66 イメージ崩壊
主人公達がやってきたのは『悪』の世界。言葉にすると、いかにも!という感じだが…。
広大な土地の禍々しい城、入り組んだ岩の洞窟、などを想像してたのだが、シャクシさんに連れてこられたこの場所は、草花がびっしり生えている野原だ。
因みにここは、『悪』が創った空間で、その質が同じ善さん以外は出入り出来ないらしい。シャクシさんは善さんの分身みたいなモノだから、出入り可能らしい。置いて行かれたら大変だ。
綺麗に咲いた小さな花には申し訳ないが、先に進む為には踏み越えて行くしかない。シャクシさんの案内のもと、ボク達はその後に続いた。
メンバーは、ボク。洋子さん。ゆうこさん。ユキさん。シャクシさん。の五人だ。川上さんは、体調が最近優れないとの事で、マスター親子と一緒に留守番だ。母は、善さんが行かないので残ると言っていた。ノイジーは吠えていたが、何を言っているのかサッパリなので置いてきた。
先の方に、住居と取れる建物が見えた。その周りには善さんの空間と同じ様な畑があったり、小川が流れていたりと、ほのぼのとした感じだ。
「お気に入り様、あの建物の向こう側から奴らが来るはずです。こちらが先に建物の陰へと身を隠し、姿を現したところを不意打ちする、という算段でございます。よろしいでしょうか?」
「あ、うん。それでいいよ。ね、洋子さん、あの建物って…見覚えない?」
シャクシさんの計画は真面目に聞いていたが、その建物の事がどうしても気になって、仕方がなかったのだ。そう思い、洋子さんに尋ねてみたのだ。洋子さんもボクの言いたい事に気付いた様だ。あっ!と声が出そうな表情を見せ、ボクの代弁を務めてくれた。
「あれ、前に住んでた稜くんのボロアパートだよ。うわぁ…。」
よ、洋子さん?代弁は非常に結構だけど、ボロって…、それに、うわぁって何さ…。
今更関係ないが、引っ越す時にものすごく嫌がった理由が分かった気がした。安月給だから仕方がない。どこでも住めば都というじゃないか。
洋子さんの建物評価はさて置き、ボク達はそのまま進み、まだまだ大丈夫なアパートにたどり着いた。ボク達がいるのは、アパートの真後ろになる。待つ間に、誰がどう動くかの作戦を立てる事にした。
時間にしてほんの五分程だろうか?作戦会議の最中に、真上から声をかけられた。
「あれあれ、お気に入りさんだ〜。アハハ、『悪』だよ〜。やほ〜。」
あまりにも軽いノリのその言葉が、『悪』ではないと脳が訴えている。ボクの抱く、『悪』へのイメージが、音を立てて崩れ去っていった。おそらくこの感覚に陥ったのは、この場にいる全員だ。
あ、シャクシさんを除いて。
そのシャクシさんが、呆れた様に『悪』に語りかけた。
「何をなさっているのです!奴らが貴女を始末しようと迫っているのですよ!?」
「あれあれ、まあまあ。姉様がシャクシをよこしたの〜?ん〜、ご飯食べるのよね〜、今から。」
双子だから、てっきり昔風の堅い言葉だと思っていたが、凄く砕けた言葉を使う『悪』。それどころか、性格も似ていない。本当に双子なのか?と疑ってしまう。
「あれあれ、お気に入りさん?双子だよ〜。姉様はね、本当はアタシと同じなんだよ〜。人前ではキチンとなさいって言うだけあって、人前でこんな話し方しないね〜。」
そ、そうなんだ。って違う!そんな事どうでもいいから、早く逃げてくれっ!
「稜くん、『悪』って悪くない奴じゃない?洋子の方がよっぽど怖いって!アハハハハ!」
そう言って、洋子さんに喧嘩を売ったゆうこさん。真面目にいこうよ。と愚痴をこぼしそうになった。
「あれあれ、失礼な。『悪』ってね〜、ただの名前だよ〜?どうせ世間ではアタシの事、悪者呼ばわりしてるんでしょ〜ね〜。」
「とにかく、悪さん?ここは聞きたい事もあるので、一旦ボク達と来ていただけませんか?」
「稜くん、悪さんって!ハハハハ!奥さんって聞こえてウケたし!ハハハハ!」
この開き直ったアホなゆうこさんを、誰か止めてくれ〜。
「ゆうこ、ちょっとこっち来なさい!」
さすが洋子さん、ゆうこさんのお守りはお任せします。
「あれあれ、楽しそうだよね〜。ん〜、お気に入りさん?そっちご飯食べれる〜?」
そっちとは、ボク達の住む場所という事だろうか。
「あ、はい。ボク達の家でなら、美味しい食事を出せますが。善さんも気に入ってますよ?」
この『悪』は、善さんを慕っている感じがしたので、引き合いに名前を出してみた。姉様と呼ぶくらいだ、少なくとも嫌ってはいないはず。双子だし。
「あれあれまあまあ、姉様がそう言うなら美味しいのね〜。じゃ〜、行こっかな〜。待ってて〜。」
良かった、早くしてくれると助かる。奴らがすぐ近くにいるかもしれないからね。しかし、善さんと同じ歳にしては、言葉使いが子供みたいだなぁ。
「お待たせ〜。行くよ〜、せ〜の!」 フォッッッッ!
ズダダダン!ズドン! 「いててて…てて。」(ボク)
予告はしてくれたが、皆んなの心の準備も出来ないまま、突然転移させられた様だ。しかもボク達の自宅にだ。多分、善さんの質というか、気配を感じ取って転移したのだろう。
「あらあら、お気に入りさん?もうもどっ…、え、なぜここに貴女がいるのかしらね。『悪』よ、逃げてきたのですね?」
転移したのはいいが、ここは善さんの部屋みたいだ。気配を感じて飛んだはずだから、仕方の無い事だろうが、突然現れた『悪』に、善さんは驚いている様子だ。
「あれあれ、姉様〜。お久しぶりね〜。名前で呼んでくれていいのにね〜。」
やはり仲は悪くないようだ。ボクはてっきりその名前からして、敵対関係にあると決めつけてしまっていた。善さんと色々話し出した『悪』を見てそう思った。
散々苦労して、ゆうこさんに能力を授けてもらったというのに、拍子抜けしてしまった。しかし、『悪』を助ける事にはなったみたいだ。戦わずして難を逃れられたのは、幸運だったという事にしておこう。
だが、これで解決した訳ではない。必ず奈々子はここにやってくるだろう。それまで時間があまり無いように感じる。準備出来る事は、今のうちにやっておくのがいいだろう。
『悪』が善さんに食べ物を催促しだしたので、ブツブツ言いながらも善さんが下に連れて行くようだ。ボク達の方は、少し訓練をしておいた方がいいと判断して、洋子さんに相談してみた。
「私もだけど、ゆうこやユキさんが、能力を授かったばかりだから、一緒に訓練もいいと思うよ。」
洋子さんのその意見に、皆んなも賛成してくれたので、これから庭に出て、チカラを使いこなす訓練を始める。
指導出来る程近いこなせていないのだが、ゆうこさんやユキさんよりは使えるとして、ボクがゆうこさんに、洋子さんがユキさんに、それぞれ教える事になった。
訓練し始めて一時間程で、二人共そこそこ使える様になっていた。さすがは元組織の人間だ。ゆうこさんは暗殺者としてのキャリアがあるし、ユキさんも『絶対服従』で、ある程度チカラには慣れていたはずだ。
やはり本人の性格というか、本質といいますか、ソレが左右しているみたいに思える。ゆうこさんは攻撃系の覚えが早く、ユキさんは精神系、回復系を覚えるのが早かった。
ボクの場合も性格が出てると感じる。なにせ内気で内股内向的なのだから、攻撃系は不得手だ。洋子さんは万能だ。素敵な女性だ。そこ関係ないかもだが。
「うんうん、ゆうこさん!かなり上達したんじゃない?やっぱりセンスあるんだね。」
ゆうこさん独特の暗殺者スタイルに、『瞬足』や『風刃』を組み込んだりしていた。戦いの勘というのが凄く良いと分かる。
『風刃』は本来素手で手刀を作り、ソレを振り抜く事で、風の刃を遠方に飛ばして斬るチカラなのだが、ゆうこさんはソレを自前のナイフで繰り出して見せた。ボクとゆうこさんではセンスが違うので、正確な事は分からないが、威力がボクのと比べ桁違いだった。
「稜くん、ありがとう。良い技が身についたよ。奈々子も怖くない…。ホント、ありがとうな。」
「大丈夫だよ、いざとなったら、ボクや洋子さんがいる!もう子供の頃とは違うんだ。」
「ああ、分かってるさ。だけどな、稜くんは私達とは違うだろ?忘れたらダメだよ。キミにはさ、組織の任務とはいえ、洋子がずっと見守ってくれていただろ?それに…ともこさん。ずっと側にいてくれた人だろ?彼女は組織のやり方に反対して、監視じゃなく、キミの側にいる事にしたんだ。忘れるなよ。残念な事に、彼女の欠点は、旦那の橋本を愛し過ぎていたって事だけだ。」
ゆうこさんの言葉が胸に響いた。過去に助けて失敗したと思い込み、ずっと胸の奥にしまい込んでいたものが、どっと溢れ出して流れてくる。ボクを優しく見守ってくれていたあの笑顔。恐怖のあまり、それさえも忘れようとしていたのか?と、自分を責めずにはいられなかった…。
全く似てない善と悪。今後彼女達はどうなっていくのだろう。主人公達は戦いに備え訓練を開始したが、戦いはもう迫ってきているのか!?




