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84 善再び。

※ 4/15 間違って完結済みになっていましたので。連載中に戻しております。紛らわしくて申し訳ありませんでした。



 ボク自身がここへ転移出来ないのだが、時間を止めるチカラだけは、この世界へも影響を及ぼしていた。理不尽さを感じるが、『虚無』が与えたモノと『人』が与えたモノの違いだろう。どちらにも限界はあるはずだ。


 ボクをここへ連れてきたミドリは、時間が止まったせいで動かなくなったカズちゃんの側に座り込み、先程家から持ってきたであろうピーナッツを食べている。時折カズちゃんを見上げ、その口元にピーナッツを差し出したりしている。


 そのカズちゃんや、シャクシさん、『悪』さえも止まったままだ。それを確認して、もう一度奈々子の姿を確認してみる。死んでしまったのは間違いない様だ。ミドリが『コロシタ』と言っていたが、それは奈々子より、ミドリの方が危険な存在でもある事の証明でもある。


 そして不可抗力ではあるのだろうが、無残にもえぐられた胸元から転がり落ちた『種子』が、今はボクの手の中にある。無駄かもしれないが、善さんを救える可能性が少しでもあるのなら、試してみる価値はある。


 善さんの身体は、自宅の裏に作ったお墓の下に眠っている。火葬しなくて良かったと感じていた。時間を戻す事が出来ないと、ここにいても出来る事はない。洋子さんも心配しているはずだし、ボクは一旦戻る為に、ミドリに話しかけてみる。


「ミドリ、お願いがあるんだ。家に…、カズちゃんの家に送ってくれないか?カズちゃんも連れて行こう。どうだい?出来るかな?」


 名前を呼んでも反応してくれなかったので、カズちゃんを引き合いに出したところ、ボクを見上げてミドリも何かを伝えようと口を開いてくれる。


《イエ…、カズミ、イエ…、カエル、マメ…タベル……、カエル。》


 フォォォォォォッ! 「うおっ!!」


 ミドリの突然の『空間転移』に少し驚き、情け無い声が漏れた。その声が聞こえたのか、家の中から洋子さんが走って出てきて、ボクに飛び込んできた。


「また勝手にいなくなったぁ〜っ!もぅ、ビックリするじゃない…、うぅ…ぐすっ…。」


 突然ミドリがボクを連れてあちらに転移したから、洋子さんを驚かせてしまった様だ。また泣いてしまっていた洋子さんの頭を撫でて慰める。


「ごめんね、ミドリが『悪』のところへ突然転移したんだ。もう離れないから心配しないでね。」


「ううん、ぐすっ…、私が手を離していたからいけないの。困らせてごめんなさい。うぅ…ぐすっ…。」


 いつもの気を使った洋子さんらしい答えが返ってきた。その洋子さんを慰めながら周りを見回してみると、あの場にいた全員が、自宅の庭に連れてこられているのが見て分かった。


 それをやってのけたミドリは、またカズちゃんの側でピーナッツを頬張っていた。


「洋子さん、あの奈々子が『悪』の創った空間で死んでいたよ。ミドリが言っていた事は本当みたいだよ。ほら、これ。」


 腕の中でまだ少し泣いている洋子さんに、そう話しかけながら、手のひらに握ったままだった『種子』を見せた。


「稜くんこれは?…、これが稜くんが言ってた『種子』なの?大きな梅干しの種みたいだねこれ…。ぐすっ…。」


 その見た目の感想はボクも同感だ。だが、これが善さんに魂を吹き込むはずだ。そう信じたい。ボクは洋子さんにその事を話して、一緒にお墓を掘り起こす事にした。


 そして、小さな棺を掘り出して開けてみる。そこには、見るに耐えない善さんの傷んだ身体があった。おそらく一度きりのチャンスである為、ボクはこの瞬間に何をすべきか、しばらく前から思案していたのだ。


「洋子さん、『虚無』に善さんを連れて行ってから、これを戻そうと思うんだけど、洋子さんも来るかい?絶対に『虚無』では僕から手を離さない事。それが条件だよ。』


 一人で行動したら、また洋子さんが独りぼっちで泣いてしまうだろうから、危険ではあるのだが、一緒に行く提案を持ちかけてみた。


「いいの?邪魔にならないなら、離れたくないから、連れていってほしいよぉ。」


「邪魔には思わないよ。ただし、危険な場所なんだ。だから絶対に離れないでね。」


 その言葉に頷いた洋子さんが、早速ボクから離れまいと行動に移った。


「あ、あの洋子さん?これじゃ善さんに『種子』を戻せないよ…。出来れば後ろからでお願いします。」


 幸せで嬉しいのだが、真正面から全ての手足で抱きつかれても困るのだ。これでは前が見えたものではない。洋子さんがその言葉に、素直に従ってくれたのを確認して、ボクは『虚無』へと転移した。



 相変わらずここには、いい印象など持てないと感じる。まあ何も無いのだから、印象も何もあったものでは無いのだが、雰囲気というか、感覚というか、何も無いからこそ不安な気持ちになるのかもしれない。


 長く出張などで家を空けて、久し振りに帰った時、そこに見慣れたモノがたくさん溢れていて、心が安心感で満たされホッとするはずだ。


 しかし、そのたくさんのモノが無くなり空っぽだとしたら?そこを出て行く場合であっても、思い出を頼りに、やはりそこに存在していたモノを背景として想像し、安らぎを感じると思う。そこにモノがある、もしくは、あったからだ。


 それを踏まえて、ここのあり方を目の当たりにすると、思い出させてくれるモノが無い事に不安を感じて、悪い印象としてしか残らない。そういう事なのだとボクは思う。


「稜くん、何もないところだね、稜くんがいなかったら、自分が立っているのか、浮いているのか、分かんないとこだよ。」


 うむ!キミはどちらでもなく、しがみついているからだよ。


 確かに洋子さんのいう通りだ。前回は一人だったのでその意味が分かる。その話しを聞いた後、ボクは善さんの身体を『虚無』の空間へと浮かべた。直ぐに虫食いの様な現象が始まったので、予めイメージしておいた通りの動きをやってみた。


 善さんのポッカリ空いた胸元に、『種子』をあてがう。すると、虫食い現象が、それを含めた善さんの全てを消滅させてしまった。洋子さんが言葉を失っている様子だ。不安にさせるのが可愛そうに思えて、少し説明した。


「洋子さん、大丈夫。ボクの考えでは、変化が起きるのはこれからだから。」


 そして、そのボクの言葉を待っていたかの様に、変化が見え始めた。善さんの身体の組み立てが始まったのだ。ボクが記憶でみたそれと変わらない現象が起きている。


 しばらく時間がかかったが、善さんの身体が、全て元どおりの綺麗な姿に戻った。やがてその瞳がゆっくり開けられた。赤い瞳だが、他は全て以前のままたった。


「お帰りなさい!善さん。」


 ボクはそう言いながら、ピーナッツを善さんに渡した。案の定、それを手に取り頬張る善さん。生まれて直ぐに『種』を欲しているうと聞いていたから、ボクが用意していたのだ。


 まだ、これで終わりではない。ボクは集中して、心の中で善さんを呼ぶ。


《聞こえていますよ。お気に入りさんは、まだアタシに生きる事を勧めるのですね。分かりましたよ。》


 意識でそんな事を伝えてきた、素直ではない善さん。そこからしばらく静寂が続いた。そして、今までピーナッツを頬張っていた善さんが、黒くなった瞳でボク達を見てこう言った。


「あらあら、またこの姿で『善』としての役割を果たすのですよ。」


 変異体の善さんの身体が、入り込んだ善さんの意識によって、吸収された瞬間だった。


「善さん、これで本当の、お帰りなさいですね!」


「あらあら、ただいまですよ。洋子、泣くのはおよしなさいね。もぅ。」


 そう言う善さんの言葉で、後ろからしがみついている洋子さんを見ると、声を出さずに涙していた。静かだと思ったら、泣いていたとは気付かなかった。



とうとう善を蘇らす事に成功した主人公達。奈々子もいなくなった今、これから平和が訪れるのか!?

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