はケイトさんがしているのに、私は働かずに家でずっとぼーっとしている。

 私はニートになったのか?



 どっか出かけようかな…

 散歩程度でいいから出かけたいな、とは思いつつも、道が分からなくて諦めていた。


 が、もうそんな事言ってられないくらい暇。

 近所だったら迷子にはならないだろうし…



 一階に降りるとケイトさんの姿はなかった。

 ということは部屋で何か作業をしているのかな。

 私たちの部屋は別々だ。


 どちらかが言い出した訳でもなく、なんとなくというか、流れ的にというか、気づいたら別々の部屋だった。


 いや、絶対に一緒の部屋が良かったわけじゃないけど…


 結婚から始まる恋もあるんじゃないかと少し期待していた。

 今のところ恋が始まる気配はない。

 なんか、夫と暮らしてるという感覚よりも、イケメンの友達とシェアハウス(家事付き)してる方が近いかもしれない。

 家事をしてもらってるだけで本当にありがたいんですけどね…けどね……



 彼の作業を邪魔しないために、直接声をかけずテーブルに書き置きを残しておくことにした。

 夕飯までに戻ってくれば問題ないだろう。


 ふと、テーブルの上に何冊か本が置いてあることに気づく。ページをめくるとそれらは全て地図だった。しかも私の家と思われる場所に印が書いてある。


 地図さえあれば道が分からなくても帰って来れるじゃん!



 ちょっとウキウキしながら折りたたみ式の軽い紙地図を持って玄関を出る。

 すると、庭の端の方に外壁に立てかけた自転車があった。

 ところどころ錆びついてはいるものの、問題なく乗れそうな見た目をしている。自転車は人々や街並みの雰囲気と相反して現代にありそうなやつだった。



 こういうのを見ると思うけど、やっぱりここはゲームの世界なんだなぁ…

 半分は中世の雰囲気を残しながらも、その他は現代と変わらないようなものが置いてあったりする。

 例えばうちのキッチンは普通にガスコンロだった。


 そして自転車はロックがかかっていなかったのですぐ乗れた。

 ワクワクしながら漕ぎだし、とりあえず右に曲がってみる。

 新鮮な気持ちだけど、きっといつかこの道が当たり前になるのかな。


 まさかこっちでも自転車に乗れるとは。

 基本的に遠すぎなければ移動は自転車を使うし、高校への通学も自転車、隣の区くらいまでなら自転車で行ける。

 そういえば昔、隣の隣の隣の隣の隣の区まで自転車で行ったことがあった。あれは地獄だった。


 なんて考えながら漕ぎすすめると、繁華街に入った。

 人も増えてきた繁華街を自転車を押して歩きながらキョロキョロと周りの風景を見る。


 「そこのお姉さん可愛いね!ピザ安くしちゃうよ!」


 ピザ!?

 反射的に振り返ってしまうと、ピザ屋さんと思われるお兄さんが客引きをしていた。

 た、食べたい…

 けど、けど…今は散歩に来ただけだから…

 また今度……

 さよなら……ピザ………

 美味しそうなピザに別れを告げた数秒後、私は本屋の脇に自転車を停めて、週刊誌の表紙を見つめていた。


【ケイト王子(20)電撃結婚の裏側!】


 ケイト王子って、あのケイトさんのこと…

 本屋さんの店の外側には本が並んだ棚があり、そこで数人が立ち読みしている。

 本屋で立ち読みをするのも、週刊誌があるのだって世界が変わっても一緒だ。

 週刊誌を買う気は無いので、ありがたく立ち読みさせてもらうと、独自の取材や王室関係者の話らしいことが書かれていた。




 「ケイト王子はその美貌からかモテモテで、末っ子で自由に育った為に女をたぶらかし放題でした」

 そう語るのは王室関係者のA氏。

 「王子は女性と取っかえ引っ変えの交際を続けていらっしゃったのですが、ある日王様が「そろそろ心に決める女性と出会いなさい。結婚するまではうちに帰ってきてはいけない」と言って城を追い出したそうなんです。」

 そして数日後に戻ってきた王子は性格が変わっていたと語る。

 「今まではあまり作法がなっていないというか、好き勝手自由奔放だったのが見違えるように丁寧になっていたんです。しかも結婚相手を決めた状態で。」

 相手の名前を聞いた城の者たちはたいそう驚いたという。

 「隣国のあのシャルル家のご令嬢です。ご令嬢は悪評高いですし、この前婚約破棄されたばかりだというのに何故あんな娘と結婚したのでしょう。甚だ疑問ですが、まぁテキトーに名家の人と結婚してさっさと城に戻りたかったのではないでしょうか。」

 関係者の間では、ケイト王子のお心変わりの理由が専らの話題だそうだが、父である王の態度を受け反省して心を入れ替えたのだろうか。それとも、しばらくしたらまた夜の街にでも繰り出してしまうのか。




 記事はここで終わっていた。

 なんか、いい気持ちはしない文だった。


 そもそも関係者って誰だよ。関係者ならそんな簡単に話すな。


 女遊びが激しかったのは知ってたけど…なんだかなぁ…

 なんでケイトさんの性格が変わったのかは知らないけど、最後の文はいちいち余計だろ。




 ……私ってテキトーに決められたのかな。


 ……ただ城に戻りたくて結婚しただけなのかな。


 実際お城には戻れてないし、家事をやってくれているのにケイトさんのことをそんな風に思ってしまう自分にモヤモヤする。


 まあまあまあ、週刊誌の内容って本当かどうかもわからないし、ね。


 さっ帰ろ…あれ、自転車が無い。

 さっき停めたはずの自転車は見当たらない。

 パクられた…?

 そういえば私、自転車の鍵かけてなかった。

 ……

 ……

 ……

 ……

 ……

 私悪くないもん…

 日本だったら鍵かけてなくても盗まれないもん…

 2時間くらい鍵かけないで放置したこともあるけど盗まれなかったもん…



 しょうがないから歩いて帰るか…

 待って地図は?



 …自転車ぁぁぁああ!


 どうしよ、歩いて帰れるかな…?

 さっきまでウキウキワクワクしてたのが嘘のように、この短時間で一気にテンションが下がった。


 「よぉ姉ちゃん、可愛いね!」


 あ、すみません。テンション低いのでピザは今はいらな…


 「俺とお茶しようよ」


 チャラそうな男が私の目の前にいた。

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