96 世界の危機
松林の組織に勝利した主人公達。しかしそこに警察官がやってきて…
倒壊した高層ビル、抉れた道路、大破した数台の戦車、それと路上駐車の車。
今ボク達はこの国の警察官に事情聴取というものを受けている。ボク達がテロ行為をしたと言いがかりをつけられて。
しかもマズい事に、病院を襲撃して逃げた事までバレてしまった。この状況、どう考えても説明が出来ない。変異体は一人もここには残っていないし、ボク達の仲間も数名はいない。証拠が無いのだから。
しかし、緑色の赤い瞳の人間がいたら、それこそおかしい。そう思い、和枝さんや変異体を、寺ッチに頼んでトレーラーごと移動させたのだが。
この騒ぎを知って、川上さんが出てきてくれていた。今は偉そうな態度のスーツ姿の男と話しをしている。ボク達の事を説明してくれている様子だ。
「稜くん、まだ帰れないのかな?祝勝会、期待してたんだけどなぁ。あっけなかったよね。」
「ハハハ、洋子さんはいつも変わらないね。ボクは緊張して、そんな事考えもしなかったよ。肝が据わった良い奥さんになるよ。」
マイペースの洋子さんは、祝勝会で伊勢海老が出る事を期待していたらしい。話してくれながら、両手でチョキチョキとポーズを取っていたから、そう思ったのだ。こんな状況でも変わらない洋子さんはボクの安定剤だ。
「伊町さん、洋子さん、改めて謝罪します。申し訳ありませんでした。」
可愛らしい洋子さんの伊勢海老踊りを眺めていると、偉そうな男との話しが終わった川上さんが、ボク達の側に来て、そう言いながら深々と頭を下げていた。
「稜くんの事を監視していたのは許せないけど、川上さんも色々とあったのよね?色々と助けてもらった事もあるし、これから信頼し合えれば私はそれでいいよ。」
チョキチョキポーズをしたままの洋子さんが、川上さんを受け入れる言葉を贈った。それでも顔を上げようとしない川上さんに、ボクも一言贈ろうと思う。
「事情があった事を、後で聞いたから…。言ってくれたら協力したのに。川上さんはボク達の仲間じゃないか。ずっとそうだったし、これからも仲間でいてくれるね?」
一言どころではなかった…。
「…、はい!許して頂けるのなら是非…。。あと…、偽装結婚も解除しました。あの人…、私の事を調べていたらしくて、それで事情を知られてしまい、協力をすると言ってくれたんです。組織に入り込む為に、偽装結婚までしてくれて…。」
どうやらマスターは、情報屋として川上さんの事を調べていたらしい。いや、マツバコーポレーション自体をかもしれないが、この際それはどうでもいいとして、その調査で川上さんの事情を知って、協力をしていたという事だ。組織にバレないようにと、ボク達にも言えなかった訳だ。監視されている事に気付いていたのかもしれない。
「あ、それと、先程、政府の上層部の方と話しをつけておきましたので、伊町さん達は何の関わりも無い事になってます。警察にも話しは通しておいたので、ここを早々に立ち去った方がいいかと思います。」
先程話していたのが政府のお偉いさんという訳だ。交渉してくれたと知る事が出来た。そういう事には長けている川上さんだ。これからも頼りにしよう。厄介ごとを起こす気は無いのだが。
「自分の事でも大変な時に、お世話をかけました。ありがとうございます。…、ところで、川上さんの事情というのは解決したんですか?」
この場を離れる様に言われたのだが、気になったので尋ねてみたのだ。
「はい、先程あの人…、マスターから連絡があり、私の母と妹を無事保護したと言っていました。」
「そうでしたか、良かったです。これでボク達も安心して帰れますよ。」
そう教えてくれた川上さんの顔は、安心と喜びで満ちた、素敵な笑顔だと感じた。聴きたい事も聞けたので、ボクは川上さんに一礼して、洋子さんの手を握り、転移をしようと構えだのだが、人目が多い事をウッカリ忘れてしまい、少し元気になった川上さんに叱られてしまった。
そして、異変が起きたのは、少し離れたビルの陰で転移をしようと移動をしていた時だった。
ゴゴゴゴゴォォォォォン…ズドォォォォン!!…ゴゴゴゴゴゴゴ……
物凄い地響きと共に轟音が辺り一帯に広がった。ボクは何が起きたのか知る為に、まだ残っているビルの屋上へ、洋子さんを抱え上げ飛び上がった。そこで見た光景は、映画で観る核爆発そのものだった。
今いる場所からかなり離れてはいるが、ドーム型にどんどん膨れ上がる炎と煙が、とても大きいので間近に感じてしまう。
「稜くん!あれ何なの!?戦争でも始まってしまったのかしら…。」
「いや、洋子さん…、アレ、ボクが以前使ってしまった『大爆裂』に似ているよ。見て、炎の塊がずっと消えないでしょ。ボクのより凄まじい威力だけどね。変異体が残っていたのかな?」
そう、核爆発ならしばらくすると雲が立ち上がった様に見える筈だ。しかし目の前のソレは、ほとんど炎のドームだ。煙に見えたのは、燃えた煙ではなく、辺り一帯の瓦礫が粉塵化したものだ。下から突発的にソレが吹き出しているのが見える。
「あ!あれ見える稜くん!ほら、爆発の上の方!何かが出て来たよ今!」
何かを発見した洋子さんの言葉に習い、炎のドーム型の上辺りに視線を集中させてみた。棒の様にしか見えないが、良く見ると間違いなく人の影が宙に浮いていた。あの爆発の当事者の可能性が十分にある。
あの爆発のお陰で、ボク達がいるビルの下方では騒ぎが起こり出した。警察官や軍が撤退している様子が伺える。ボク達もここから離れた方が良さそうだ。炎のドームがまだ膨れ上がっているからだ。こちらまで来そうな感じがしてならない。
「洋子さんしっかり捕まっていてね。行くよ!」 「はいっ!」
ボクは洋子さんを抱き上げたままで、ビルからビルへと渡った。途中、あの炎のドームを確認したが、どうやらこの地域までは被害が及ばない様子だ。移動しなくても良かったかもしれない。
とにかく、今あんなのに巻き込まれたら、ボク達は蒸発して消えてしまうだろう。一旦帰って善さんに報告しなくては。そう考えながら、もう一度炎のドームに視線を移し、ボクは転移を発動させた。そこにあの影はもう無かった。
〜 島 〜
転移して帰ると、仲間達が何かを囲んでいる様子が目に飛び込んできた。よく見ると善さんが寝かされているのが分かる。シャクシさんに言っていた濃度を濃くした、という事が原因で倒れているのかもしれないと思い、慌てて善さんに駆け寄った。
声をかけてみるが、善さんは目を開けてくれない。そこにシャクシさんがボクの肩を叩き、ついてくる様にと目で合図をしてきた。それに従い、洋子さんと二人でシャクシさんについて行く。
そして、島の陰で仲間達が見えなくなる場所まで移動して、立ち止まったままで、振り向きもせずにシャクシさんが話し出した。
「御前様が倒れられた時に言っておられました。『悪』が『種子』を奪われたと。そのせいで御前様の寿命が限られたモノになりました。御前様と『悪』は対の存在故に、どちらかが死を迎えると、感覚でそれが分かるのだそうです。」
驚愕の事実を語ってくれるシャクシさんの表情は、あちらを向いたままなので分からないが、声のトーンが涙を堪えている事を悟らせる。そして、何も言えずに沈黙するボク達に、再び話しをしだした。
「御前様が…、正体を無くされたのは、私にご自分の……、ご自分の残る全てを託して下さったせいです。私に御前様の意思を継いでくれと…、言い残されて。…、もう目を覚まされる事はないでしょう。」
「…、それは…、つまり、死ぬ。という事ですか?…、いったい何が!」
せっかく戻ってきたのに、また命を失う事になると知り、声を荒げてしまった。何か方法が無いかと考えるが、気持ちが焦りを隠せない。オロオロしてしまい、目の前が真っ暗になり、ボクはそのまま倒れてしまった。
こんな風に倒れたのは、ともこ先生の自殺を知った時以来だった。
この後ボクは、二日間目を覚まさなかった。洋子さんがずっと側でお世話をしてくれていたそうだ。
そして聞かされたのは、世界の主要都市が破壊されたという事、それがあの炎のドームによって成されたという事実だった。
戦いが終わった後に起きた大爆発事件。『悪』の死によって寿命が限られた善。そして倒れた主人公が目を覚まして聞いた、世界の危機。これはいったいどういう事なのか!?




