93 親子。
順調に作戦を片付けていく主人公達。しかし今回は…
いよいよ三箇所目の場所へとやってきた訳だが、ここの守護者を少し甘くみていた。やはり改良型の変異体であるのだが、頭がアフロで少女なのだ。そう、覚えている、コイツはあの松林の娘、『梅子」だ。
色は緑だがアフロだ。そこは『虚無』でもどうにもならなかったらしい。しかも赤い瞳の目つきまで変わっていなかった。不憫な娘『梅子』。
その梅子がとんでもなく速いのだ。パワーが無いのでまだ凌いでいけるが、素早すぎて捕まえる事が出来ない。どうにも出来ないと分かっているのか、梅子がこちらを見て、ニヤニヤと余裕のある表情を見せている。
洋子さんは全く追いつけず、何やら考えている時が多く見られる。ボクが何とかするしかない。
「梅子…、お前強いんだな。もうお手上げだよ…。たださ、勝ち負けはどうでもいいから、お前の父さんが何をしたいのか教えてくれないか?」
「ふっふふ。最初から気に入らなかったんだよ…、お前。その女も。長い黒髪だとぉ?アフロに決まってんだろ!誰が教えてやるもんかぁ。」
簡単に教えるとは思ってない。しかし。しかしだ!アフロ気にしてたんだね?
とても良い性格の梅子は、素直に黒髪ロングが羨ましいとは言えない様子だ。しかし、そんな事はどうでもいい。少し真面目に戦おう。そう心に決めかけた時、洋子さんが小声でボクに伝えてくる。
「私がわざと捕まって、あの子の目を塞ぐから、稜くんは隙を突いて攻撃してほしいの。次行くから。」
そう言って頷き、梅子に向き直る洋子さん。目を塞いでくれるなら、ボクで何とか倒せると思う。洋子さんの行動を待つ。
『行くわよ!』と言って、洋子さんが真っ直ぐに梅子に突っ込んでいった。当然梅子は迎撃姿勢を取り、洋子さんを待っている。どう見ても捕まえてくれなさそうなので、ボクも牽制の為に『瞬足』で突っ込むフリをしてみた。
ボクの速度の方が速いと分かっている為、梅子はボクに向き直った。だがこれは突っ込むフリなので、途中から洋子さんが死角に入る様に軌道を変えてみた。梅子が慌ててその場で身体ごと向けて、ボクの姿を追ってくれる。
そして、洋子さんの接近に気付き振り向いていたが、洋子さんが梅子を捕まえてしまった。しかも、目を塞いでくれている。このチャンスを逃す手は無いと、ボクは慌てて軌道を梅子に戻す。
そしてボクの『風刃一閃』が、梅子の腹部に深々と突き刺さった。洋子さんがすかさず片足を梅子の首にかけ、その反動を利用して、そのまま床に組み伏せた。
その後は他の奴らと同様に、ぐるぐる巻きにし縛りつけて、牢獄空間へと放り込んだ。洋子さんのアイデアが活躍してくれた一戦だった。
「洋子さん、あれ最初から狙ってやったの?」
「う、うん…、そうだよ!ほら、無駄に大きいからね、私の…。け、計算だよ!余裕よゆう…。」
「な、なるほど。無駄なんかじゃないよ。み、魅力的な大きさだよ…、ボクの『所定の位置』だし…。」
何だか話しがぎこちなくなってきたので、ボク達はサッサと機械を破壊して、その施設を後にした。
自分たちのノルマは達成したので、一旦島に戻る事にした。買ったばかりの食材が勿体ないのもある。
「ねぇ、梅子が出て来たって事は、やっぱり智さんが裏切り者って事になるのよね?」
ゆうこさんから聞いているから知っているはずなのに、ボクと同様に、それが信じられないと思っていた口ぶりだ。
「ボクもそう思ってショック受けてた。知ってたんだけどね…、なんか信じられなくてさ。」
「うん、私もそう思ってた。いい人だったのにね。」
ショックとは言ってみたものの、もうそんな事は気にしない事に決めていたので、本当はそれ程思っていなかったのだ。ただ、洋子さんに合わせて答えたまでだ。
「ゆうこ達、大丈夫かな?稜くん……、えと…。」
「うん、これ食べてから様子見に行こうね。お腹空いてちゃ戦えないでしょ。」
大丈夫だとは思うが、洋子さんの心配が無くなるのならと思い、ボクはそう答えた。何か問題があれば、和枝さんや善さんから連絡が入るのだが、今は特にやれる事がないので、応援に行くのもいいだろう。
島に着いて直ぐに準備し出した焼き魚も、すっかり骨だけとなったので、洋子さんのソワソワを解消すべく、ゆうこさん達の元へ向かおうと思っているところに、善さん達が転移してきた。
「あらあら、早かったのですね。アタシもあと百三十も若ければ、なんて事はなかったのですよ。」
「あ、善さん、お帰りなさい。街には転移出来ないのでこちらに戻ってました。ユキさんもお疲れ様でした。」
ボク達がそう話していると、洋子さんが善さん達の分の食事を用意し出していた。ゆうこさんが凄く心配なはずなのに、この女性は本当に出来た女房だ。
「善さん、ごめんなさい、洋子さんとゆうこさん達のところに行ってきますので、良かったらこの食材使っていいので、適当に食べちゃって下さい。」
「あ、善さん、それでしたら私が何かお作りしますよ。伊町さん達は、早く行ってきて下さい。」
ボクの不躾なお願いに、ユキさんが気を使ってくれたのか、洋子さんの様子を見ながらボクにそう言ってくれる。善さんも静かに頷き、洋子さんの方を見ていた。皆んなやっぱりいい仲間達だ。
「洋子さん、お待たせしたね、行くよ。」 「はい!稜くん。」
満面の笑みを浮かべて元気よくそう返す洋子さん。ボクはその手を握り、ゆうこさん達のところへ転移した。気配を辿れば簡単に出来るのだ。
ズダダンッ!! 「どわぁぁぁ!!きゃあっ!」(ボクと洋子さん)
「ちょ!洋子たち!?…、もぅ急に転移して来ないでよ…。」
「ゆうこ!無事だったね!良かったぁ…うぇぇぇぇ…」
「なんなの…、ちょ、洋子〜?何泣いてんのよ〜。」
転移してきて何かにぶつかったのだが、突然現れたボク達に、声を上げるゆうこさんが無事だと分かり、泣き出してしまった洋子さん。
「突然ごめんねゆうこさん。洋子さん、ほら泣かないで。…ところで、もう終わったの?」
泣いている洋子さんの頭を撫でながら、ゆうこさんに状況を尋ねたところ、ボク達を指差してきた。何を言いたいのか、少しの間分からずにいたが、
『ん!、ん!!』と不機嫌さを感じてしまう声と顎のジェスチャーで、ボク達のお尻の下を指差していると気付く。
「わっ!!きゃっ!!」(再びボク達)
そこには、ゆうこさん達が戦っていたであろう、太っちょおばさん変異体が気絶して泡を吹いていた。
「ごめん!ゆうこさん…。この人って…、松林夫人じゃない?洋子さん覚えてる?」
「…、ぐすん…、ん、覚えてるもん。お菓子全部食べた人…。」
変異体になってはいるが、面影が残っていたので洋子さんにも確認したのだ。妙な覚え方ではあるが、洋子さんもそう言うので間違い無いだろう。
とりあえず目を覚ます前にと、ボク達は夫人を縛り上げて、牢獄空間へと収容した。
「敵は今のが最後よ。和枝さんがいなかったらマズかったけどね。…、まぁ、最後は洋子のお尻が勝利したみたいなモノだけどに〜っ、ハハハハっ!」
「もぅ!ゆうこぉ!心配して来てあげたのにぃ〜。ぶー。稜くん帰ろっ。」
敵を横取りされたのが悔しかったのか、少し意地悪な言い方のゆうこさんに、泣いたり拗ねたりと忙しい洋子さん。親友っていいな!と羨ましくなってしまった。
そんなボク達を他所に、和枝さんが機械を破壊して、『これで最後です。』と、何だかぶっきら棒な言い方で、何か思い詰めた表情を見せていた。
「和枝さん?どうかしましたか?…、敵を取っちゃいましたね…、ごめんなさい。」
「いえ、どうもしてないですから、お気になさらず。」
ボクの言った言葉が、和枝さんの表情の原因だとは思っていないが、強がって逆の事を言っている様子が、何を心配しているのか、何となく分かる。あまり深く追求しないのがいいだろう。
「とりあえず、島に転移しよう。善さん達もそこにいるから。和枝さんもお願いします。」
ボク達から少し離れて立つ和枝さんにも、一緒に転移する様にと伝えて、全員揃ってその場を後にした。
「お母さん!!わぁぁぁぁんっ…えぇぇぇん…、おがぁさぁん…うぅぅ…」
「かっ、和美ぃぃ!……うっ……、ぐすっ…」
転移した先の島では、カズちゃんが待っていた様で、ボク達の後ろにいた和枝さんに、飛び込みながら泣きじゃくっていた。それを受け止めた和枝さんも、声を押し殺すように泣いていた。
親子の久しぶりの再会の仕込み役は、善さんの様だ。二人を見る目に達成感を感じられた。少しするとカズちゃんの涙ながらの声がして来たので、邪魔をしないように、ボク達は静かにその場から離れた。
「ぐすん…、おかぁさん、あのね……」 「…、うん、…うん、…」
甘えた声のカズちゃんは、いつまでも母親の膝で色々と語って聞かせていた。
遠目に見ていたボクの耳には、風に乗って微かにカズちゃんの声が聞こえた気がした。
『お母さん、おかえりなさい。』
苦戦するかと思われた、転移装置破壊作戦と変異体討伐も無事に終了!島に帰ると親子の再会が!遠巻きにそれを温かく見守る仲間の目には、ツッと一筋の熱い涙が流れていた。




