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97 最善、最悪

善が本当に命を落とし、仲間達は悲しみに包まれていた。そんな中、目を覚ました主人公は…


 〜 松林半島自宅 〜


 『悪』が倒された以上、善さんが何らかの形で、再び存在する事は難しいとシャクシさんは言った。しばらく皆んなで話し合ってみたが、きちんと火葬して、お墓を建ててあげようという事に決まった。


ボクとしては、あの時の様に、意識体として戻りそうな気がしているのだが、あれは『悪』がまだ存在していたからだと、またシャクシさんに言われてしまった。意識体となれば、また何らかの方法で蘇ると思ったが、今回はそうもいかないみたいだ。


 善さんの『種子』だが、体内より外に出てきたらしく、今はシャクシさんが預かっている。『悪』から奪った何者かが双子ならば、その『種子』はその対となる人物の元に消えて行く事になる。


 善さんの葬儀は明日昼から行われる事になっている。川上さんが街で火葬まで手配してくれた。


 あの戦いが終わってから、川上さんを支持してついてきた、元マツバコーポレーションの組織員達は、彼女の下で街を復興させる為に活動し始めていた。他所の街からの移住者も、かなりの人数が集まりつつあった。


しばらく前までは、瓦礫と化したボク達の家の周りも、今はあちこちに建設中の家が目立ってきている。中央部は特に賑やかになっているそうだ。まだ行く気にはなれないので、実際には見ていない。


 ボクが目覚めた時に聞いた、世界各国の主要都市が廃墟となった事件だが、ボクが意識を失っていた日数も入れて、三日程で収まり、それ以降変わった事も起きていない様だ。


せっかく組織の転移装置を破壊したにも関わらず、世界規模での被害が出てしまった。あの影が誰なのか気になるところだが、見つけたとしてもボクには全く勝てる気がしない。あの時の大爆発で、空気がピリピリした感じが、ボクに危険を知らせている様だった。


「そろそろ外に出る気になった?お日様に当たらないと、本当に病気になっちゃうよ稜くん。」


「うん…、まだ立ち上がるとフラつくんだよね。落ち込んだりしてないから、大丈夫だよ。仕方のない事だってあるしね。」


 洋子さんの心配に答えた通り、実はそこまで落ち込んではいなかった。勿論、善さんの死は凄く悲しい事だ。だが、倒れた時に、確かにショックはあったと思うが、倒れる程のものではなかったと、自分で認識していた。戦いの疲れからだと思ったが、気を失うのはおかしいと感じている。


 コンコン…。ガチャ。 「稜、ちょっといい?」


 ボーっとしてたところに、ドアをノックして部屋に入ってきた母。ボクが病気にかかっていないか調べてくれていたはずだ。ボク自身からモヤが出ていない事で、病気では無いと分かっているのだが、母の気が済む様にしてもらっていた。


「倒れた時に血液を少し採取していたんだけど、調べたところ何かが混じっているみたいなのよ。私も見たことがないから調べてはいるんだけど、お手上げなのよ。ウィルスの類だと思うけど、どれだけ書物を漁っても分からないのよ。」


「それが倒れた理由になる可能性があるって事?今のところフラつくだけだよ。」


 余程必至に調べてくれたのだろう。目の下に隈を作り、髪が凄くボサボサだ。自分の健康管理もきちんとやっているのか、逆に心配になる。洋子さんがそんな母の髪に櫛を通してくれている。


「あ、ありがとう洋子…、あぁ、えっと、それは多分違うと思う。害を及ぼす様な感じではないのよね…。ウィルスかどうかも分かんないしね。私がそう思っただけだからね。ただ、未知の物が血液に混じってるのは確かよ。それを一応伝えておきたかっただけ。」


「あ、うん、ありがとう。お母さんもちゃんと食べて、しっかり睡眠とってよ?ボクもちゃんと元気になるからさ。」


 ほとんど寝ずに調べてくれたであろう母にお礼を言って、本心から出た言葉をかけた。母は苦笑いしながら、『じゃ。』と短く告げて出て行った。


 母にああ言った手前、自分が元気にならないといけないので、洋子さんにお願いして、あの島に連れて行ってもらった。


 〜 島 〜


 転移してもらい島に着くと、相変わらず天気も良く海も穏やかだった。木陰を指差し洋子さんとそこに座った。そよそよと海から吹く風が気持ちいい。ぼくはその場で、仰向けになって空を見上げる様に寝てみた。


「洋子さんも寝てみたら?気持ちいいよ。ここはいつも温かいね。」


 そう言ったボクの言葉に、洋子さんからの返事は無かった。機嫌でも悪いのかと洋子さんを見ると、島の端辺りを見ている様子が伺えた。ボクも気になり上体を起こして顔を向けた。


 洋子さんが返事をしない理由がそこにあった。笑いと怒りが半々の顔と、左右で合計四本の腕。頭に毛は無く、全身の色が青。着物は何も付けておらず、人間の男女の特徴が無い生き物がそこに立っていたのだ。


 絶対にこの世界の生き物では無いと分かる。誰だって分かるはずだ。顔が縦に割れた様に半々の表情を持っている為、笑っているのか怒っているのかまるで分からない。その生き物がこちらをジッと見ているのは分かる。そして、音声なのか機械音なのか理解出来ない音を発してきた。


《□♯○☆♢♯▽■□▲!!……。》


 その音に思わず耳を塞いでしまった。耳の奥が痛いと感じる程の高く大きな音だった。しかし、何か話している感じにも取れる。


 その音が鳴り止むと、謎の生き物が四本の腕で顔をペタペタ触って、『グルルル』とも聞こえる唸り声をあげていた。


「洋子さん、大丈夫?ボクの後ろに隠れてて。」 「はい…、稜くん。」


 そのボク達のヒソヒソ声が聞こえたのか、ボク達に再び視線を向けて首を傾げる謎の生き物。そして、気持ち悪い物を吐き出しながら、再度うめき声を発していた。


「☆♢♯○◆…、ガッ…、☆♢ゴッ…、エッ、ごぉぇっ!ゲホゲホ…、うぅ〜。あ、あ〜あ〜。なるほど。」


 またあの音を出したと思ったら、急に言葉を口にしたので驚いた。とっさに塞ぎかけた耳が少し痛くなっただけだ。何やら喉を押さえて首を傾げている。考え事でもしているのだろうか。


「あ〜、驚かせたな。ん、ん、んん。喉を震わせないと音が出んのか…、不便だな。まぁいい。おいお前達……、ん?お前はあの時の…。」


 ちゃんと言葉を話しているが、何を言いたいのか全く分からない。敵なのか味方なのかさえ分からない。警戒しておいた方がいいだろう。


「こ、言葉が話せるみたいだから、言うけど、な、何が目的だ!」


 少し声が上ずったが、緊張すると毎度こうなるので気にしない事にした。言葉を話せるなら、一応理解も出来るはずだ。そう思って目的を聞いてみた。


「ん?目的か。既に始めている。世界の終わりをな。ここの生き物達は、我々の作った決まり事を破った。だから破壊を始めた。既に生き物が多い場所は破壊した。」


「は、破壊って、ま、まさか世界の主要都市での大爆発の事か?あれはお前達が…。」


「あぁ、そうか。まだ我々の事を知らない様だな。この世界の決まり事を作ったのは我々だ。この世界には無いチカラも与えてやった。そうそう、お前が死にかけた場所…『無界』も我々が作った。」


 ボクの質問に答える訳でも無く、自分の事を語り出す謎の生き物。そしてその内容が、何か引っかかるのだが確信が持てずにいる。ボクは少し質問を変えて聞いてみる。


「さっきから我々って言うけど、他にも仲間がいるのか?それに死にかけた場所?」


 色々考えたせいか、少し緊張が解けてスムーズに話せた。


「我々はここにいるが?先程から我々が話している。」


「何を言っているのか分からないからさ、もう少し詳しく話してくれないかな?」


「意外と判断能力が低い生き物なんだな。我々は二人で一つの生命体だ。私は『最善』だ。そして私が『最悪』だ。二人で話している。理解出来たか?」


 二人が一つの身体にいると言う事か。声が同じなので全く分からないのだが。しかも『最善』と『最悪』とは。こちらの『善』と『悪』に似ている。


「あぁ、そうだ。この世界の『善』と『悪』は我々が作った決まり事の一つだ。『種子』と名付けて、我々と同じ対の存在に与えた。しかし、お前達が短くして死ぬとは知らなかったからな。決まり事を更に作った。対の存在にしか資格を与えないとな。それを今回破ったから、我々が破壊している。」


「破った?決まり事?…。『種子』と決まり事を作ったのがお前達で、『口伝』とされているそれを破ったから、災いをお前達がもたらしに来た?そういう事だな?」


 全てでは無いが、少しずつ理解出来ている気がする。しかもコイツはボクの思考を読んだと思われる。考えていた事の答えをくれたのが証拠だ。


「あぁ、そうだ。『口伝』か。我々が初代の『善』に残させた書を見たのだな。そして、お前のその能力は、我々が与えたも同然だ。『無界』で死にかけたお前に更なる能力を与えたはずだ。我々の体組織の一部を使ってな。お前達の言う『血液』という物に混ぜた。」


 どうやらコイツが言う『無界』とは、『虚無』の事らしい。そして今の内容で、母が言っていた血液中にいるウィルスとは、コイツの体組織だと理解出来る。少し気持ち悪いが、命の恩人という事になる。


「そうだ。理解出来たみたいだな。お前を探していた。我々は退屈になったからこの世界に干渉していた。だからお前に託してみる。この世界の運命を。『悪』から『種子』を奪ったヤツを死なせるんだ。そうしたら我々は破壊をやめてやろう。」


「つまり、ボクが『種子』を奪ったヤツを殺せば、災いが無くなるという事だな?」


「そうだ。それでいい。面白いだろう?分かったら我々を楽しませてくれ。お前ならそうすると思っていた。さぁ行け。」


 コイツらの退屈凌ぎで、ボク達の世界が危険な状態にあるのは腑に落ちないが、善さんの寿命を縮めた元凶を倒すのは大賛成だ。乗ってやろうではないか!



何やらとんでもないヤツが現れたと思ったら、この世界で「善』と『悪』のシステムを作り出したという張本人だった!世界の破壊を退屈凌ぎだという『最善』と『最悪』。出される条件に従うしかない主人公。果たして世界を救う事が出来るのか!?

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