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76 新婚旅行!?

やっとその気になった主人公。二人で婚姻届を出しに行き…



 あの次の日、ボクと洋子さんの二人で、『婚姻届』を街の市役所へと提出しに行ってきた。まだボク達の住所がそこにあったからだ。


 洋子さんと、病院で再開をさせてくれたあの街に。


 提出した後、手続き完了の言葉に、お祝いの言葉を添えてくれた係のお姉さん。その言葉でまた、洋子さんが泣き出してしまったが、嬉しさで泣いていると分かっていたので、ボクは人目も気にせず強く抱きしめて一緒に喜んだ。


 そのままその足で、転出届けに新しい住所を記入して提出した。後は、二週間以内に川上さんに受理してもらうと、引っ越し完了というところまで済ませてある。


 そしてその翌日、式もまだなのだが、新婚気分が味わいたいと言うボクの妻、

洋子さんのお願いで、引き続き同じ宿に、二人きりで泊まっている。勿論同じ離れの部屋だ。


「稜くん、ワガママ聞いてくれてありがとう。えへへ。」


 露天風呂から立ち昇る、湯けむりに包まれた洋子さんが、ボクの方へ近付きながらお礼の言葉をくれる。先に入っている様に言われ、湯船に浸かりながら洋子さんを待っていたのだ。


 実は今、凄く緊張しているのだ。新婚気分を味わうと言っていたが、これは新婚旅行と相違無いと取れる。という事は、だ。この後人生初のイベントが、もれなくセットになっていると考えるべきだろう。


 そんな事を考えてしまうからだと思うが、いつもの洋子さんなのだが、凄く意識して言葉がうまく出てこないでいた。そんなボクの気持ちを知ってか、知らずか、洋子さんがボクの隣に腰を下ろして湯船に浸かる。


 腕を取り、抱きしめながら寄りかかってきてくれるが、いつもと全く違う気持ちで色々と気になり出す。


 眠る時、顔を当たり前の様に『所定の位置』として埋めていた胸も、腕に当たる感触や、湯船でゆらゆら揺れているところが凄く気になりだす。

 頭の上に束ね上げた髪が、いく筋か首元にハラリと落ちているのも超魅力的だ。

何より、ボクを見つめるその瞳が、ボクの心臓の高鳴りを更に加速させている。


「りょ、稜くん…、どうしたの?そ、そんなに見られたら、恥ずかしいよぉ。」


 洋子さんも緊張しているのだろうか。いつもと違う言葉を使い、ボクの顔を上目使いで見つめている。温泉のせいなのか、それとも意識して緊張しているのか、その顔は赤く染まっていた。


「う、うん…あ、ごめん、綺麗だな…って思って。意識して…。」


「あ、…、私も…。ずっと一緒にくっついて寝てたのに…変だよね。」


 洋子さんも同じ様に思っていた様だ。そう言った洋子さんの言葉に、共感を覚えていたところで、月明かりが、露天風呂全体をバァッと明るく照らした。


 まだ花もさしていない梅の木が、少し大きく見える月と重なり、ボク達を幻想的な世界へと誘ってくれる。


「わぁ…、綺麗…。伊町洋子になって、初めての温泉と、初めての綺麗な夜空。稜くんと一緒に、これからも色々な初めてをたくさん経験するんだね。ずっと側にいてね。」


 洋子さんはそう言って、直ぐ側の梅の木の向こうの夜空を見上げながら、ボクの肩に頭をあずけてきた。ボクは、そんな洋子さんの肩をソッと抱き寄せ一緒に夜空を見上げた。



 昨夜のロマンチックな雰囲気は何処へやらだ。洋子さんがランさん同様に、何もかもを放り出して寝ている。勿論、隠すべきところは隠しているが、魅力溢れる綺麗な顔で、大口を開けて大の字に寝ているのはどうかと思う。


 あの後、ボク達は、極度の緊張感を和らげようと、お酒を飲んでしまったのだ。緊張して言葉が少ない代わりに、お酒の量がどんどん増えていき、挙句の果てには、酔っ払った洋子さんの愚痴を聞かされ、二人共疲れ果てて寝てしまったのだ。


 このいつもと違う寝相の悪さは、きっとお酒の影響だ。はだけた着物を直そうとするボクに、容赦ない寝返りの反動付き『蹴り』が炸裂した。チーン。と音が聞こえた気がした。



「稜くん…ごめんなさいってば、寝てたから知らなかったの。ねぇえ、稜くんってば〜。」


 強烈な蹴りをいただき、デジャヴなのか!と思わずにはいられない露天風呂へのダイブ。これが怒らずにいられるか。いや、正確には洋子さんに怒ったりしない。拗ねて見せているのだ。


「もうね、絶対に洋子さんにお酒は飲ませない。普通の人ならあの世行きだよ?もう…。」


「うん…、飲まない。だから機嫌直してよ〜、ね、あ・な・た!」


 拗ねて見せるボクの腕に絡まり、ちょっと幸せな言葉を武器に攻めてくる洋子さん。


「いや、そんな怒ってないって〜もお〜、んふふふふ…。」


 単純なボクだった。チーン!


 朝から()()()災難だったが、新婚旅行にハプニングは付き物だ。という事にしておいて、ボク達は思い出の『展望所』へとタクシーで向かった。転移すると良い雰囲気になれないからだ。


 前に一緒に上ったコンクリートの階段下でタクシーを降りた。あの時はパトカーがいっぱいで、身を隠そうとここを上った事が思い出される。洋子さんも思い出しているのだろうか。階段を見ているその瞳は、遠くを見ていると感じさせるものだった。


 そんな物思いにふけっているであろう洋子さんの手を取り、ボクは階段へと歩き出した。相変わらず誰も掃除などしていない様子の階段だ。落ち葉が前より積もっている気がした。


「前に来た時は、逃げる事で頭がいっぱいだったよね。こんなに長い階段だったかなぁ?」


「そうだね、あの時より、ゆっくり上っているからじゃないかな?幸せだーって思う事でさ、焦らずゆっくりと行こうっていう、気持ちの表れみたいなモノじゃないのかな?」


「ふ〜んっ、稜くん、少し変わったね。落ち着いたっていうか、大人の男の人って感じ?…、私は子供っぽいから、稜くんが面倒臭くならないようにしなきゃね。」


 ボクも大して変わらないのだが、洋子さんのその言葉には、自信の無さという感じが、表れている様な気がする。


「ボクもそんなに変わらないよ。結婚して一緒にいるんだから、一緒に成長していければ良い。洋子さんの子供っぽいところだって個性でしょ?ボクは大好きだなぁ。それにさ、ボクが子供っぽく甘えてしまう時は、洋子さんがお姉さんみたいになってるしね。お互い似てて良いと思うよ。」


 そう言ったボクの言葉に、洋子さんは笑顔で答え、ピョンと先に上がり、一段上からボクを引き上げて見せた。その顔は得意げでイタズラな、いつもの笑顔になっていた。



 もうすっかり寒くなったからだろうか、緑だった草花が、茶色にその姿を染めていた。あの時とは違い、冬の寂しい景観をボク達にさらけだしている。四季の表情は正直だなぁ、と感じた瞬間でもあった。


 外周の柵に二人で肘をかけて、その向こうに見える海を眺めた。展望所の寂しそうな景観とは打って変わり、遠く感じる太陽の光を()んだ海は、それを小さく砕いた光の粒にして、ボク達にキラキラと投げてきている。


 刻々と変わる波の形が、それを更に色々な角度に曲げて見せてくれる。

二人でそれをずっと見ていると、やわらかい温かさが伝わってくる様な感覚にさせる。


恐らくそう思わせたのは、いつの間にか腕に抱きつき寄り添ってくれた、洋子さんの温もりのせいだろう。


 昨夜は緊張して、身体に触れる事すら出来ずにいたボクだが、そのまま遠くを見つめたままの、洋子さんの顔にかぶさるようにして、開きかけたその唇に、結婚後初の長いキスを交わした。


 この場所での、独身のファーストキスに次ぐ、夫としてのファーストキスになった。


 ここは、ボク達の愛を結んでくれた大切な思い出の場所。二人の『聖地』となった。



緊張しまくりだった主人公も、やるときゃやる!く〜、羨ましいぜ!!

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