95 分断作戦
敵の軍勢と睨み合う主人公達。その数の差が圧倒的に違うようだが…
改良型変異体がせい揃い!といった感じの敵軍勢が、ボク達の前に立ちはだかっている。ゆうこさん情報によると、分かり易い緑の髪をした百人程度の変異体と、約三百人の銃火器部隊が残っているそうだ。
「稜くん、どうする?あと少しで各地に散らばっていた、川上さんの兵隊が集まってくるらしいよ?」
「ゆうこさん、寺ッチとその仲間達を指揮下に入れて、銃火器の殲滅に当たってくれる?その情報がどうであれ、敵は待ってくれないだろうしさ。」
善さん経由でのゆうこさん情報だろうが、敵もそろそろ進軍してきそうだ。変異体と銃火器を引き離す事が出来ればいいのだが。ご大層に戦車まで持ち出して来ている。数台だからなんとかなると思うが。
左右を高層ビルに挟まれた広い国道で、総勢四百前後の敵と、ボク達五十人弱の仲間達で、睨み合い状態になっている。その距離およそ五百メートルといったところだ。ここから見える限りでは、変異体が後衛、銃火器が前衛で、いつでも撃てる様に構えているのが分かる。
どう考えても、真っ直ぐ行くのは得策じゃない。ここから左右どちらかに回り込み。 、敵隊列の土手っ腹に、風穴を開けるしかないだろう。問題は、誰と突っ込んで行くかだ。
理想としては、和枝さんとボクが行けば、間違いなく敵を分断出来るだろう。だがここにはいないので、それは出来ない。カズちゃんの笑顔を守るのもボクの使命だ。呼ぶ事はない。
後は善さんだけなのだが、お歳を考えると無理がある。残された選択は、一か八か一人で行くしかないという、危険な賭けしか残っていない。銃火器部隊の集中砲火にさらされると、『再生』が発動する前に、ボクが蒸発して死ぬ事になり兼ねない。
「あらあらお気に入りさん、一人は危険ですよ。『再生』が追いつかない事態に陥れば、間違いなく命を落とすのですよ。…、シャクシ。」
フォォォォォォッ! 「はい、御前様。ここに。」
ボクの苦悩していた思考を読んだと思われる善さんが、考えていた事と同じ事を言い聞かせてくれて、この場にシャクシさんを呼んだ。いつも通り直ぐに現れて、片膝をついて頭を下げるシャクシさん。
そして善さんがそのシャクシさんの頭に右手を置いた。左手は自分の胸に当て、目を閉じて瞑想状態に入った。そして、シャクシさんから手を離すと、少しよろめきながら、こう言った。
「シャクシ、…、アタシの濃度を…、濃度を濃くしておきました…。お気に入りさんと…、行きなさい。」
濃度を濃くしたというが、その善さんを見ていると、座り込む程に疲れ切っていた。これは自分自身を分け与えたという事なのだろうか。それを受け取ったシャクシさんは、心配そうな表情で善さんを見ている。
その濃度の意味を考えているところに、善さんがボクの腕を掴んで、頷いて答えてくれていた。話すのも辛そうだ。ボクも頷いて返し、シャクシさんに『敵分断作戦』を伝える事にした。
ボクの説明を聞いて、シャクシさんが気合いの入った顔を見せてくれた。これで上手くいけば、銃火器部隊をゆうこさんと寺ッチの仲間に任せて、残るボク達が変異体の相手をすれば、かなり勝算があるだろう。
作戦開始の言葉を告げて、ボクとシャクシさんは、ビルの右と左から、敵の懐を目指して飛び出した。善さんから濃度を濃くして貰い、ボクと引けを取らない程の速度で移動したシャクシさん。
ボクは、国道と平行して走る二本隣の道路から回り込んでいるのだが、路上駐車の車が多くて『瞬足』では走り辛い。なぜ二本も隣の道路かというと、真横に突っ込む為の加速が必要でもあり、途中で敵に捕まらない様にする為の対策でもある。
仲間達の元を飛び出してから、おおよその距離を測ってはいるが、ぶっつけ本番なので少し自信がない。ビルの合間から見え隠れする、国道の様子も判断の一つとして加えている。
シャクシさんは、おそらくボクの気配を追いながら、あちら側を並走している筈だ。そう考えている時、ビルの合間に前衛の銃火器部隊の姿を見つけた。
次のビルの合間を入れば敵陣のど真ん中!とはいかないだろうが、割って入る事は出来るはずだ。とにかく前衛と後衛を分断出来ればいいのだ。
不用心な事に、あれだけの人員がいながら、見張りの一人もいないとは、随分とボク達もなめられたモノだ。しかし、そのお陰でスムーズに来れた。
目的のビルの角を曲がると、変異体の姿が見えた。ヘルメットも無く、緑色の髪が剥き出しになっているので分かり易い。絞り気味だった『瞬足』を集中力全開にして加速を開始する。
当然、開始した時点で、その場の空気が乾いた爆発音を発してしまうが、敵がこちらに視線を向けている最中にその懐に到達。数人程吹き飛ばしてしまったが、ボクは痛いだけで済むうえに、この突進は止まらない。
向かいからもシャクシさんが突っ込んで来て、ボクとの距離は数十センチというところで停止し、お互いの目を合わせて両手を突き出して取り合った。そのまま打ち合わせ通りに、お互いに『大気爆散』を発動する。
これは『爆散』の性質である『弾け散る』要素を応用して、善さんが無殺目的で考えた複合技だ。とは言っても、シャクシさんと二人で発動させた為、ボク達を中心に、半径三十メートル程に及ぶクレーターを作ってしまった。
当然、作戦成功だ。周りのビルにも被害が及んだ事は、想定外だが。今の爆発音を合図に、仲間達が一斉に進軍して来ているのが見えた。
ボクも気合いを入れ直し、変異体部隊の方に向き直り、あちらの驚いた様子を他所に、『雷光一閃』を両腕に纏わせて、電撃で気絶を誘い無力化する事に専念した。シャクシさんと二人で戦っているが、さすがに改良型変異体だけあり、簡単には倒せない。
そこにようやく洋子さん達が到着した様子だ。ボク達の後方から、銃火器のけたたましい音が響きだした。その少し後に、洋子さんがボクの後ろに、ピタッと付いてくれた事が分かった。
「稜くんやったね!私は足手纏いになるから、銃火器部隊をゆうこと倒してくるよ。稜くん気をつけてね。」
珍しくボクから離れて戦うと言って、洋子さんはボクの背中から離れていった。ボクも負けじと変異体へと突っ込んで行った。善さんは先程の様子からして、ここには来れなかったと判断して、シャクシさんと二人だけで戦う事になった。
しばらくはシャクシさんと連携して倒せていたが、変異体が三十人程になった辺りから、攻撃が届きにくくなってしまった。人数が減った分、敵が散開して連携を取り出したからだ。
その内の一人に、ボクの目が止まる。『松林 智』に似ていたからだ。本人なのだろうか?と戦闘中にも関わらず、ぼくは足を止めてしまった。それを敵が見逃してくれるはずがない。後方に気配を感じた時は遅すぎる程だった。
蹴られたのか殴られたのかは定かではないが、躱す間も無く地面に叩きつけられた。反撃しようと振り返ってみると、数人の変異体が、こちらに手をかざして、何かのチカラを発動させようとしているのが見て取れた。シャクシさんも敵に弾かれて体制を崩してしまったようだ。
ドゴォォォン!! 「フギャッッ!!ゴァァァッッ!!」(変異体数人)
突然の轟音と共に、その数人の変異体がボクの横に叩き落とされてしまった。それをやった宙に浮かぶ人物に視線を向ける。
「伊町さん、苦戦してたんですか?うふふ。遅くなりました、これより参戦します。」
そう言ってクスクス笑ってボクを見下ろしていたのは、島にいるはずの和枝さんだった。
「凄くおいしいとこ持って行きましたね。助かりましたよ。詳しい事は後で聞きますね!今は加勢をお願いしますっ!」
凄く明るくなった感じを受ける和枝さんが、ボクのお願いに、彼女らしくない親指を立てたポーズで答えてくれた。カズちゃんと再会してから本当に元気になったと、そう感じていた。
心強い味方の登場で、ボク達の形勢は逆転した。
洋子さん達も、ほとんどの捕縛を完了したようで、ゆうこさんとまた何か言い合っている声が聞こえた。
ボク達の方も全員捕縛してしまった。あの松林に似た変異体も縛り上げたのだが、言葉を発しないので、本人かの確認はとれていない。全員牢獄空間に入れる予定だ。
「稜くん、お疲れ様でした。えへへ、私も頑張ったんだよ〜。」
そう言ってボクに抱きつく洋子さん。その向こうには、風穴の空いた戦車の横で、お尻を天に向け、頭を地面に突っ伏した状態のゆうこさんが見えた。
ボクを見つけた洋子さんが、またなりふり構わず、ゆうこさんに何か危害を加えたはずだ。寺ッチがそれを介抱していた。
寺ッチ、すまん!
心の中で、洋子さんの代わりに謝罪した。
和枝の参戦を期に、一気に勝利した主人公達。捕縛した中に、松林に似た変異体がいるが、こいつは本人なのか!?




