75 サプライズ
飛んだ不可抗力!落ちた先が露天風呂で本当に良かった…。
やっと離れの露天風呂に浸かる事が出来た…、いや、飛び込む事が出来たボクは、佐々木さん親子が着替え終わるまで、そのまま露天風呂で待たされる事になった。
災難だったとはいえ、せっかくの露天風呂だ。ボクは服を脱いで側の岩に置き、冷え切った身体を温める事にした。途中、ボクの様子を覗いた洋子さんが、その様子を見るなり服を脱ぎ捨てて飛び込んできた。
色々な意味で幸せなのだが、少しは羞恥心を学んでほしいものだ。目のやり場に困ってしまうからだ。そして、そのまましがみつく行為も控えてのしいものだ。
案の定、湯船から上がれなくなったボクは、結局素っ裸のまま、洋子さんに抱えられて救出される事となった。湯のぼせしたのだ。洋子さんだけに見られるならまだしも、リン、レン、ランに老人にまで見られてしまうとは、思ってもみなかった。
う〜、あの、お婆さん?…おい!佐々木の婆さん!近いよ!
朦朧とする意識の中、ヤケに顔が近い佐々木の婆さんに、そうツッコミを入れるボクだった。
色々と恥ずかしい思いをしたボクだったが、気をとり直して視察ツアーに出発する事に。『空間転移』。
視察と言ったが、まだ何も無いこの街は、見せるところなんて無い。ただ、こういう場所だと知ってもらうと同時に、ウチの女性陣にも紹介しておきたかったのだ。しばらくは、ボクの家で過ごしてもらう事にもなるのだから。
「ここが今のボク達の家です。仲間も一緒に暮らしているんですよ。紹介しますので、中にどうぞ。」
そう言って佐々木さん親子を案内するのだが、未だランさんの顔をまともに見られないボク。あんなあられもない姿を見た後だ、刺激が強過ぎて思い出してしまうのだ。その顔を見ると。
先ずはキッチンとリビングを案内したのだが、キッチンには、カズちゃんとあの女がいて、大皿いっぱいの『豆』を二人で食べていた。その様子を訝しげな目で見るボクに、カズちゃんが女に名前を付けたと言って、その名前を教えてくれる。
「お兄ちゃん、この子ね、『ミドリ』って言うんだよ!私が付けたんだよ〜。髪が緑だからねっ。」
そのカズちゃんの紹介に合わせているのか、『ミドリ』が首を可愛らしく傾けた様に感じてしまった。そうは考えたくも無いのにだ。
ボクにとっては、まだ善さんの仇にしか見えないのだ。直ぐに受け入れる事が出来ないでいた。
案内していた皆んなの、どうしたの?と言っている様な顔を他所に、ボクは何も言わず二階を案内する。ランさん達に使ってもらう、この家最後の空き部屋だ。家族で過ごすには十分な広さだが、ベッドがこの部屋には一つも無い。
「佐々木さん達にはしばらくここで過ごしてもらいます。アパートが出来上がるまでの間です。あと、ベッドはこちらで今から用意しますから、ご安心を。」
「ありがとうございます。何から何までお世話になり、感謝しています。素敵なご夫婦と知り合えて、私達は幸せです。」
不安にさせない様にと説明をするボクに、ランさんが感謝の言葉を伝えてくれる。顔はまともに見れないが。しかし、ご夫婦というのはまだ早いと思うのだが、ランさんにはまだ、本当の事を伝えていなかった事に気付いた。
「あ、あの、そのご夫婦とい」
「わあ!素敵なご夫婦だって!稜くん、嬉しいよね。ふふふ。貴方の妻で良かったわ〜!ささ、貴方、家具を買いに行きましょう!」
真実を伝えようと口を開いたボクの言葉に、上から被せてそう言い放つ洋子さんは、ボクに反論する隙を与える事なく、部屋から引きずり出してしまった。いずれそうなるからいいのだけれど。
家具を買いに行くと言った洋子さんだが、どこに買いに行くのか分かっていない様子だ。
「洋子さん、夫婦って言われた事を、ボクが否定すると思ってるの?確かにまだ結婚していないから、本当の事を言っておこうとは思ったよ。でも洋子さんと夫婦になるのは絶対に間違いないからね!不安に思っているのなら、それは取り越し苦労だよ。」
「うん…言われて嬉しかったの。もうそうなりたいって思ったの。まだまだやる事があるのは分かってる。でも稜くんとちゃんと夫婦っていう確かなモノがほしい。ずっと婚約者でいたくないよ。」
言われてみると、婚約と言っても口約束しただけの、何の保証もないモノだ。不安に思う事もあるのだろう。ならば。
「洋子さん、家具なんだけど、ボクが働いていたホームセンターで買おうか?一緒に行ってくれるよね?それから、印鑑屋さんに寄って、ゆうこさんとボクのお母さんに協力もしてもらわないとね!」
洋子さんは、ボクが何を言っているのか、理解が出来ていない様子だけど、そんな洋子さんの手を引き、強引にホームセンターへと転移した。パトカー追跡から、かなり日が経っているので、店内にいるボク達を見ても、誰も気づいていない様子だ。
「あら!無事だったのね!心配したのよ〜。」
いや…一人いた……。
そう言って声をかけてきたのは、あの空を飛んで大破した『松田カー』の持ち主の松田さんだった。ボクは、今までの経緯と称し、嘘の話しを松田さんに聞かせて、車が壊れた事を謝罪した。
「アハハ、大丈夫よ!アレ、ずっとそのままだった店長の車だから!通勤に借りてたのよ、アハハハハ!」
どうりで気前よく貸してくれた訳だ。しかし、お陰で助かった事に変わりはない。ボクはお礼の言葉と、今日ここに買い物に来た事を伝えた。快く案内をしてくれる松田さん。途中ボクは、お手洗いに行くと言って、転移を使い用事を済ませて戻った。
「あ、稜くん!これのセットが可愛いと思う!って、もう買ったんだけどね、えへへ。」
「うんうん、洋子さんが選んだんだ、喜んでくれるよ。ありがとうね。じゃベッド持って帰ろうか!」
そう洋子さんに告げて、松田さんに、ベッドを裏に運び出す様にお願いした。業者さんに頼んで運んでもらうと、嘘を言ってだ。
全て運び出してもらい、また来るからと挨拶を済ませて、誰もいなくなった事を確認してから転移した。家に着いて、寺ッチにも手伝ってくれる様に頼み、佐々木さんのいる部屋へと運んでもらう。
洋子さんには、その監督をしてもらう事にした。ボクは、母とゆうこさんにお願いする事があったので、その場を離れて用事を済ませる事にした。
ボクの用事も滞りなく済ませ、佐々木さん達の部屋の様子を見に行ってみた。女の子が喜びそうな、ピンクの水玉模様のベッドがお揃いで四台並んでいた。既にどれが誰のベッドか決まっている様子だ。リンとレンがベッドの上で跳ねていた…が…。
佐々木の婆さん!アンタまで跳ねんでいいから!
様子を見に来ていたボクに気付く洋子さんが、隣に来てランさんに向き直り、口を開いた。
「あの、…本当の事を言うと…、その…、私達まだけっ」
「洋子さんこれ!お願いします!!」
ボクは、今日一日コソコソと準備して、やっと用意出来たモノを、洋子さんに差し出しながら、頭を深々と下げてお願いをしている。
ソレを洋子さんが、受け取ってくれて、しばらく声も出さずに眺めていた。そして、瞳から涙をポロポロこぼしながら、尋ねてくる。
「稜くん……、これ…、『婚姻届』…グスッ…うぅ…いいの?…書いても…。」
「勿論だよ。ボクのお母さんと、洋子さんの保証人にゆうこさんのサインももらったよ。後はボクの隣に、洋子さんが名前を添えてくれれば、明日一緒に提出しに行けるね。」
そう言った直後、洋子さんは号泣しながらボクに抱きついてきてくれる。イエス!って事でいいんだよね!と心の中で、喜びをかみしめた。そして
「という事で皆さん!ボク達は『ご夫婦』で間違いないですから、これからもよろしくお願いしますね!」
その場にいたランさん達と、いつの間にか廊下に集まった仲間たちが、ボク達に拍手をくれた。
ボクは明日、この腕の中で泣きじゃくる洋子さんを連れて
『婚姻届』を出しに行きます!
ずっと、ずっと待っていた洋子の、念願の結婚!命を賭けて守り抜いてきた、愛する人との結婚…、その彼女の想いが、今叶えられた。これからもお幸せに!!




