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記憶喪失ということになった

「アリエッティ様…」


 誰かの声が聞こえる。


「起きてくださいアリエッティ様」


「ほえ?」


 侍女が馬車の外から覗き、私を起こしている。


 アリエッティ様?


 一気にその言葉で昨日の記憶が蘇る。


 おい待ってくれよ。


 夢じゃなかった…


「ご自宅に到着されましたよ。お降りになってください」


「あ、うん。ごめん。ありがとう」


 侍女に驚かれながら馬車を降りると、とんでもなくデカい屋敷が目の前にあった。


 これが自宅…?


 テーマパークとかでしかこんなバカでかい家など見たことがない。


 さすが令嬢。


 そんなに要らないだろと思うくらい高い門をぬけ、だだっ広い庭を通り、私の家全体よりも広い玄関にたどり着くと、従業員のような人達と派手な服を着た親と思われる2人がズラっと揃っていた。


「アリエッティ様…大丈夫ですか?」


 従業員の中で一番前にいた侍女が心配そうに声をかけ、私の両手を握る。


「あ、誰…?」


 ザワっとした反応にしまったと思った。知らない人に両手を握られることがなかったので少しびっくりして心の声が漏れ出てしまったけど、誰?は失礼だよね。今度から気をつけないと。


「た、た、た、大変ですわ!旦那様!」


 急にみんなが慌て出すのでこっちも慌てる。


 覚えてるから!一生懸命覚えてるフリしとくから!落ち着いてください!


「ああ、アリエッティ…」


 この人が旦那様…


 なんか富豪の旦那って、金属をジャラジャラつけ、美味しいものを食べまくって体が肥えてるみたいな勝手なイメージだったけど、この人はシュッとした、シワも魅力的な、余裕のあるイケオジみたいな感じ。


 隣のお母さんもドレスが似合う細いスタイルで、美人だ。


「だ、大丈夫だよ!お、お父さん…?」


「お、お父さん…?! 」


 凄くびっくりされている。


 絶対これ間違えたパターンだ。



 令嬢って親のことなんて呼ぶのよ!


 お父さん・お母さんが違うなら、父上・母上?

 ちょっと古いか…

 普通にパパ・ママかな?

 いや、パピー・マミーって呼んでた友達もいたし、下の名前で呼んでる可能性もある。


「パパ…?」



「パ、パ、パパパパパパ、パパァ?」



 最後の方は声が裏返っていた。


「これは大変だ!すぐに医者を呼ぼう!」


 えええ!


 ということで、私は婚約破棄のショックで記憶喪失になってしまった。ということになった。


「特に異常はありませんが、精神面的な影響で記憶喪失になったのかもしれません」


 大きな髭を蓄えた凄そうなお医者様が言っていた。

 残念ながら記憶喪失ではないのだけど。


 ちなみに正解はお父様・お母様だったらしい。

 確かに令嬢なら様をつけて言いそうだけど、庶民には親に様をつける文化はないので。


 しかし、記憶喪失のおかげで色々な情報を当たり前のように聞き出すことができた。


 私はアリエッティ・シャルル、16歳。長い歴史を持つシャルル公爵家の一人娘。公爵がどういう立場なのかよく分からないけど、なんか偉めの人らしい。


 アリエッティは蝶よ花よと育てられたおかげでわがままな性格最悪女になったと思うのだけど、婚約者を待ち伏せしたり、婚約者と仲が良かった学園の女の子をいじめたりなど、なんか悪いこといっぱいやっちゃってさっき婚約者に婚約破棄され学園も追放になった。


 侍女は「さすがに婚約破棄は酷すぎますわ!」となぜか怒っていた。

 なんかありがとう。


 婚約までしておいて破棄するのは酷いけど、婚約したのは10歳の時らしいので仕方ないのではという気持ちにもなる。


 私と同じ16歳でもう結婚の話とかこっちの人は大変だなー。


 私は婚約者どころか彼氏すらいないし。


 記憶喪失ということに周りの人は驚いていたけど、同時に私の性格が変わったので従業員たちはなんか嬉しそうだった。


「アリエッティ、こんな状況で言うのもあれだが、聞いてくれるかい?」


 ベッドの横でお父様が真面目なトーンになる。


「お前が婚約破棄された時、シリウス様を侮辱したそうじゃないか」


 そういえばそんなことも言ったような気がする。


「一国の王子を侮辱したと社交界で話題になっているんだ」


 あの人王子だったんだ…


 どう考えてもあの人より龍人の方が王子だと思うのだけど。


 しかもファンだけの印象ではなく、一般の人からも王子というイメージは浸透していて、テレビでもよく甘い言葉の無茶ぶりを振られたりするのだけど、毎回その言葉にキュンキュンさせられる。



 はぁ、好き…




「と、まあ厳しいことも言ったが…」


 厳しいこと言われてたんだ。


 推しのことしか考えてなくてごめんね、お父様。


「アリエッティが私たちのことを忘れても、私はアリエッティのことを愛しているよ」


「お母様も愛しているわ」


 娘に激甘な親だった。


「お母様じゃなくてママじゃないか?」


「じゃあ、あなたはパパね」


 うふふ、と、2人は見つめ合い手を重ね合わせている。


 子どもの前でイチャイチャしだした親を遮るように布団をかぶり眠りについたのだった。

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