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9 反省無き公私混同と微かな足跡

前回より迷惑なき……もとい!有難き協力者現る!

 市内からバスを乗り継ぎ、最後に降りたバス停より更に五分程度歩くと、手入れされた様子が全く伺えない小道が左手にあった。

正午手前だというのに、まだ朝露が乾ききっておらず、左右から伸びる丈の高い(かや)の葉が、ボクの行く手を阻んでいた。

 洋子さんお手製の、少し頼りない情報薄の地図では、確かにこの小道で間違いないはずだが、そこを分け入るのは少し気が引けてならない。

子供の頃であれば、喜々として躊躇なく進んだのだろうが、大人になった今、足元に何が出るか解らないという事を、先に頭で考えてしまう。

成長は、知識や思考を育て、身体を大きく丈夫にしてはくれるが、思い切りや、遊び心を退化させてしまうようだ。この状況に全く楽しさの欠けらも感じない。


 昨晩遅くに、洋子さんとゆうこさんが、ボクの部屋へ強引に上がり込み、勝手に酒盛りを始めてしまった。帰れと言っても聞いて貰える気がしなかったので、流されるままとなったのだ。

その時に、『手土産』と称して、お手製の地図と、住所が書かれたメモを手渡された。勿論、ナミちゃんに関する情報だ。先も述べたように、地図は大変お粗末なモノだし、住所さえ判れば探しようはあるのだ。

正直、電話でもよかったのでは?と、つい、そう……つい呟いてしまって……。あの後のアレは、記憶から抹消しよう……。


 右手に握った長い木切れを、左右にブンブン振りながら、足元の視界を妨げる茅を薙ぎ払う。そうやって進んで来たからか、目的地まで結構な時間を要してしまった。


 しかし、予想通りの結果だ。今来た道の様子からして、ここ何年か、人の出入りが無い気がしていたのだが、目の前のソレは、最早『家』とは呼び難いモノだった。辛うじてまともに見えるのは、崩れかけた建物の位置からして、入り口とみられる『門柱』だけだ。しっかり立っている二本の門柱の、左右にあったはずのブロック(べい)は、家屋同様に崩れてしまい、瓦礫(がれき)と化していた。

 しかし凄い光景だ。原型を留めていない家屋の屋根からは、周辺の様子に負けない程の雑草が生えていた。


 二本のうち右の門柱には、表札が掲げてあった事が解る。そして、その門柱の脇には、塀に差し込み口が設けられるタイプの、郵便受けが転がっていた。手掛かりがないか調べてみると、公共料金の督促封筒が、色褪せて貼り付いていた。郵便受けが頑丈であったためか、封筒の中身は無事のようだ。


 『真咲 和枝』氏名を表示する欄に、その文字を見つけた。ビンゴだ!ここで間違いはないらしいが、とても住める場所じゃない。きっと何処かへ越した後だ。それ以上、手掛かりになりそうなモノは発見出来ず、ボクは廃屋を後にした。


 帰りのバスに揺られ、少し酔ったみたいで気持ちが悪い。幸いバスは空いていたので、気兼ね無く窓を開けられた。既に日は傾き始めていた。

 揺れるがままに身体を預けている為、時折頭を窓にぶつける。それでも首を起こす気力がない。視線は窓の景色に向け、なるべく遠くを見る様、心がけた。どんどん流れる眼下の景観が、カラフルな糸を引いているみたいで、とても綺麗に感じる。確かめようと注視すると、たちまち流れがゆっくりとした動きに変わる。視線を遠くにやると、また素早く動き出す。

 普段はどうでもよく、気にもしない事だが、車酔いで気分が悪く、動作が限られてきた為、こんな事が面白いと感じてしまう。

 だが、それを楽しむのも終わりの様だ。今回は少し酷く酔ったようだ。多分、昨晩飲まされた安い酒のせいだ……。二人を恨めしく思いだしながら、降車ボタンに手をかけた。


 こんなに辛い乗り物酔いは、中学の修学旅行以来だった。迷惑だとは知りつつも、気持ちの悪さに負けていた。ボクはバス停のベンチで横になってしまっていた。通りすがりの視線が痛い……。

 この後ボクは、あろう事か、そのままそこで眠ってしまったらしい。正確には、意識が朦朧(もうろう)とし、寝たまま倒れた状態に陥ってしまったのだ。


 ぼんやりとした視界に、いつもより、少し高い天井が映る。まだ気分が優れない。頭もガンガンする上、少し熱っぽい感じがする。しかも幻聴が……。思ったより重症みたいだ。しかし、無事に帰ってこれたのは、幸運としか言えない。その記憶がないからだが、こうしてベッドに寝ている。我ながら大した事だ。

 まだ起き上がる気力もない。集めた情報を整理したいとこだが、今日は諦めて寝るとしよう。


 ここは?真っ暗で何も見えない!グッ!息が……出来ない……うぅ、ぐぁー!


 「むぁ!ふガァ!グワァ!ぐわっ!だーーーーっ!!!」


 あまりの苦しさに、顔を覆っていたモノを跳ね飛ばす。今のは、夢か?にしても、この息苦しさはリアルだ。何かがボクの上に倒れてきたのか?思い当たるようなモノはウチには無いと思うが。

 肩で息を整える、心臓も元の速さに戻っ!!!!!何かにいきなり後ろから首を引っ張られた!またも暗闇にのまれ……!


 暗闇?になる前にチラッと……!何かに気付き、本能に従い引き剥がす!


「こっ、殺す気かーーーー!!!!!!」


 夢からの流れで、苦しんだ分だけ力のこもった口調になった。


「もーっ、せっかく心地いい抱き枕だったのに〜。ほらほら〜。」


 そう言いながら、特大サイズの双球に、悪びれた様子も無くボクの顔を押し当てようとする『洋子さん』

本当に、本当に、困った人だ!グイグイ迫る洋子さんを、軽く押し退けながら立ち上がる。


「どうして洋子さんがここに!?……て、あれ?ここウチじゃない……し。」


「ぶ〜っっ。もぅ!覚えてないの?稜くんベンチで横になってたよ?凄い熱出して!看護師として、見過ごす事出来ないでしょ!感謝しなさいよもぅ。」


 あ、あの感覚は、やはり熱があったのか。不本意ではあるが、洋子さんに感謝しなくては。


「もーーっ!また失礼な事考えてる顔だー!覚悟シロー!!」


 そう言いながら、既に飛び込んで来てる洋子さん。顔が埋まり苦しいのだが……。色々な意味で死にそうだ。

はぁ〜。蓋を開けてみれば、なんと嘆かわしい破廉恥ブリ……。協力者の正体は、職務放棄部 部長 特大双球洋子氏でしたね〜。他にいい協力者が……あ!今回もありがとうございます!それでは!タタタッ……

「こぉら〜!!待てぇ〜作者〜!!悪口言ったでしょ〜!!まてー!!」

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