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85 騒がしい平穏。

善を救えて一安心の主人公。いつの間にか寝ていた様子だが……



 今朝はやけに騒がし過ぎて、目覚ましが鳴る前に目覚めてしまった。と言っても、朝の九時だ。決して早くはないのだが、ここ数日で色々あり過ぎた為、目覚ましをわざと遅くセットしていたのだ。


 昨日、善さんを蘇らせる事に成功した後、『虚無』からこの自宅へと帰ってきて、善さんが、ボクと同じ状況で蘇ったから、時間関係のチカラも使えるはず!と言うので、疲れ果てたボクは、そのままお任せして眠ってしまった。


 この騒がしさからすると、どうやら善さんがチカラの使用に成功した様子だ。しかし、ボクは未だに理解出来ていない。


 ミドリが奈々子を倒してしまった事で、あっけなく幕切れとなった組織の陰謀。しかし、その首謀者である『藤永』は、未だにどこかで生きながらえているはずだ。ヤツも転移のチカラを持っているはずなので、一応気をつけておかねば。


 しかし、あれだけ離れないと言っておいて、隣に洋子さんがいないのはどういう事だ。ボクは少し拗ねてしまい、乱暴にベッドから出て、キッチンへと向かう事にした。


 バンッ!! 「ぐわっ!」(ボク)


 出ようとしてドアを開けたら、突然ドアが勢いよく戻って、ボクの鼻を直撃した。


「わあっ!稜くんごめーん!後で戻るよー!!」 バタバタバタバタ…。


 鼻をさすりながら立ち上がるボクの耳に、急ぎ走り去る洋子さんの声がそう聞こえた。何を慌ててるのか見当もつかないが、ボクも気を取り直して、後を追う為に部屋から出る。


 ドガッ!! 「ひゃうっ!!」


 出たはずだが、またもドアが高速で戻ってきた。治りかけた鼻をまたまた直撃だ。少し意識が飛びかけたボクの耳に、今度はゆうこさんの声が。


「だーっ、邪魔だ!ちょ待て!!洋子ーー!!」


 どうやらボクを襲った一打目は、ゆうこさんから逃げる洋子さんの仕業で、二打目がそれを追うさっきのゆうこさんの仕業のようだ。騒がしさの原因は、この二人の様だ。



「お母さん、おはよう。洗い物?」


 キッチンにいる母を見て、デジャヴの感覚を覚えた。時間が止まったと知った時のままの姿に見えたからだ。その母が、訝しげな目でボクを見て一言。


「おはようって…、何言ってるの、今帰ってきたんでしょ?善様が言ってたわよ。」


「今?えっと、寝てたんだけど。さっき起きたとこだよ?」


 ボクの今の言葉を信じてないのか、母はボクに『はいはい。』と言いながら、流しの洗い物を片付けていた。


「お気に入りさん、起きたのですね。あ、先程やっと解除出来たのですよ。遅くなりましたね。」


 ボーっと、信じてくれない母を見ていたボクに、善さんが、庭に通じる大きな窓の外から声をかけてきた。その言葉を聞いて、母の先程言った言葉が理解出来た。


「善さん…、おはようございます。夢じゃ無くて良かったです。」


「あらあら、嬉しい言葉ですね、感謝していますよ。お礼にチカラの使い方を教えますよ。」


 そう言って善さんが、ボクを庭に連れ出す。そして再び静寂が訪れた。しかし、ボクと善さんだけは大丈夫だ。止まっていない。善さんになぜ止めたのか聞いてみると、静かで話しやすいからと、単純な理由からだった。


 その善さんとの会話を纏めると、ボクが『虚無』から『空間転移』をした時に、時間を止めてしまったという事だ。特に発動に必要な言葉は無く、イメージだけで発動するので注意が必要だと教えてくれた。


 発動と解除を無意識で使用しない為に、時間を止める時は『時間停止』として、解除する時は『時間再生』と言葉にして訓練する事にした。


 『空間転移』のイメージと良く似たものである為、使い分けを意識しなければ、前回の様に、転移と同時に『時間停止』が発動してしまう。


 その方法なのだが、動いている世界をイメージして、そこに『停止』や『再生』の念を溶かし込む感じらしい。熱いコーヒーが渦を巻いている時(空間転移のイメージ)に、クリーム(再生、停止)を落とした時の、カップの中の様子がそれに近いかもしれない。


 最初に発動した時の詳細について善さんが言うには、ボクが『悪』のところに転移しようと、何度もイメージした事が原因らしい。

『虚無』から与えられたチカラが大き過ぎる為、家に転移場所を変えた時、家で皆んなが生活しているところを、強くイメージしてしまい『時間停止』が発動したと教えてくれた。


 勿論、『虚無』から大きなチカラを授かっていなければ、ただの『空間転移』で終わってしまう。授かる方法が死亡してからの再生なので、もう一度やれと言われても、ボクは二度とゴメンだが。


 そこまで教えてくれた善さんが、自分が止めた今の状態を、ボクに解除してみる様に告げた。ボクは訓練の為にとそれを試みる事にして、庭の中央に移動した。


 目を閉じて『空間転移』の要領で場所をイメージ。更にそこに動き回る人々の想像を置いて、ボク自身が発動条件に決めた言葉を吐き出す。 『時間再生』


 次の瞬間、色々なモノが出す空気の振動が、一気にボクの耳穴に飛び込み鼓膜を振動させた。少し痛いと感じる程の音の波だった。それを合図に、世界が動き出したと感じた。『時間再生』は成功したのだ。


「あらあら、さすがお気に入りさんですね。聞いただけで使えるとはさすがですよ。」


「あ、ありがとうございます!善さんは自分でそれを明かしてみせたんですから、その方が凄いですよ!」


 後で聞いたのだが、この時のボクは、応援団の様に声を張り上げていたそうだ。耳が痛いと感じた時に、少し聞こえにくくなっていたのだろう。そうなると自分の声も自然と大きくなるものだ。


 これで時間系のチカラの授業は無事に終わったのだが、洋子さんとゆうこさんが、庭に出てきて取っ組み合いを始めてしまった。取っ組み合いと言ったが、どちらも手に持つ黒のマジックで、お互いの顔に落書きし合っているレベルのものだ。


 おそらく、洋子さんの『鼻ピー、胸パッド』のイタズラがバレた為に起きた騒動だろう。しかしゆうこさんは気に入っているのか、胸は特大のままだった。見てると何だか虚しくなってきたのである。


 ボクと善さんは、無言のままそれを見過ごし、母のいるキッチンへと入ってしまう。外の喧騒をバックミュージックに、善さんと二人でコーヒーをいただいた。


 騒がしいっていいね。心が落ち着くよ。


 その日の夕方は、洋子さんに無理矢理お風呂に連れて行かれ、顔のマジックインクを落とす羽目になった。だからイタズラなんてやめておけばいいのに。


 そして夕食の時、テーブルについた皆んなが、ゆうこさんの眉毛について一切口を出さずにいた。その肩は、誰もが小刻みに震えていた。

誰か教えてあげればいいのだが、似合ってなくもないので、ボクもそのまま、その太い眉毛を見ながら食事を進めた。



「稜くん、ねぇ、稜くん!オートバイごっこは〜?ぶーっ……。」


「ダメだって洋子さん、ほら、ミドリがずっと見てるよ?」


 ボク達は食事を終えた後、二人で先に部屋に戻ってきたのだが、ミドリが既に部屋にいたのだ。しかも座ってピーナッツを無表情で頬張っていた。電気も点けず真っ暗な中でそれをやっていたミドリ。真っ赤な瞳が更に怖いと感じさせる。


 このミドリだが、ボクを連れて転移した後あたりから、ボクの後を付いて来る様になった。洋子さんが言うには、動かないカズちゃんを助けたのが、ボクだと思っているのではないか?だそうだ。


 さすがに部屋に居座られると、ボクと洋子さんの幸せな時間に支障がある。洋子さんは気にしていない様だが。ここはちゃんと言い聞かせる必要があると判断した。


「ミドリ、カズちゃんの側にいなさい。彼女を守るんだよ。行きなさい。」


 《カズミ…、マモル。…、マメ…、タベル。…、カズミ。》


 いや、豆どうでもいいから…。行くんだミドリ。


 そう言いながら、まだピーナッツを食べようとしていたのだが、いきなりガバッと立ち上がって出て行ってしまった。勿論、大皿を持ってだ。そのせいでミドリがいた場所には、ピーナッツが散乱していた。


 悪気が無いのは分かるが、もう少しモノの道理を理解してほしいものだ。


 仕方なくピーナッツを片付けるボクに、洋子さんが後ろから飛びつき、『オートバイは〜っ!」とワガママを言っていた。この人にもミドリと一緒に、再教育を善さんにでもお願いしたいものだ。


 ちょ、洋子さん!落ちた豆を食べない!!


 今日は胃も痛くなってきた…。



時間系のチカラを使える様になった主人公。何かの役に立つのだろうか?

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