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63 ゆうこの闇

あれから数日経ったが敵は未だに現れず。油断無きよう待ち構える主人公達だが、様子がおかしい…。



 洋子さんが飛ばされた朝から三日経過しているのだが、誰かがこちらにやって来る気配がない。勘違いで終わるなら、それはそれで良い事だと思うが、居場所が全く分からない現状をみると、奈々子の仕業であった方が手っ取り早いのだ。


 交代で見張りを続けている事もあり、皆んなの顔には疲れが伺える。相手が強敵だけあって、中々眠れないのもその要因だと考えられる。その中でも、ゆうこさんの荒れ具合が一際目立つ。


 一階キッチンの、庭が見える窓枠に片足を立て、ライフルを脇に抱えたまま見張りをしているゆうこさん。今か今かと待ち構えている様子にも見えるが、焦りと疲労が浮き出た顔を見ると、来るな来るなと叫びを上げている様にも見える。しかし、その眼光は消えていなかった。


「ああっ!イラつくんだよ!来るなら来やがれっ!あのゴミムシがぁ!」


 たまにこうやって乱暴な言葉を吐き捨てているゆうこさん。その様子を見ていると、洋子さんの大暴走を思い出さずにいられない。しかしあれは、授かったチカラと、憎しむ気持ちがセットで起こる現象だと善さんが言っていた。よって、ゆうこさんのそれは、ただの苛立ちかと思われる。


 ボクはその様子をテーブルの席について、コーヒーを飲みながら見ている。自分が苛立っている時は、周りが見えないものだが、こうやって側から見ると、気分が良いものではない。


「ゆうこさん、少し休んだらどうかな?いざと言う時に、それじゃ判断を誤ってしまうかもだよ?」


 窓枠を足で蹴りつけている態度に、少しムッときて、棘がある意地悪な言い方になってしまった。


「あぁ?テメェは何呑気な事言ってんだよ!洋子が危険に晒されたんだぞ!甘ぇんだよ。アイツはそんな生易しい女じゃねぇんだよ…。奈々子は……。」


 怒鳴ったかと思えば、最後の言葉の歯切れが悪くなっていた。奈々子を前から知っていた風な口ぶりだ。


「奈々子の事、知っていたの?前から…。」


 ここはボクの必殺直球勝負だ。その質問に、俯いていたゆうこさんが、鋭い目だけでボクを捉える。


「私の事はどうでもいいんだよ…。もういい、外…行ってくる…。」


 睨み付けられた感じでは無かったが、その目には威圧感があった様に思われる。実際、呟く様なその言葉を残しキッチンから出て行くゆうこさんに、声をかけられないでいた。萎縮してしまったのだ。



 何か出来る事は無いのか?と考えていると、母が見計らったようにキッチンに顔を出した。


「稜、大丈夫?随分とキツくなったわね…あの子。聞いて…。昔ね、あの子…、ゆうこの教育をしたのは、奈々子なの。凄いスパルタでね、あの子…ずっと泣いていたの。でも、それも最初のうちだけだった。」


 母の言葉に驚きを隠せない。その母が、コーヒーを淹れ終わり向かいに座る。そして続きを話し出す。


「そのうちね、ゆうこは泣かなくなり、それどころか口も聞かなくなったの。それに腹を立てた奈々子は、あの子を暴力で支配しようとしたの。毎日それが続き、血を流さない日は無かった程だった。組織が奈々子に任せている以上、私も口は出せないでいた。どれだけそれが続いたと思う?」


 ボクに対しての質問というより、自問自答している様な口調で、母が言葉を切る。伏し目がちなその視線は手元のカップに落とされていた。ボクは何も答えずに続きを待った。


「…、ふぅ、7歳の頃から三年間…三年よ!あの子はジッと耐えていたの。訓練部屋が見える窓越しに、私はあの子の目を見たわ。憎悪に満ちて、憎々しげに私を見ていた。ううん、私だけじゃない。その様子を見ていたあの場の全員によ。その内成果を出せなかった奈々子は、あの子の教育係から降ろされ、洋子の父親が直接教育し始めたの。」


 ゆうこさんにそんな辛い過去があった事を初めて知る事になった。洋子さんの父親は、どんな教育をしたのだろう?そんな考えを巡らせるボクを他所に、母はカップを空けていた。


「まぁ、教育と言ったけど、実際には実験よ。ゆうこは、並みの子供ならまず生きては出られない、実験場での、全ての痛覚実験を耐えて見せ、生きて外に出てきたの。それを洋子の父親が見込んで、暗殺者に育て上げたの。」


 事の経緯は把握出来たが、母は何故こんな話しをボクにしたのだろうか。またも直接を投げてみる事に。


「ゆうこさんの過去は分かったけど、急にこんな話しをどうして?」


「あらあら、鈍いのねお気に入りさん。」


 またまた突然現れる善さん。きっと透明にでもなってボクをストーカーしているに違いない。


「そのストーカーというのは知りませんが、お気に入りなんだもの、いつも側にいて当然ですよ。」


 忘れていた。善さんには思考が筒抜けだという事を。ストーカーを知らない様だ。


「ハハハ…。善さん?その、ボクが鈍いって…?」


「ええ、その通り鈍いですよ。アタシの愛に気付いておいでかと思いましたら、いつも冷たい態度で…。」


「う……、善さん?もしもし?そうではなく、ゆうこさんの話しですが…。」


「あ、あら!アタシったら、ふふふ。」


 あら!じゃないです…。愛って…ボクには洋子さんが…。


「洋子は強敵ですね。しかし、今はゆうこの話しですよ?」


 いやいやいや、捻じ曲げたの善さんだから!くぅ〜もぅ!


「はいはい、そうでしたね。もう。ゆうこの事でしたね。単純に考えてごらんなさい、ゆうこは奈々子に酷い目にあわされ続けたのですよ?それが『トラウマ』となって、彼女に憎しみの気持ちを思い出させているのです。今や、全てが憎いと思い出しているかもしれません。」


「な、なるほど、善さん。女心は分からないものですね。」


「いえ、ただの人の心ですよ。」


 う…、ソウナノカ?まだまだ修行が足りぬ様だ!



「り、稜くん大変だよ!ゆうこが、ゆうこがおかしくなっちゃったの!来て!」


 キッチンに突然そう叫びながら入ってきた洋子さんが、ボクの腕をとり、外へと引っ張っていく。


 ダァァン!チュィン!  うわ!危なっ!!


 玄関から外に出ようとした洋子さんとボクの目の前に、弾き飛ばされた泥と一筋の紫煙に似た煙が立ち昇る。とっさにドアの陰に隠れる。


「くんな!!お前らも敵だー!!私をまたいたぶろうったってそうはいかないぞ!実験台にはならねぇからな!!」


 ダダァァン!キュイン!キン!


 ゆうこさんがパニックに陥っている様子が見て取れた。言動がおかしすぎる。奈々子の怨念にでも取り憑かれたのか?と心配するレベルだ。何とか説得して落ち着かせないと、怪我人を出し兼ねない。


「洋子さん、話しをしたいんだけど、ゆうこさんをあの時の様に、無傷で押さえられる?」


「うん、それは大丈夫だけど、ゆうこ、私の話しも聞いてくれなかったのよ。」


「大丈夫だよ、ボク達は仲間じゃないか。」


 洋子さんの心配に、そう答えて決意を見せる。それに頷いてくれると信じていた。さぁ行動開始だ。


 一気に二人で違う方向へ飛び出す。ゆうこさんのライフルを撹乱する為だ。


「くんなっつってんだろぉ!!わあああああ!!!!」


 ダダン!ダダダダダァァン!!ダダァァン!


 洋子さんとボクを交互に狙っているが、ボク達は『瞬足』を使い、弾丸を巧みに躱しながらゆうこさんに近付いていく。使いながら分かったのだが、『瞬足』が発動している時は、動体視力も格段に上がる様だ。弾丸がスローモーションみたいに流れていく。


 あと少しのところで、ボクが飛びかかるフリをする。ゆうこさんがライフルを置き、素手でこちらに掴みかかろうとしたその時、洋子さんが背後から腕を取り、その勢いのままゆうこさんを、地面にうつ伏せ状態に組み伏せた。


「くぉの!離せよ、洋子!私を売るつもりなんだろうが!なんだテメェら!!」


 まだ抵抗するゆうこさんの側で、あぐらをかいて座り込む。こちらを睨みつけているゆうこさんに、ボクは優しく話しかけてみる。


「ゆうこさん、ボク達仲間じゃないか。そんな事言われたら悲しいよ。」


「仲間だと!お前ら……お前らに私の何が分かるっ!幸せそうなお前らに!」




トラウマによるプレッシャーに耐えきれず暴走してしまうゆうこ。主人公が説得に当たるが…。

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