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89 貫け!自己満足!

島での生活も板についてきた主人公達。今日は買い付けの日だというのに、相変わらずの二人だが…



 島の朝は早いというより、朝日が早く顔を出すという意味での早いだ。決してボク達が早起きしたい訳ではない。しかも、ハンモックを設置する場所を、考えずに行ったものだから、朝日が遠慮なく光を浴びせてくる。


「きゃ〜っ、稜くん、カーテン閉めてよぉ〜。もぅ。」


「ん〜、洋子さん…、島だってここ。カーテンなんかないでしょ?」


 ボクだって眩しいのだが、こうやって毎朝意地の張り合いで、お互い中々起き上がろうとしない。こういう開放的な場所で暮らすと、案外人というものは本性をさらけ出すものだ。長ければ長いほどだ。


「洋子さん、今日は買い出しに行く予定だよ?いつ行こうか?」


「う〜ん…、おはよ。稜くんが私にちゃ〜んと『ちゅう』してくれたら行く〜っ。」


「いや、もう勝手にしてるよね…。毎朝ボクの意思は関係無くしてるじゃない…。」


 と、他人からすると、どうでもいい会話が、この島での朝の日課となりつつあった。意地の張り合いや、くだらない会話などするが、ケンカだけはしなかった。洋子さんが直ぐに泣き出すからだ。


 他の人間相手だと、絶対に引かないし負けない洋子さんだが、ボクに言われると悲しくなるらしいので、ケンカ口調は絶対に使わない事にしている。そんな洋子さんが可愛らしいと思うからだ。


「稜くん、今日はこれ着てもい〜い?おかしくないかなぁ?」


「うん…、おかしくないけど、も少し肌の露出抑えてよ。他の男に見せたくないじゃない。」


 そう言う洋子さんが見せたのは、しゃがむと見えてしまいそうなスカートと、花柄のキャミソールだったので、ボクが意思を示してワガママを言ってみたのだ。


 そんなボクのワガママでも、洋子さんは嫌な顔もせずに、ちゃんとボクの意に沿うことをしてくれるのだ。何を着ても綺麗なのだからいいだろ?と、ワガママな自分に投げかける。


 お互い支度ができたので港街へ転移した。


 ここは外国の開けた港街だけあって、色んな国から船が入ってくる。その為、朝から買い付けに来た人や、荷物を下ろす人でひしめき合っている。色々な国の言葉が飛び交っているが、ボクは外国語を勉強した事がないので、全く理解出来ない。


 そんな人達を横目に見ながら、いつもの露天市場へと向かう。この街の言葉なら、洋子さんが少し分かるらしいので、交渉も含めた会話を洋子さんにお任せしている。


 また何日か島から出ないので、他の買い付け客より多い量を購入する。これがまたお買い得な方法でもあったりした。一度にたくさん買うので、マケてもらえるのだ。ただし、その荷物は全てボクが持つのだ。


 本日も無事に買い付けが終わり、人の目に触れない場所へと移動を開始する。転移で島に戻る為だ。その途中で、聞き慣れた言葉を耳にした。その言葉を辿って視線を移すと、ボク達と同じ国の人間である事が分かった。


「そっちの船は無事だったのか?こっちはエライ目にあったぜ。」


 顔の至るところに生えた毛が、少し汚く感じられる太っちょの男がそう言った。するとその向かいに立つ、ヒョロッとした格好の、鼻だけが大きく目立つ顔の男が言葉を返した。


「無事なもんか。こっちは死人まで出たんたぜ。全く、ありゃ人間じゃないぜ?」


 デカ鼻男が、少ししゃくれあがった顎を摩りながら、太っちょに尋ねている様に聞こえた。


「あぁ、オレも見たが、手から火が出たりしてたぜ、手品師かと思ったがよ、直ぐ側の奴が大火傷しちまってよ、それから大騒ぎになっちまったよ。」


 太っちょがそう語る内容から、人間じゃない、とデカ鼻が言っていた意味が伝わってくる。


「そうだそうだ!オレの船も同じ様なもんだったよ。ただよ、手から電気が出てたぜ?あとよ、知り合いの船は爆発したんだとよ!」


 デカ鼻が少し興奮気味で話すのがボクにも伝わった。それを太っちょが口に手を当てて制していた。


「しっ!お前声が大きいよ。この辺りにだって、亭主殺された女もいるんだぞ。とにかく、お前が無事でよかったよ。さぁ一杯引っ掛けにいこうぜ。」


 その汚い顔からは想像も出来ない太っちょの、他人を気使う一面が伺える会話だった。そしてその二人は、去って行きながらも、まだ何か話している様子だったが、遠すぎて聞き取れなかった。


 ボクが立ち止まり、先程の男達の話しを聞いていた為、洋子さんもボクの後ろで聞かされる羽目になったようだ。黙ってそうしてくれる優しさが、また更に彼女を愛おしく思わせる。


「ねぇ、稜くん…、今の話しの火がどうとかって、能力のチカラの事だと考えられないかなぁ。」


「うん…、そうだね、電気がって言うのも引っかかるよね。死人が出たって…。本当かな?」


「稜くん、荷物を島に置いたら、街の様子を見て回らない?何か嫌な予感がするんだけど…。」


 洋子さんも先程の話から、その騒動を起こしたのが『能力者』だと考えていたようだ。死人が出たのはどうする事も出来ないが、怪我人ならまだ救える。そう考えての提案だと感じさせる、洋子さんの意見に従う事にした。



 荷物を置いて、早速街の中心部付近に行ってみる。そこに診療所があると、洋子さんが街の人から聞いていたからだ。怪我人ならそこにいるはずだ。


 そう、この街には病院がないのだ。島と言っても大きな街がある大きな島なのだが、医療技術が乏しいらしく、大きな病気にかかると、お金持ちならヘリが迎えに来て、大きな病院のある国まで運んでくれるそうだ。お金が無いと、死を見守ってあげる事しか出来ないという事だ。


 しばらく走っていくと、薄汚れた白いペンキが目立つ、長方形の診療所が見えてきた。その前には既に人だかりが出来ていた。


 正面から行くと、洋子さんとはぐれてしまう可能性が高い為、ボク達は左手の広場の方から近付く事にした。洋子さんの手をシッカリ握り、少し『瞬足』を絞る感じで先を急いだ。


「洋子さん、診療所には入れないから、片っ端からやるよ!」


「分かったよ稜くん!別々にやる?一緒がいいんだけど!」


「うん、一緒で!順番整理を頼むよ!」


 洋子さんとそんなやりとりをしている間に、診療所へと向かう列の、最後尾へと辿り着いた。言葉を話せる洋子さんが、早速列の再構成を始めてくれる。ボクもそれに従い、こちらに向かってくる人々を、順番に効率よく『治癒』していく。


 切り傷や擦り傷の人は少なく、ほとんどの人が火傷を負っていた。それは既に病院で治せるレベルでは無かった。火傷というより、炭化してしまった物にしか見えなかった。ボクは『再生』も合わせて治療に当たった。


 ここに最初来た時は、まるで物語に出てくる地獄の囚人行列を見ている様だった。今はかなりの人が、何事も無かった様に完全回復している。


 隣人の手を取り喜び合う姿、元気になった子供を抱きしめ涙する母親、またその逆の姿、天に両手を掲げて祈りを捧げている姿。そのどれもが喜びに満ちた笑顔だった。ボクのチカラで人が笑顔になった。


 子供だった故に、その使い方も知らず、選べず、もがき苦しんだ事もあった。それが今はどうだろう。ボクはこんなにもたくさんの、幸せそうな顔を見る事が叶っている。

 こんなモノ要らないと一度は思ったこのチカラ。今見ている光景が、この先また見られるのならば、ボクはこのチカラをふるい続けよう。そう心に強く誓った。


 自分でもハッキリ分かる。家から逃げ出した時の迷いはもう無い!自己満足だろうが人々を助けるチカラがあるのなら、何を惜しむ必要があるのだ。人がどう思おうがもう関係無い!ボクはボクの喜び、即ち人々の喜ぶ笑顔を見たいという自己満足で、自分を貫き生きてやる!!


 その思いが、今のボクを強く突き動かしてくれる。今までここで治療した人達は、この街の住人だった。という事は、この街で悪さしている奴がいる。そう考えられる。


 ボクはその場で地面を蹴り、診療所の屋上へと飛び上がった。『虚無』のせいか、前より軽々とした感じでチカラが発動した。そして屋上から、来た方向とは逆の港の方を見てみると、港だけでは無く、街のあちこちから、火の手が上がっているのが確認出来た。


「洋子さん!港まで転移して、こちらに向けて一気に掃討するよ!」


 診療所の前で、ボクの様子を見守っていた洋子さんに、二人での総攻撃開始を促した。


「はい!稜くん!いい顔になってるよ!男の子だね!行くよっ!!」


 誰に言われるでも無く、洋子さんに言われるのが一番染みる。ボクは再び入った気合いを、更なる原動力として、屋上から転移した。下にいた洋子さんを一瞬で掻っ攫ってだ。



やはり主人公は自己満足に生きる男だ!他人の思考は気にするな!いらん世話でも構わんさ!の精神を貫き通す決意をした主人公!さぁ、この街から悪者を一掃しろ!!

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