91 会議、情報。
島に突然やってきたゆうこの話しを、月明かりの下で思い出す主人公。いい策でも見出せるのか!?
月明かりの下、砂浜で膝を立てて座り込み、ゆうこさんの話しを思い返していた。
世界中の至るところで、赤い瞳の変異体が確認されている。それらは他の能力者達とは桁違いに強く、そして素早く倒しにくい。いずれも凶暴で、話し合いには応じない。殺戮のみを楽しんでいる。
そして、そのほとんどが、ボク達の国の言葉を使う。善さん達はこれを、組織の仕業だとみているそうだ。組織とは、どこの組織だろうか?
そう考えてみるものの、全く心当たりがない。
こんな大規模な事を、川上さんができるだろうか?未だに街の復興も終わっていないのに、組織の人員を構成している可能性はゼロに等しいと思われる。
やはり川上さんが敵だとは考えたくはない。
洋子さんもこの件に関しては、川上さんを信じたいと言っていた。しかし、実際に監視されていたのは事実だ。
それも目的が分からないのだが、これから先は気にせず、自分の思うままやっていこうと思う。
今夜も月明かりで、水平線と空の境がハッキリ見える。この海の向こうの色々な国が、能力者によって破壊され続けている。そう考えると直ぐにでも行かなければと思うのだが、やみくもに戦っても効率が悪すぎる。
ここの港街はボク達が片付けたが、他所の国では軍隊が出ているらしい。
そこに同じ国籍のボク達が行けば、攻撃対象となるのは間違いないだろう。
いずれにしても、このままではボク達の国が、各国から総攻撃を仕掛けられるのも時間の問題だ。更に不思議なのは、国内で全くそういった被害が出ていない、とゆうこさんが言っていた。
明日辺り、善さん達と色々と話し合う必要がありそうだ。そういえば和枝さんの事も放ったらかしにしたままだ。ボクがワガママだったせいで、寂しい思いをさせてしまったに違いない。
〜 翌日 〜
「荷物は置いたままでも大丈夫なのかなぁ?稜くん、いっそのこと島を買っちゃう?」
「いや、それはどうかな。今日は善さん達と話しをしに行くだけだから、夕方には戻るつもりだよ。洋子さんがあっちにいたいと言うならそれでもいいけど?」
「んもぅ、だから、島買おうって言ってるじゃない。あっちは監視されてるから嫌だぁ。」
サラリと無駄遣い宣言をする洋子さんは、話し合いですらあちらに行く事を、好ましく思っていないらしい。監視されている家では話さないと思うが。
〜 善さんの街 〜
直接自宅に行くと、また監視の網にかかるので、島から心の中で念じて善さんに迎えに来てもらった。いつもの口調で随分とベタベタ触るものだから、洋子さんが拗ねてしまい、ボクにしがみついたまま離れてくれなくなった。
そのままでも話しは出来るので、気にせず皆んなと話す事にした。
「まず、長い事、留守にしてごめんなさい。それから、一応ただいま。」
「なんだよそれ?こっちに洋子と住むんじゃないの?また私だけ置いてけぼりかよ〜。」
確かに住める様に、街は出来上がりかけているが、少し離れたいと言うのが本音だ。騒がしく楽しいのが良いのだろうけど、今は洋子さんと二人でいる方が気持ちが落ち着く。
「うん、ごめん。今は静かな場所にいたいんだ。勿論、戦いには参加させてもらうよ。それは洋子さんも同じだと思う。」
「うん、稜くんが行くところには必ずついて行く。ゆうこもいいよ。」
あんなにケンカしているのに、やはり親友なんだなぁ、と感じさせられる言葉だった。ゆうこさんも笑顔を見せて、洋子さんの言葉に嬉しそうにしていた。さて、挨拶はここまでにして、そろそろ本題に入る。
「ボクも今の居住地で、戦いに巻き込まれたんですが、他の場所はもっと酷い事になっているみたいです。しかし、迂闊に戦いの中に飛び込むと、他国の防衛に当たっている軍から、敵と判断され兼ねません。この事について、何か良い方法がないか話し合いたいと思っています。」
「稜くん、それだけどさ…、もう既にどの国も、こっちを敵だと認識して、同盟を結んでいるらしいんだ。昨日からニュースでそう言ってるぞ。お陰で国中パニックでさ、能力者じゃなくて、国民同士でのいざこざが絶えないらしい。」
ゆうこさんが言う事が本当なら、こんな話し合いをしている場合ではない。既に敵とみなされているならば、それごと制圧すれば良いだけの事だ。
「ゆうこがウソを言う訳ないと思うけど、我が国の軍はどうしたの?国内で被害が出てないのなら、無傷よね?そこに私達が協力すればいいんじゃない?」
洋子さんが言うのも最もだが、ボク達は軍の人間でも無ければ、能力者だと言って信じてもらえる訳でもない。と言うかアポだって取れないだろう。お偉いさんに知り合いでもいれば別だが。
「洋子、それも出来ないんだ。すり鉢の施設の戦い覚えてる?あん時私達が戦ったのが、この国の軍なのさ。能力者が集まっていると、偽の情報を掴まされたって訳だ。」
「偽の情報ってゆうこさん、それどこからの情報なのさ?」
ボク達の意見をことごとく打ち砕くゆうこさんの情報。ウソを言っているとは思えないからこそ、その出所が気になった。
「あ、あの〜、おいらが言いました。すみません…。」
そう言って手を挙げる、ゴツい身体つきの男。いつからそこいたのか気付きもしなかった。部屋の隅に肩をすぼめて立っているそのゴツい男『寺ッチ』が情報元らしい。
言われてみれば、寺ッチを含む数十名は、あのすり鉢の施設に一旦集められたと言っていた。だとしたら偽の情報じゃないのでは?と疑問が浮かんだ。そして、寺ッチが続けて話してくれた事で、ボクの疑問が解消された。
「その〜、施設なんですが、姐さんに聞いた場所と、おいら達が集められた場所が違うんですよ〜。確か側に湖がありました〜。」
「寺ッチ!姐さんって呼ぶなと言っただろ…、歳変わんないんだから、ゆうこで良いって。」
おやおや?ゆうこさん?いつの間に寺ッチと仲良く?しかも怒らない!?
えっへっへ〜。
そういうアホな考えは置いといて、寺ッチの情報だと、集められた場所しか分からないはずだ。違う場所に集められて、組織の状況も何も分からないと思うが。
「あ〜、なんだ、その。アンタ達、怒らないでくれよな。洋子?アンタに言ってるんだからね。その今回の情報のほとんどが、川上さんなんだ。」
やはりそうか!と思ったボク。実は少し前からそう感じていたのだ。いやいや本当だ。洋子さんも落ち着いているから、案外ボクと同じ考えだった様だ。ほら、何か言おうとしている。
「その口ぶりからすると、ここに来ているのね。稜くんを監視しておいて、これから先も、普通に生きていけるとでも?私はね、自分の事はどうでもいいの…、だけどね…、稜くんを傷つけるのは、人であっても物であっても、絶対に生かしておかない…。その覚悟があるなら出てくればいい。」
ぼ、ボクとは違った…。チーン!
「洋子さん、それはボクが許さない。勘違いしないでね。洋子さんがそんな事で自分を傷つける事ない。ボクが許すと言ったら、洋子さんもそうしてくれるかい?」
「りょ、稜くん…、ごめんなさい。つい感情的になって。稜くんがいいのなら、私もそれでいいよ。」
「さすがだね、洋子さん。でも、その気持ち嬉しかったよ、ありがとね。」
凄く素直で可愛らしい洋子さんに、そう付け加えてお礼を言ったら、
『えへへ。』と機嫌を治してくれた。
止めないと本当にやり兼ねないから恐ろしい。少しチビッたのは内緒だ。
「ふぅ〜。洋子、ホント心臓に悪いよ。それ、ちょっと猟奇的だからやめなよ。もぅ…、川上さん、大丈夫だから出ておいで〜。」
ゆうこさんもチビッたのかな?と、またまたアホな事を考えてしまった。
ゆうこさんが川上さんを呼び、少しして部屋の奥から川上さんが姿を見せてくれた。随分と痩せこけていたのには驚いた。頬骨が目立つ程尖って見えた。
「あ〜、出てきてもらったけど、川上さんさ、実は拷問されて捨てられていたんだよ。そこを善さんが助けたんだけど、完全に信用出来ないから、『治癒』はかけていないんだ。酷いと思うかもしれないけど、私達を騙してたんだ。用心に越したことない。」
ゆうこさんの意見にも一理ある。おそらく善さんの判断だろう。そういえば、先程から口を開いていない。善さんはゆうこさんの隣にいる。静かに何かを考えている様に見える。ソッとしておく事にする。
「伊町さん…、洋子さん……ごめんなさい。私…、わたし…うっ、ぅぅぅぅぅぅ…」
何か事情がありそうだが、今は聞けそうもないと判断して、ゆうこさんに彼女を休ませる様にお願いした。後はゆうこさんが説明してくれるだろう。
そう考えて、ゆうこさんを待っている時、善さんがこちらに視線を向けてきた。やっと考えがまとまったのだろう。いよいよ善さんの話が始まる。
「洋子、一晩だけでいいの!お気に入りさんを!」
わぁぁ!!もう喋るなっっ!!期待して損したわい!
だんだん緊迫していく世の中の状勢。だんだん劣化していく善の思惑。どちらもなりふり構っていられない状況に!?




