83 意外な結末
緊張感がない洋子を連れて、組織のある村跡地へと来た主人公。しかしそこには…
静けさ。というのは、たまには必要だと思うが、こうも長い時間静かだと気持ちが落ち着かない。まだ洋子さんがいてくれるから、寂しい思いをしなくて済んでいる。一人で三人分くらい騒いでる人だから。
あの変な音頭をやめさせてここまで来た。変異体奈々子と戦った『廃屋』がある村跡地だ。ボク達は更に奥にある、お堂を目指した。その途中で洋子さんが、思い出した様にボクに訴えてきた。
「稜くんも共犯者になるべきだったんだよ。後で私だけ悪者になっちゃうよ〜っ。稜くん?帰ったらなろう?共犯者っ。」
後悔するくらいなら、やらなければいいのだ。洋子さんが言っている共犯者とは、ゆうこさんに対してのイタズラの仲間になれ、という事だ。
出がけに、ボクからデート音頭を中断させられた腹いせに、ゆうこさんの顔に太い眉毛を描いたり、頬っぺたを赤く塗ったり。それで終わらせておけばいいのに、鼻にピーナッツ詰めて大爆笑していた。
更にはズボンまで下ろそうとしてたので、すかさずチョップで天誅を下した。
もう面倒くさいので、自分の着替えを済ませていたのだが、コソコソ何かやっていると思えば、ゆうこさんのブラの中に、両手いっぱいのパッドを何枚も詰め込む、イタズラな顔の洋子さんを見た。
気にせず放っておいたのだが、部屋から出た時、超特大サイズを胸に携えたゆうこさんを見た。そしてその前で、ゲラゲラ笑う洋子さんがいた。
太い眉毛、赤い頬、鼻にピーナッツ、特大てんこ盛りの胸。イタズラが過ぎると思うが、洋子さんが楽しそうなので、そのままにしてこの地に来たのだ。それを今になって後悔している洋子さん。
一度来た事があるので迷う事はなかったが、組織の内部に置かれた水槽が不気味に感じた。そして、時間が止まっていようがいまいが、あの時同様、橋は非常に怖かった。
そしてとうとう、藤永と話しをした小さな病院に似た建物まで辿り着いた。ここに来るまでに、奈々子の姿が無かったのは言うまでもない。目的は奈々子の『種子』なのだから。
止まった時間の中、動いているモノは何もいないのだが、ボクは緊張しながら建物の中へと足を踏み入れた。シン…と静まり返った病院程怖く感じるのだ。
慎重に進むボクを、先程からずっと後ろから胸でボヨンと押してくる洋子さん。その度にクスクスと笑っている。本当に困った人だ。
建物の中をくまなく探してみるが、藤永も奈々子もいない様だ。ここまで来て無駄足に終わったようだ。ここは少し気持ちが悪いので、早々に立ち去る事にした。
洋子さんは病院で働いていたので平気だと言っていた。それもそうだ。看護師さんが、自分が務める病院で、毎日怖がっていたら仕事にならない。
「洋子さん、ごめんね。思いつきでこんなとこまで付き合わせちゃって。帰りはデート気分で戻ろうか!」
「えへへ、稜くんありがと〜ぅ!ずっとこのまま二人きりでもいいよ。」
いやいや、それは何かとボクが困るから。
ここに来た時も長く感じたが、戻る時は早く感じると言うのは本当の様だ。もう通路を抜けて外に出る階段のところまで辿り着いた。はしゃいで階段を上る洋子さんの姿が可愛らしい。ボクも後を追って、飛び跳ねる様に外に出た。
出た途端に洋子さんにぶつかってしまう。ぶつけた鼻を押さえながら、洋子さんを見ると、空を見上げていた。時間が止まったままなので、昼過ぎの青い空のままだった。
「稜くん、あの露天風呂で一緒に見た夜空は、凄く綺麗だったよね。時間、戻せるといいね。」
洋子さんのその言葉で、ボクもあの夜の事を思い出していた。同じ様に空を見上げた。
「うん、綺麗だったよね。必ず時間、戻すから。待っててね。」
洋子さんにそう返した自分の言葉で、家にそのままの格好で置いてきた、ゆうこさんの姿がふと頭に浮かぶ。
時間…、戻さない方が平和だと思う…。
そんな事を考えていたボクに、洋子さんが行くよ!と手招きの合図を送っていた。その姿は、既にオートバイにまたがっていた。リアシート目掛けてダッシュ!
せっかく組織まで行ったので、以前住んでいた街を、オートバイで走ってくれる様に、洋子さんにお願いした。見慣れた街は時間が止まったせいで、いつもと違う雰囲気を感じさせた。
太陽が傾かないので、時間の概念が薄れていた。どれくらい掛かったのか分からないが、ボク達は無事に自宅へ着いた。ゆうこさんを元に戻さなくては。胸以外を。
そう考えながら玄関に向かうと、出てくる時に、閉じておいた筈のドアが開いていた。ボクの緊張感が一気に全身を駆けめぐった。ボクのそんな様子を見たのか、洋子さんも直ぐにボクの後ろに来てくれた。
「洋子さん、ドア閉めたのに、開いているんだ。気をつけて。」
見たまんま伝える芸の無い言い方で、洋子さんに注意を促した。洋子さんがそれに黙ったまま頷いた。
静かにドアに近付いていき、玄関の中の様子を伺う。皆んなの靴が散乱しているのが見える。子供の頃のしつけがなってないとこうなる。と、善さんが前に言っていたが、ボクが親を知ったのは最近だ。
「稜くん…、見た事無い靴があるよ。ほら、赤いやつの横。」
小声で洋子さんが言う見たこと無い靴は、見た事が無いので、説明は要らないと思うし、赤い靴だらけなので、その説明は意味を成していないと思う。ごめんなさい、洋子さん。
洋子さんのトンチンカンな説明はさて置き、靴と言うより、サンダルといった履物があった。変な話しだが、わざわざ履物を脱いで人の家に侵入とか、おかしいものだ。泥棒に入って、茶碗を洗う犯人とそう変わらないと思うが。
お決まりのアホを考えながら、ボク達は玄関の中に入って行く。静かに靴を脱ぎ、廊下へと足を踏み出すが、『ギシッ』と木材のしなった音を響かせてしまった。お尻の辺りに、冷や汗をかいている感覚が伝わってくる。
パタッ パタッ パタッ パタッ
時間が止まり限りない静寂の世界で、ボク達の存在以外に音を立てる別の存在が、先で折れ曲がった廊下の向こうから近付いてきている事が分かる。
洋子さんと顔を見合わせた。ボクは、歩き方を忘れた様に、踏み出した足を引けずにいた。そして、廊下の角から、別の正体が姿を現わす。
緑色の髪、赤い瞳、白い肌、青い唇、ボクは、更に緊張感が増していくのを感じていた。組織へ探しに行ったが、そこにいなかった奈々子だ。
「奈々子っ!!ここで何をしていた!」
ボクのその言葉を合図に、洋子さんとお互いに戦闘の構えをとった。
《…マ、メ…、カズミ…、ウゴカナイ…、マ、メ…。》
「お、おい?…、ミドリなのか?…。どうしてここに?」
ボクの質問に答える訳がないのだが、ミドリに間違いなさそうだ。しかし、なぜここに来れたのか不思議だ。洋子さんは、皆んな動かないと言っていた。
「洋子さん、皆んな動かなかったって言ってたよね?なぜミドリは動けているのかな。」
「そうだよ、あそこにいた全員が動かなかったもん。あ、でもミドリは和美ちゃんに寄りかかってたし、元々動かないから、分からなかっただけかもね。」
そう言われてみると、確かにミドリは普段から動く方ではない。そこはそう解釈しても問題ないとして、問題なのは、時間が止まっているのに、なぜ動けるのか?だ。善さんが何をやったかは知らないが、洋子さんも動けている。ミドリも善さんに何かされたのだろうか。
《お気に入りさん、アタシは何もしないのですよ。洋子は意識を揺すったら起きたのですよ。そちらのアタシの命を絶った方には、当然何もしませんよ。》
うお!ビックリした!生前から突然なのは知ってるけど、いつも突然だもんなぁ。
《あらあら、話すのに了解を得る話しをするのですか?今から話します、とでも?ですがそれも突然になるので、更に…。あらあら、アタシったら、ムキになりましたね。あ、そうそう、その方、『虚無』から生まれた方には、時が止まっても、影響が無いはずです。時間の概念が無いのですから。》
「なるほど、だからミドリは動けるのですね。『虚無』からという事は、ボクも大丈夫か……、奈々子も?善さん!奈々子も動けるって事ですか!?」
《…、マメ、…、タベル…、ナナコ…、コロシタ。…、カズミ、コロス、ダメ。…ナナコ、コロシタ。》
善さんにそう尋ねたのだが、そこにピーナッツを食べながらミドリが割って入り、少し滑舌になった感じでそう話した。
「ミドリ?奈々子を殺したのか?カズちゃんは大丈夫なのか?」
ミドリの言葉が凄く気になるので、質問責めになったが、疑問と心配を投げかけてみたのだ。すると、何も答えないミドリが、ボクの腕を掴んで、自分の方に引き寄せた。と同時に、『空間転移』が発動していた。そしてなんと、『悪』の空間に連れてこられたのだ。
そしてそこには、ミドリの言葉が真実である事の証明が横たわっていた。
奈々子の変わり果てた姿が、その死を教えてくれた。側には善さんが奪われたのと同じ、『種子』が転がっていた。
とても信じ難いミドリの言葉が、現実のものとなり、戸惑う主人公が目にしたのは『種子』だった…。これで善を救えるのか!?




