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7 下心無き決意と解放

キーワードに無いのですが、何だかミステリー要素が……。ついに封印が!

 真っ暗な病室。少し目が慣れてきたが、まだ動けずにいた。後ろで彼女が出す衣擦れの音が聞こえていたからだ。先程まで苦しんでいたとは思えない行動に出た彼女。めまぐるしい展開に、ついて行けていないボクがいた。重い背徳感がのしかかってきていた。何とか止めさせられないものかと思案するが、彼女の勢いに気圧されたままのボクに、この状況の打開策が見出せないでいた。やがて、ポツリと彼女が呟いた。


「もう……いいよ。」


 勢いのある、その行動とは裏腹に、彼女の声が震えている。ボクに見てもらいたいと言っていた言葉を思い出し、頑張る彼女に応える様に、意を決して振り返る。

 ボクは少しだけホッとしていた。ちゃんと下着は着けてくれている。しかし、目のやり場に困るのは変わらない。真っ暗な病室のお陰で、視界がハッキリとしないのは、正直助かる。泳ぐボクの視線がバレにくいからだ。


「こっち来ないと、顔、見えないよ……。」


 振り向いたがいいが、そのまま固まり、動けないでいたボクに、彼女が促す。ぎこちない動きで、素直に受け入れるボク。ナミちゃんの顔が、暗いながらも、視認出来る。

 彼女は、ボクの手を取り、えへへ…。といつもの恥ずかしさを含む、笑顔を見せてくれる。そして、


「やっぱり……恥ずかしいね……。」


 と、表情通りの言葉をかけてくる。その彼女より固まるボクは、情けない限りだ。気の利いた、言葉の一つもかけてあげられないでいた。そんな状態のボクの頬が、急に温かくなった。驚いて視線を上げると、彼女がボクの頬を、両手で優しく包んでくれていた。ボクに向けられた笑顔に、ハッ!と気付く。

 この笑顔こそ、彼女に惹かれた要因だ。子供の頃、早くに両親を亡くし、引き取られた祖父母にも邪険にされ、いつも寂しい思いをしていたボクを、優しく支えてくれた笑顔があった。先生のあの笑顔だ。

 彼女が先生に似ているとかではない。優しい笑顔の質とでもいうか、その笑顔を見ていると、安心感が生まれるのだ。その安心感を、彼女も与えてくれているのだ。惹かれる意味を知り、より一層、彼女への思いが膨らむのが解る。

そして、失いたくない!という気持ちが、これまで封印してきたボクの決意を上回った瞬間でもある。


 絶対に失いたくない。決意は固く、普通であればまず口に出来ないと思われる言葉も、この思いの前では躊躇無く出てくる。


「お願いが……あるんだ。一度で構わない。触れさせてくれないかな……。」


 口にすると、さすがに平気だとは言えない程恥ずかしい。これは、破廉恥が生み出した、戯れの言葉ではない。今こそ封印を解き、彼女の病気を治さんとせんが為だ。直接触れなければ治せない。しかも、彼女からの同意を得れば、自然に触れてチカラを使える。治療だと公言して、不信感を抱かれるよりマシだ。

ボクが治したと知られて、また……。

 今回は大丈夫だ。彼女はチカラの事を知らない。


 しばらく、恥ずかしそうに俯いていた彼女だが、ちゃんと同意を得る事が出来た。

 緊張して震えるナミちゃんを、少しでも落ち着かせようと、頭を優しく撫でて見た。ボクの方を見て微笑んでくれたのを確認して、右手に意識を集中する。お腹から下を手始めとし、黒いモヤをどんどん薙ぎ払う。下着の辺りは、さすがに触れられないので心配だったが、周辺のモヤを払った時、吸い込まれるようにして、一緒に消えてしまったのだ。変態にならずに済んだとホッとした。


「ナミちゃん、ワガママ聞いてくれて、ありがとう。」


 完全にモヤが消えた事を確認し、頑張ってくれた彼女にお礼を言った。

 これで明日、いきなり元気になっても、医師とナミちゃんの努力の賜物だとなるだろう。


「ううん、私こそ……れて、ありがとう。でも、ごめんなさい、疲れたから、今日は帰ってもらっていいかな。」


 疲れた様子で、そう語る彼女に、また明日ね。と、軽い挨拶をして病室を後にした。扉を閉める時、彼女が携帯を取り出すのが見えた。多分、母親に連絡しているんだろう。

 そういえば、さっきの会話の途中、聴き取れなかったところがあったが、明日にでも確認すればいいだろう。

 封印を解き、彼女を救えた自己満足で、帰りの足取りも軽くなった。


 次の日、彼女に早く会いたい一心で、仕事を昼で上がらせてもらった。急いでアパートに戻り、身支度を整えて、病院へと向かう。

 こんなにも、病院へ向かうのが楽しいと感じた事はない。先生の時は、不安が大きかったし、勿論、自分自身が通う事も、決して楽しい事ではない。しかし、今日は違う。喜びに満ちた、彼女の顔が眼に浮かぶようだ。


 病室には乾いた風が流れ込み、そこにあったはずのモノを、全て巻き込み吹き抜けて行ったかの様に、閑散としていた。

 脳裏に戦慄が走る。開け放たれた窓、半分が束になり、風に揺らめく白いカーテン。目眩がしそうな程揺れ動く眼球は焦点が合わない。あの時と同じなのか?まさか……。

 フラフラと足元がおぼつかないが、あの時とは違う!と自分に言い聞かせ、何とか窓枠に手が届く。怖い!怖い!怖い!何度も頭の中で呟く自分の声。頭皮から噴き出た生汗が、ジワリと耳を掠めて流れる。窓枠に掛けた手が、カタカタカタカタ震えだす。胸の辺りから、押し上げる様に上がってくる声。それは鼻からも抜け出るように吐き出され、声とも言い難い音となって、病室に響いた。恐怖に満ちた音だ。


「どうしました!!あ、大丈夫ですか?」


 気付くと、看護師さんに肩を掴まれていた。ボクを見るなり笑い出す。


「どうしたんですかぁ。アハハ。凄い顔してますって今!」


 そう言いながら、尚も笑い続ける失礼な看護師さん。返す言葉が見つからず、不愉快な気持ちになりながらも、まだ見ぬ、窓の下の真実が気になって仕方がない。


「あぁ、そういえば、奈美恵さん!今朝退院したわよ?聞いてない?」


 聞くも何も、今来たところだ!しかも本気の恐怖顔を笑われた!つくづく失礼な看護師さんだ。そう心で叫びながら、訝しげな視線を彼女に向けた。


「あーっ!ちょっとキミ!もう忘れたの!?屋上の密会バラすよ〜」


 あ!そうだった!この看護師さん、ナミちゃんが屋上で待ってる事を、ボクに伝えてくれた人だ!



この後の展開、彼女は退院していたと!?稜に連絡くれてもいいのに……。少し疎外感を感じ、書いててイラッとしたのは内緒であります!

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