86 善の決意
平穏無事な毎日を送っていたはずの主人公だが…
あれから何事も無く過ごしていたのだが、その平穏を打ち砕く不信感を抱く事になる。
〜 昨日 〜
奈々子もいなくなって、組織の残っているはずであるメンバーも動きを見せていない。と、川上さんの情報を耳にしたボクと洋子さんは、先送りにしていた結婚式をしようと相談していた。
「稜くんは着物がいい?それともタキシードでビシッと決める?」
「洋子さんが主役の様なものだから、ボクがそれに合わせる事に、不満なんてないよ。」
元住んでいた街にある結婚式場に来ているのだが、全てここで手配してくれるらしいので、洋子さんとここで打ち合わせも兼ねて、色々と相談中だ。はしゃいでいる洋子さんを見ていると、結婚式をやる事にして良かったと感じる。
実はあまり乗り気では無かったのだ。呼べる人もそういない事や、まだ戦いが終わってから、そんなに日も経っていない事が心配だったのだ。川上さんを信じていない訳ではないが、藤永がまだ見つからない事が気になっている。
しかし、母の強い勧めもあって、ボクは重い腰を上げたという訳だ。しかも洋子さんの笑顔でその心配も薄れてしまったのだ。
試着を何度も見せられたが、どれも彼女に良く似合う素敵なドレスだった。
スタイルも良いので、何を着ても良く似合う。いや、胸のサイズが合えばだ。
そんな感じで初日の打ち合わせは無事に終わった。洋子さんのドレスが決まっただけだが、式場の方は、それをモチーフにした会場作りが出来ますと言っていた。
打ち合わせが遅くまでかかったので、帰りに何か食べて帰る事になった。
そして、洋子さんのリクエストでお寿司屋さんに決定した。
回らないお寿司屋さんはボクも初めてだったので、注文する時に凄く緊張した。
洋子さんは何度か経験あると言って、得意げに注文を入れた。
「は〜い!伊勢海老!!」
元気よく言った洋子さんだったが、伊勢海老が無いと分かるとションボリしてしまった。お店の人の話しでは、注文する人がいないので、滅多に仕入れないと言っていた。
それでも、ネタが新鮮で、板前さんの腕が良いと思われる握り寿司や、小鉢の一品料理などを食べて、洋子さんも満足してくれた様子だった。
そうやって、ボクには長く感じた初日目が終わった。
そう思っていたのだが、夜中に携帯の呼び出し音で目を覚ました。時間を確かめると夜中の二時過ぎだった。非通知となっていたが、ボクは電話に出てみる事にした。
「なぜだ、お前はなぜ約束を守らなかった!おい、奈々子はどこなんだ!どうして帰らない!お前ら…、もしかして奈々子を…くっ…。」
「お前は…、藤永か?…、奈々子は帰らないぞ。組織はおしまいだ。」
酒に酔っている様だが、話しの内容からして、藤永に間違いないと判断したボクは、悪事を認めて罪を償う様に促した。
「へっ、へっ…、お前は意外とバカなんだな…、見損なったよ。組織?ハハハハ!お前、組織がオレ達だけだと?良い事やってる組織があるとでも?ギャハハハハ!傑作だなこりゃ!」
「そんな事分かってるさ。何が言いたいんだ?はぐらかすのなら切るぞ。お前に用は無いからな。」
負け惜しみの様な捨てゼリフに聞こえたボクは、正直ウンザリしていた。早く電話を終わらせて、ぐっすり寝たいものだと思っていた。
「…、そうか、本当に知らないのか…。なぁ、オレが金持ちに見えたか?地下の遺跡跡に、あれだけの施設をオレが作れるとでも?光栄に思うが、それは違う…。ふふっ、まぁいい。いずれ自分の馬鹿さ加減に気付くさ。ハハハ…、せいぜい洋子くんを幸せにするんだな…。灯台下暗し野郎、じゃな……プー、ププーッ…」
一方的に人をバカ呼ばわりして電話を切る藤永。彼が何を言いたいのか全く分からなかった。金の話しも特に気にした事がないので、何の事なのかさっぱりだった。
「う、ん…、稜くん、どしたの?…、おいで…、寝よっ。」
ボクもつい大きな声で話していた様だ。洋子さんを起こしてしまったみたいだ。洋子さんは寝ぼけているみたいだが、ボクに来るように言って、両腕を広げて待ってくれている。
ボクは素直に『所定の位置』で再び眠りについた。
翌朝、母に夜中の電話の事を話してみた。すると、母が外で話そうと言って、ボクと洋子さんを自室から連れ出した。外は冷たい風が吹いているが、太陽がハッキリ見える良い天気だ。
母は、庭の端に積んである、建築材料の板をベンチ代わりに腰掛けた。そして取り急ぐ様に口を開いた。
「稜、洋子。正直に言う。川上さんを信用するな。」
ボク達をここまで連れてきて座る間も与えず、急ぎ口にした端的過ぎるその言葉は、仲間を信じるなと言うものだった。しかもこの街のトップである川上さんを。
「いやいや、いくら何でも川上さんに失礼だよ?何か根拠があるのなら、そこから聞かせてよ。信じるかは別だけどね。」
「うん、悪かったわ。そうね…、じゃ、なぜ外で話してるか分かる?」
ボクの言った事を理解してくれていないのか、母がまた謎かけ質問で返してきた。少し苛立ち始めるボク。そんなボクの肩を掴んで洋子さんがこう言った。
「稜くん、お義母さんの事だから、きっと何かの意図があってこうして話していると思うよ。何かを自分達で気付いて欲しい、みたいなのを感じるの。」
洋子さんが言うならと、ボクも母から少し離れて腰を下ろし、真剣に聞く事にした。洋子さんも隣に座ってくれる。
「ごめん、聞くよ。で、外で話す意味があったの?」
「もぅ、質問に質問で答えてどうするのよ?ま、これも質問だけどね。いいわ、私の部屋、監視されてる。」
母のお説教はともかく、その後の言葉がやはり信じられない。監視という事は、盗聴器やカメラが仕掛けられてるという事だが。
「その証拠はあるの?カメラとか?」
「そんな生易しいモノじゃない。あの家の発着信された電話の内容。夜間も使える赤外線監視カメラ、盗聴、それが至る所に仕掛けてある。あの家、前から残ってる家よね?勿論今も機能してるけど、あの様子じゃ前から監視してたわよ。」
確かに前からのものだが、やはり実物を見ていないので、信じる事が出来ない。今まで気付かなかったのもどうかと思うが。
「お母さんはどうやって知ったの?全部見つけたとか?」
「ううん、善様に今朝聞いたの。貴方達に話してあげてって。他にも色々聞いたわよ。」
ボクと洋子さんは、お互いの顔を見合わせて、驚いた表情を見せ合った。善さんはこんなウソをつく人じゃないからだ。では善さんはどうやって知ったのだろうか?と、疑問は浮かんだ。
「なるほどね、強気で言う訳が分かったよ。他にもって?」
「そうよ、あの善様だもの。他は、今の状況ね。しばらくマスター見ないと思わない?」
懲りもせずまた謎かけしてくる母に、本当に苛立ちを覚えた。勿体ぶらずにさっさと教えて欲しいものだ。ボクはその母に、少し顔をしかめて見せた。
「分かったわよ、もう。そのマスターなんだけど、川上さんの指示で、街でのあんた達の行動を見張る為に、あっちに仮住まいしてるって、善様が言ってた。奈々子の居場所を探っている事も聞いたわ。それは他の人間がやってるみたいよ。」
「でも奈々子は死んだよ?それ皆んな知ってるじゃ……、あ、いなかったか。川上さんとマスターはあの時いなかったよね?知らないんだ。あ、でもカズちゃんは知ってるね。」
母の言うマスターの監視も驚いたが、奈々子の事を話した時、川上さん達はいなかった。そう考えてみると、母の話しの辻褄が合う。
「それも善様に頼まれたけど、和美ちゃん知らない感じだったわよ?ミドリも話せないから問題ないと思う。まだ怪しいってだけで、確証はないのよ。ただね、なぜそれを私達に黙ってるか?なのよ。」
確かに母の言う事も一理ある。これまで色々話してくれたのに。と、少し不信感を持ってしまう。そこに、またまた突然善さんが現れた。
「お気に入りさん、アタシ決めたのですよ。『善』としての役目は終わらせるのですよ。貴方に救っていただいたこの陽子、これからは仲間として戦うのですよ。」
突然現れて、突然戦います宣言をした善さんは、何かが吹っ切れた様な感じがする笑顔を見せてくれた。
夜中の藤永の電話といい、主人公の母が話す監視の事といい、考えれば考えるほど真実味を帯びてきた!更に善まで戦うというその本当の訳は!?




