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73 交渉。

前回土下座をしてまで、救わせてくれとお願いをした主人公。その後どうなったのだろう…。



 楽しみにしていた筈の露天風呂とは違い、ボクは今、本館の大浴場に浸かっている。現場作業員の人達は酔っ払っている人が多く、大浴場に入るなり湯船に浸かってくる。最低限のマナーは守っていただきたいものだ。


 あまりにも大勢がそうであった為、ボクは早々に上がらせてもらった。釣り客もそう感じたらしい。脱衣所でそのおじさん達がボヤいているのが聞こえた。


 ボクはこんな感じでこの時間を過ごしているが、洋子さん達は今頃、離れの露天風呂で、ゆっくり浸かりながら話しをしている事だろう。佐々木さんと二人で。


 宿の女将さんには了解をいただき、離れの専属仲居として扱われる事になった。露天風呂に一緒に入っている理由は、佐々木さんの身体中のアザを、洋子さんが『治癒』で治す為だ。


 やっとそこまで決心してくれたのだ。ボクがお願いをした時は、「勘違いしないで下さい」と突っぱねられた。誰が見ても暴力の傷跡なのに、(かたく)なに違うと言い張っていた。

あまり無理強いしても、本人の自尊心を傷付けるだけと判断して、この件に関してそれ以上は触れなかった。


 しかしそれから二時間後、彼女が片付けに来た際、その重い口を開き、真実を語ってくれる事になる。


 学校時代のイジメもそうだが、恥ずかしさと恐怖心で、中々他人に打ち明けられるものではない。これが大人になれば特にそうなるのだ。更に言うと、職場よりも家庭内の事が一番打ち明けられない。


 しかも今回は女性の視点から見る家庭内での暴力だ。これは、相当迷ったであろう佐々木さんが打ち明けてくれた事だ。離婚も考えたらしいが、子供二人と、年をとった母親が一緒にいる為、彼女一人で、三人抱えての生活は勿論の事、仕事さえもままならないだろうと判断して、それが出来なかったと泣きながら訴えていた。


 今はパートタイマーで融通の利く職場である為、何とか両立出来ているが、離婚すると給料が全く足りなくなると語ってくれた。


 現在、ボクの生活において、周りには女性が多い。しかも全員強いときてる。佐々木さんの様に、虐げられている女性を見ると、ウチの女性陣の様に、強くなってもらいたいと願わずにはいられない。


 さて、どうやって彼女を救うかが問題なのだが、警察に突き出して訴えたところで、逮捕されて社会復帰するまでの期間が、決して長くはないと聞いた事がある。


 接近禁止命令が出たとしても、こういう事をする輩は、十中八九再び付き纏い、プレッシャーを与えて相手にトラウマを発動させる恐れがある。そうなると今度は抜け出すのが以前より難しくなると思われる。


 とは言うものの、やはり法律で裁いてもらうのが正当な方法と言える。普通の人ならそうすべきである。


 だが、ボク達は普通ではないのだ。洋子さんが佐々木さんと家族を連れ出して来る間に、ボクは川上さんと会う事になっている。洋子さんの提案だ。

今回は任せて欲しいと言う事で、ボクはサポートに回る事にしている。今から行く予定だ。



 転移が出来る事で、移動が楽で便利になった。一瞬で自宅まで戻ってきた。リビングで川上さんが待っている筈なので、家に入る事にする。いざリビングへ。



「お待たせしました。突然電話ですみませんでした。」


 リビングに入ると、お揃いの黄色いパジャマを着た、川上さんとマスターが待っていた。遅れた事を謝罪しながら、ガラステーブルを挟んだ彼らの向かいのソファーに腰を下ろす。


「早速なのですが、この街の土地を購入したいのです。そしてそこに大きめのアパートを建設しようと思っています。それがまず一つ目のお願いです。次は、そのアパートに住む人の仕事を提供てほしいのです。」


「伊町さん、購入って…安い買い物ではないのですよ?更にアパート建設となると…。まさか、本当に買っていただけるのですか!?ちょ、ちょっとお聞きしますが、予算は、というか、幾らお持ちなのですか?場合によっては少しくらいなら安く見積もって…え〜と…。」


「川上さん、ボクのお金ではないのですが、今提示した内容を全て手配してもらえるなら、十億までで交渉してほしいと、洋子さんに頼まれています。」


「じゅ…、十億!? いえいえ…、さすがにそこまでかかりませんよ…。ビルでも建てるつもりですか…。え、えと、ごめんなさい、驚いてしまって。分かりました。早急に手配しましょう。で、場所はどちらに?」


 意外とすんなり交渉が進んでいるが、川上さんの驚く様が面白い。マスターはポカンと口を開けたまま動かない。開いた口が塞がらないとはこの事だ。


「場所は中央部以外ならどこでもいいので、お任せします。あと、ここも買い取るそうです。後で見積書をお願いします。あー、それと、今ここの街への出入りは管理されていますか?」


「ちょ、ちょ、ちょっと!伊町さん!?ここも買い取るって…?ええ!買っていただけるのですか!?是非!是非お願いします!うわぁ、やった!」


 凄く喜んでくれている川上さんだが、肝心の質問への返答がまだ貰えていない。ジーッと見つめて待つ事にした。 ジーッ………ッッッ……。


「あの…、伊町さん…、もう私結婚するんですよ…そんなに見つめられたら…、困ります…。」


 いやいや〜困ってるのはボクですが?あー、マスターも困ってますね〜。


「いえ、この街に出入りする管理の問題を質問したので、その返答を待たせていただいてるのですが…。」


「あ、あっ、アハハ…ハハハ。はい、以前と同様の方法で管理し始めたところです。」


 自分の恥ずかしい勘違いに、少しポンコツになる川上さんだった。管理されていると言う事で、特別なお願いをしてみる。


「それならば、一つだけお願いがあるのですが、後ほど写真を持ってきますので、そこに写った男を絶対に街に入れてほしくないのです。これが一番重要な事なのです。」


「な、なるほど、何か事情がおありの様ですね。分かりました。そちらも写真をお持ち頂き次第、手配致します。後は見積書を作成したらお渡しします。他にも何かあれば、ご遠慮なくどうぞ。」


 無事交渉は成立したようで安心だ。更に川上さんが、事情があると察してくれたのはありがたい。その理由を聞かないところも彼女らしい振る舞いだ。


「ありがとうございます。この街の発展に少しでも協力したいと、洋子さんが提案してくれた事なので、受け入れてもらえて、ボクも嬉しいです。これからもよろしくお願いしますね。」


「いえ、こちらもかなり有難い事ですから。ご協力感謝します。」



 堅苦しい?話しも終わったので、この後は、マスター達の結婚式の話しや、カズちゃんの学校の事、マスターが喫茶店を新たにやりたい事など、色々聞かされる事になった。


 そして、洋子さんと打ち合わせした集合時間が迫ってきたので、二人に挨拶を済ませて、宿へと転移した。


 いきなり部屋に転移して驚かせても悪いので、離れの入り口から声をかけて部屋に入った。既に洋子さん達は、目的を果たしてくつろいでいた。

 佐々木さんが改めてお礼を言ってきた。その後ろには女の子が二人と、お婆さんの姿もあった。無事に連れ出されて安心している様子が伺える。


 「助けて頂き本当にありがとうございます。私の家族を紹介をしますね。」


 出る前に話した時とは違い、明るい表情でそう言って、家族を紹介してくれる佐々木さん。


 子供さんは姉妹で、姉が『凛』、妹が『蓮』、そのお婆ちゃんが『タケ子』、そして本人も改めて自己紹介してくれた。『佐々木 蘭』。それが彼女の名前だ。ランさんと呼ぶ事にしよう。


 しかし、お婆さんを除く彼女達の名前は、リズムよく呼びやすい。リン、レン、ラン。歌の歌詞に出てきそうだ。そしておその婆さんだが、なんと旦那の義母らしい。


 ランさんと義理の息子が結婚するまでに、何度も逃走したらしいのだが、その度に酷い暴力を受けて、自分はもう死んでいるんだと、心折れて諦めたそうだ。子供達は、ランさんが代わりに殴られていたので、暴力にさらされる事は無かったと、ランさんが涙ながらに話してくれた。


 言いにくい事なのだが、彼女達はとても酷い扱いを受けていたせいか、何とも言い難い臭いを発していた。ボクは洋子さんに頼んで、温泉を使ってもらえる様にと、ランさんに伝えてもらった。


 今夜ボク達は、自宅の部屋で眠る事にした。離れは佐々木さん親子に使ってもらう為だ。洋子さんも是非そうしてほしいと言って、不満を言う事は無かった。


「稜くん、任せてくれてありがと。それと…、妻って…嬉しかったよ…。」


 いつものベッドで横になるボクの隣で、顔を赤くして洋子さんがそう言ってくれる。ボクは少し照れくさくなり、所定の位置に顔を埋めてそれを隠した。そして、そのまま眠ってしまった。



何とか佐々木を助ける為の交渉も終え、安心する主人公。アパートが出来上がるまでの期間どうするつもりなのだろう……。

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