78 チカラの差
あの空間で消えた奈々子が、今再び主人公の前に立ちはだかる!しかしその強さは…
戦闘形態を取るボク達に、奈々子の第一波の攻撃が襲いかかり、先程それが終了したところだ。終了とは言ったが、戦いが終わった訳ではない。現に目の前の奈々子は、余裕の笑みを浮かべてボク達を見下ろしている。そう、空中に静止してだ。
「ヒャハハハ!ど〜ぅしたのよぉ〜、傷が治るだけ〜ぇ?ほらぁ〜、私にも傷をぉ〜ん…つけてよねぇ〜。」
相変わらず色気も感じさせない奈々子の口調がカンに触る。まるで攻撃が当たらない訳ではないのだが、奈々子の身体に傷を負わせるまでに至らない。ボク達の『瞬足』で追いつけない程速いのだ。
最初は瞬間移動だと思っていたあの動きが、超高速の移動だったのだ。それも『瞬足』の動体視力を持ってしても、たまに見える程度でしか奈々子の移動を目で捉える事が出来ない。
どれだけ洋子さんやゆうこさんの攻撃威力があっても、当たらなければ意味がない。ボクに関しては、基礎の能力が低い為、気絶しない程度に防ぐのが精一杯だ。それもおそらく、奈々子の手加減したこのお遊びの中でだ。
その証拠に、奈々子はボク達の方も見ずに、全てを躱して見せている。この三人相手に、こうもレベルが違う戦いをされると、戦意など吹き飛んでしまいそうになる。
「ねぇ〜ぇ?殺しちゃいたいんだけど〜、あのお方が会いたいって言うからさぁ〜ぁ。ちょっと着いて来て〜ぇ、くれない?断るなら〜っ、死体にして持って行くけど〜キャハハハハ!」
奈々子が苛立ちを感じさせる口調でそう言ったかと思うと、いきなり第二波の攻撃に打って出て来た。やはり目で追う事は敵わず、先ずはボクが吹き飛ばされる。その攻撃が、足なのか腕なのか確認すら出来ず、無様に地面を転がった。
ちぃっ…、くそ!どこか連れて行くって話しはどうしたんだよっ!
そんな事をチラと考え奈々子を見据えると、残る二人を攻撃するでも無く、ボクを更に追撃をせんとする奈々子の顔が、鼻先三寸のところまで迫っていた。
あの薄気味悪い笑い声を聞きながら、ボクは再び宙に打ち上げられ、そこに瞬時に現れた奈々子が、バレーのアタックの様な予備動作の姿勢に入るのが、視界の隅に映った。そのまま地面に叩きつけるつもりなのは明白だが、それを頭で考えると同時に、奈々子の攻撃を浴びてしまった。
一瞬の事で、僕自身、説明する事が出来ないのだが、地面に叩きつけられたはずのボクが、洋子さんの腕の中にいる事実だけは理解出来た。そしてボクを優しい眼差しで見つめた後、その瞳の色が急に変わり、頭上にいるはずの奈々子を睨みつけている様子だ。そしてボクを下ろしながら、口を開く。
「ゆうこ、稜くんを…。アンタ…奈々子だっけ、稜くんを狙った事を、後悔させてやるから、そこで待ってろ、今からぶん殴る!」
ゆうこさんにボクを預ける様な言葉の後に、頭上の奈々子に対し、いつもの口調とは違う後の言葉を吐きながら、洋子さんが片膝を地面に着いて、奈々子を見上げて、言葉通りの事をして見せた。
折り曲げた膝を一気に伸ばすと同時に、『ドンッ!』という重低音が響いた。それとほとんど同時に、頭上から鈍い打撃音も聞こえてきた。
見上げると、先程飛び上がる動作を地面で見せていた洋子さんが、既に奈々子を殴り飛ばした姿が視界に映る。更にその後を追って、奈々子より高い位置に姿を現わす洋子さん。
ボクは驚いた。その姿が現れるまでの洋子さんの動きが、全く見えなかったのだ。それを奈々子と同レベルの動きだと思わずにはいられなかった。
そして、その突然現れた位置で、先程ボクが奈々子にされたのと、全く同じ攻撃を繰り出したと思われる洋子さん。その攻撃の瞬間こそ見えなかったが、打ち下ろした後と思われる右腕が、それを容易に想像させてくれた。
そう認識したのも束の間で、鈍い音と共に、ボク達のいる少し先の地面が、土を巻き上げ抉れているのが見えた。恐らく奈々子が叩きつけられて出来たモノだ。
そして、つい今しがた飛び上がって攻撃を繰り出していた、洋子さんがボクの側に着地した。
「稜くん、もう痛くない?さっきはごめんね、まだ、今みたいに速く動けなかったから…。」
「え?突然速くなったの?ってそうだよね。手を抜く必要性が無いもんね。…何か新しいチカラを見つけたとかなの?」
ボクを心配して声をかけてくれた洋子さんが、自分の変化に心当たりがある様な言い方をしたので、気になり尋ねたのだ。
「ううん、分かんないけど、稜くんを酷い目に合わせたから、怒ったの。でね、何だか出来る気がしたの。」
「…、え?それだけ?怒ったから速くなれたの?う〜ん、何でだろうね?」
正直なとこ、話しても理由が全く分からなかった。
「ヒャハハハッ、痛いじゃな〜い。ちょっと驚いただけ〜ぇ、アッハハハハ!」
終わったと思って話しているところに、またあの苛立つ声が聞こえてきた。本当にしぶとい女だ。声がしたのは地面が抉れた場所からだ。見ると、何事も無かった様に宙に浮く奈々子の姿があった。
「まぁ〜…、仕掛けたのは〜ぁ、私だしぃ、許すわ…。ほらぁ、さっさと行くわよ〜ぉ。」
薄々気付いてはいたが、やはり本気を出してはおらず遊んでいた様だ。洋子さんのあの攻撃を受けても、ケロッとした様子が、それを証明していると感じた。
ボク達は顔を見合わせて、それぞれに頷き合い、奈々子の後について行く事にした。現段階で戦っても勝てる見込みがない、という考えもあった為だ。
廃屋から更に進んで奥に分け入ると、荒れ果てたお堂の様な建造物が見えてきた。そして奈々子が、そのお堂らしきモノの後ろに回り、しばらくしてボク達に来る様に合図してきた。癪に触る態度だが、従うしかないボク達は、警戒心を抱いたままその後に続いた。
掘り下げられた跡の様な入り口からは、土で固めて出来た様な階段が顔を覗かせていた。そこを奈々子が滑る様に下りていく。その少し後を遅れて下りてついて行く。
暗くジメジメした感じの狭い通路を、一列になって進んでいく。先が見えないせいか、随分と長く感じた。やがて通路の出口を通過したボク達は、数々の円筒状の水槽が視界いっぱいに立ち並ぶ、大きな空洞に驚きを隠せずにいた。
なぜなら、その全ての水槽の中には人間が入っていたからだ。
人間こそ入っていなかったが、ボクはこの水槽を見た事があった。洋子さんの父親が指揮していた、あの研究施設でだ。しかしここの水槽は、中の液体の色が様々だ。隣でボクの手を取り歩く洋子さんも、水槽を見て思い出しているかの様に見える。その目に戸惑いの色が伺えたからだ。
更に先に進むと、立ち並ぶ水槽の列を割って、通路の様なモノが設けてあり、奈々子がそこを進んでいく。その通路の両脇に連なるチェーンが手摺の役割をしている様だ。足元はスチール製の板を貼り付けてある感じの造りだ。ちょっとした橋に見えなくもない。
奈々子に従い、同じ様にそこを歩いて行くと、『橋に見えなくもない』ではなくて、なんとこれが橋そのものである事が分かった。慎重に下を覗き見ると、そこにもビッシリと水槽が敷き詰められていた。
ここからは水槽の上部の様子が伺えた。まるで潜水艦のハッチの様なハンドルが備わった、重そうな蓋が被さっているのが見える。
いったい誰がアレを開ける事が出来るのだろうか?
またもやどうでもいい事を考えてしまうボクに、奈々子が遅れるな!と釘をさしてきた。
決して幅が広い訳ではないこの橋は、ボク達が歩く度にギシギシ音を立て、左右にユラリと揺れ動く。奈々子は浮いて滑り行くので平気なのだろうが、鳶のバイト経験があるボクでさえ、高さと揺れが気持ち悪いと感じる。
やっとの事で恐怖の橋渡りツアーが終わって、ボク達がたどり着いた場所は、角張った白い建物の玄関先と思われるところだった。小さな病院にも見えるその建物から、人影がこちらに向かって、歩き出てくる様子が見えた。やがて薄明かりの中に姿を現した人影の、その正体が分かる。
「やぁ、伊町くん、お!それに洋子くん、ゆうこくんも、久し振りだね。私の組織研究施設へようこそ!」
そう言ってボク達を迎えたのは、ともこ先生の担当医師であり、ボクの担当医師でもあった、『藤永 護』だった。
意外にも素直な一面を見せた奈々子に、ついてくるように言われたその先で、懐かしさと怪しさを感じさせる、藤永がいた!奈々子があの方と呼ぶのはコイツなのか!?




