上り、下り
はあ、もう勘弁してくれよ……
なんでみんな俺に言うんだよ……
知らねーよ! 俺はただの職員だぞ?
そんな苦情を俺に言って解決するとでも思ってんのか? 馬鹿じゃねーの?
やれ線路脇に頭が転がってるだの、シートに血がこびりついてるだの。線路からホームに上がろうとするババアが怖いとか知るかよ!
どいつもこいつも文句ばかり!
黙って乗ればいいんだよ!
お前らどうせ他に行くとこねーんだろ!?
あーイラつくわー。
さっさと乗れ! 乗らねーんなら帰れよ!
帰れるもんならな!
あーもー、ホームに人が溢れ過ぎて何人か落ちたじゃねーか! マナーも知らねーのかよ!
きちっと並べよ!
下りには乗りたくない? 上りに乗りたい?
馬鹿か! 好きにしろよ!
上りの切符買えばいいだろ! 買えるもんならな。
ホームから落ちたらどうなる?
知るかよ!
気になるんなら落ちてみろよ!
二度と上がれねーけどな。
あーイラつく。
あ? 切符代がない?
あーあ。終わったね。可哀想に。金がない奴は客ではない。だから容赦なくホーム下へ蹴り落とす。
さーて、そろそろ下りが出発するな。未練がましくホームで突っ立っている奴もいるけどさ。帰れねーんなら乗るしかねーんだよ! いつまでもそんな所にいられちゃあ邪魔なんだよ! やはり蹴り飛ばして下りに乗せる。
ふぅ、だいぶホームがすっきりした。
そしてドアが閉まる。
運転手のアナウンスが聴こえる。
「お待たせいたしました。地獄行き、発車します」