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94 松林動く。

いよいよ最後の戦いになりそうだが、この和んだ空気は…?



 残る敵は組織と松林智だけになった。肝心な場所が定かでは無かったのだが、牢獄空間に入れた『松林 ミヨ』の証言により、その居場所が明らかになった。


 松林夫人は、最初こそその証言を渋っていたが、港街から仕入れていた『ロールケーキ』を、洋子さんが夫人の目の前でチラつかせると、急にペラペラ証言し出した。


 変異体になっても、そこはどうにもならなかった様だ。梅子といい夫人といい、この親子が不憫に思えてならない。というような事など思ってもいない。


 場所も分かった事なので、全員で乗り込んで拠点を叩く事に決定した。しかしこの作戦、他の仲間がいる様な内容だったが、結局ボク達だけで片付けている様な気がしていた。


「ね、ゆうこさん?作戦会議の時さ、変異体は能力者のみで…、みたいな事言ってたけど、他も全て能力者のみでやった様なモノだよね?」


「何言ってるの!?国内にいる松林の組織員は、川上さんが密かに集めた街の住人が、その討伐に当たってくれているのよ?これで彼女が嫌々松林に従ってた事が分かるわね。家族を人質に取られりゃ〜ね…。」


 そうだったのか……、!?なに!人質に取られてる!?


「何でそれ先に言わないのさ!聞いてたら、川上さんに冷たく当たらずに済んだじゃないか。洋子さんだってあんな言い方しなかったと思うよ。」


「稜くん、ゆうこは昔からこうなのよ…。後で川上さんと、ちゃんと話そう?ね。」


 呆れて文句を言ったボクの言葉で、ゆうこさんがショボくれてしまった。洋子さんがフォローをしてくれたみたいだが、本人も反省しているのだろう。下を向いたままの姿に、落ち込んだ様子が伺える。


 そんなゆうこさんを、洋子さんが慰めている間に、善さんに聞きたい事があったので、海を眺める善さんの元へ行ってみる。今回の事で何か思うところでもあるのだろうか。海を眺めるその目には、遠い昔の自分を思い出しているかの様な、遠くを見るそんな目をしていた。


「善さん、昔の事でも思い出していたんですか?海も綺麗だったんでしょうね…。」


 昔の光景がどういったものなのか、ボクには全く分からないが、その善さんの雰囲気に同調する様な言葉をかけてみた。


「あらあら、洋子を陥れる算段を立てていたのですよ。」


 やめいっ!波風立てないでよ善さん…。それは海だけにしとこうよ…。


「…、あ、あの、聞きたい事があるんですが…、牢獄空間に入れたアイツらを、どうするのかと思って。」


「あらあら、『傀儡芽』を摘出すると死にますからね。かと言って野放しは出来ませんね。死なないし、そのままでしばらく放っておくのですよ。」


 何か凄い考えでもあるのかと思ったボクが間違いだった。自由になった善さんは、どこかネジが飛んでいる様に思える。


「あらあら、失礼ね。アタシはずっとこうですよ。今に始まった事ではないのですよ。」


 気にするとこが違います、善さん。心読まないで…。


 それ以上何も考えずに、ボクはその場をサッサと離れた。洋子さんのところに戻る途中で、木陰に入り話し込んでいる和枝さんとカズちゃんの姿を見つけた。


 あれからずっと和枝さんから離れないカズちゃん。今もお母さんの手を握ったまま、ベタベタしながら甘えている最中みたいだ。邪魔をしないように、洋子さんの元へ向かう。


「洋子さ〜ん、カズちゃんが幸せそうだったよ。アレ見ると心が和むよね。…善さんは放っておこうね。」


 そんな事を言いながら、急にボクが抱きついたから、洋子さんがデレデレして、ゆうこさんを突き飛ばしていた。慰められていたはずのゆうこさんは、凄い速さで転がり、島の奥へと消えていった。


 この束の間の休息は、和枝さんとカズちゃんが、ゆっくり話す為にと皆んなで作った時間だった。しかし、それもそろそろ終わりにしないといけない。


 善さんの街で、国内を含めた各国を監視している寺ッチから、善さんへと連絡が入った様だ。善さんがそう報告してくれた。内容は、松林本人が率いる軍隊が、国内乗っ取りの為に動いたらしい。


「敵は今、国内中央の都市をめがけて進行中とのことですよ。」


「はい、では善さん、そろそろ行きましょうか。裏切り者を退治しに。」


「ちょ、ちょっといいかい稜くん?…、あの、ほら、和枝さんの事なんだけどさ…」


「うん、分かってるよゆうこさん。和枝さんはカズちゃんとお留守番だからね。島の荷物を見ててもらわないと。」


 善さんと出発を示し合わせているところに、ゆうこさんが心配している事を伝えてきたので、元々そうするつもりだった事を、改めて皆んなの前で伝えた。


 その言葉を聞いたカズちゃんは喜んではしゃぎだした。洋子さんが和枝さんに、港街の場所と、転移の為の写真を渡していた。初めてであっても、写真があれば大丈夫。飛べるのだ。


 その二人以外のメンバーで、いよいよ最後の戦いへと向かう事にした。


 ボク、洋子さん、ゆうこさん、善さん、ユキさん、の五人だ。軍隊の相手には、寺ッチ達の応援部隊が、あちらで合流してくるそうだ。


「皆んな、これで最後の戦いのはずだ。誰一人欠ける事なく勝って帰ろうね、じゃ、行くよ!」


「おおっ!!」(皆んな) 「はいっ!稜くん!」(嫁)


  『空間転移』  フォォォォォォッ!


 〜 国内 中央県 〜


 僕たちが到着すると、既に寺ッチ達が、組織軍と戦いを始めていた。(はやっ!)ボク達も各自応援に当たった。洋子さんはボクの側で戦う決まりだ。(洋子さんが決めた事)


「稜くん〜、そっち行ったよ〜っ。ほれ〜もいっちょ〜っ!」


 洋子さんはサッカーでもしてるノリで、次々と組織軍の敵を蹴り飛ばしてくる。さしづめボクはゴールキーパーだ。大抵重症患者となって飛んでくるので、『治癒』を軽くかけながら、寺ッチ達が用意してくれた、大型トレーラーの荷台の檻に放り込んでいく。


 ボクがそうやって放り込んでいる時に、駆け出していく寺ッチを見かけた。気になり目で追っていると、倒れたゆうこさんの元に向かっているように見えた。そのゆうこさんは、珍しく油断していたのか、後方からショットガンの弾を浴びせられようとしていた。


 ボクもそれを見て、しまった!と思うが、さすがに間に合わないと判断して、ゆうこさんの『治癒』に任せる事にした。しかし、寺ッチがゆうこさんめがけて飛び込んだ。


 ズダアァァァァァァァンン!! 「姐さん…ガフッ…!」(寺ッチ)


 ゆうこさんの盾になり、ショットガンの散った弾を全て身体で受け止めた寺ッチは、鮮血を撒き散らしながら、飛び込んだその軌道を変えられ、あらぬ方向へと吹き飛ばされた。


 そして、ショットガンが次弾を発射準備する音がしたと同時に、ゆうこさんの拳が、勢いあまって敵の身体を貫いてしまった。殺してしまったのか?と思っていたら、同時に『再生』を使用していた様で、敵が激痛で転げ回っていた。


「寺ッチ!!おい、何してんだよお前、剛ーっ!死なせねぇからな、何だよちくしょう!」


 珍しく慌てているゆうこさんが、寺ッチに『治癒』と『再生』を同時にかけている様だ。


「うっ…、あ痛ぇぇ〜、姐さんっ、すいませんっ!おいら…。」


 ガバッ! 「ゴウっ!無茶すんなよ…、私なんかの為に無茶すんなよっ!…うぅぅっ、死んだかと思ったじゃねぇか。バカ…。」


「あ、あ、姐さん!?えと…あの…す、すいやせん…。」


 もしもし?キミ達戦いの最中なのですが…、抱き合ってないで戦いなさいよ〜。


「稜くん、ゆうこにも春が来たね!稜くん、私も〜、ん〜っ…。ちゅ〜は?」


「いやいや、真面目に戦おうよ〜。後でならいいからさ。あの人達は放っておこう。」


 ボクのこの言葉で、洋子さんが拗ねてしまい、敵は大変な八つ当たりを受ける事になった。凄まじいその八つ当たり攻撃は、正に鬼神の如くというやつだ。


 鬼…見た事ないけどね。


 洋子さんの活躍のお陰で、敵は半分程度に減っていた。ザッと見る感じでも、残り三百人はいるはずだ。


 次はどんな手で洋子さんを怒らせようか?


 一番ふざけているのはボクかもしれない。ごめんなさい。

とうとう春がきたゆうこだが、戦いは真面目に。敵に失礼ですよ。そして洋子の心情を上手く使いこなし、敵を殲滅まであと一歩のところまで追い詰める主人公。この調子でラスボスまで一気に行くのか!?

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