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62 海老で鯛を釣る

主人公の言う大所帯に、新たに加わったユキ。いまいち人間性が掴めずあれこれ考えてしまう主人公だが…。



 ユキさんがウチに来て、あれから十日が過ぎた。未だ変わった様子も無く、ボク達に敵対する気配も感じられない。何度か話した事もある。


 その話の中で聞いた事を少し掻い摘んで話そう。ユキさんが組織に入ったのは五歳の頃で、親に連れられて来たのがキッカケらしい。そこで、洋子さんの父親が、身体強化のあらゆるチカラを見せてくれて、それがカッコいいと言う理由だけで、自らを実験台として差し出したそうだ。


 因みに、『必ず身体強化出来る』と吹き込まれたのが、彼女の背中を押した一番の理由だと話してくれた。ところが、散々薬を投与されたり、身体中を針で突いたり、骨を折られたりと、痛みに耐える実験を繰り返された後、あの『ゴミ捨て場』に捨てられたと。


 しかし、彼女のその時の、組織への恨みが興味を引いたのか、彼女の元に『悪』がやってきて、チカラを与えたそうだ。それが『絶対服従』だったという訳だ。そして、彼女はそれを使い、組織に復讐しようとしたが、あの奈々子に倒されたらしい。相手が悪い。


 当時彼女は七歳になっていたと教えてくれた。それから組織に何かの手術をされているところで、記憶が飛んでいるそうだ。善さんに『還りの鈴』を使わないのか尋ねたところ、そう簡単に作れない。と、言われてしまった。『還りの鈴』は、善さんが作っていたと、初めて知った。


 しかし、『還りの鈴』を使うとユキさんはどうなってしまうのだろう。七歳まで若返ってしまうのだろうか?見た目が少し若くなるだけだが、子供になるって嫌ではないのだろうか。

 約二十五年若返るのであれば、五十歳前後で『還りの鈴』を使った方がお得な気がする。



 色々と考えていると、あっという間にお昼を過ぎていた。食事を朝からとっていない為、キッチンへと急いだ。噂はしてないが何とやらで、キッチンにはユキさんがいた。手を洗いたいようだが、届かない様子だ。知らんぷりも出来ないので、椅子を流しの前に置いてみた。


「あ、ありがとうございます。稜さんでしたよね。前に私が襲った事があると、愛姉さんから聞きました。そんなヤツと一緒では、落ち着きませんよね?私は外でも構わないので、そう思っているのなら、遠慮は要りませんから。」


 子供が大人びた事言っている様にしか見えないのだが、別に過去の事をどうこう言うつもりは無いので、正直に答える事にする。


「いえ、事実ではありますけど、操られて記憶が無いのであれば、それはユキさんの意思ではないでしょう?その意思があるのなら、既にボク達を襲っている筈です。気にせずいて下さい。」


「愛姉さんの言う通りの人だ。さすがは姉さんの息子さんですね。お優しい。ありがとうございます。しかしその甘さは、敵には不要ですよ。人を信じ過ぎるのも危険です。私は嬉しいですが。」


 上げて、下げて、上げてくれたユキさんは、椅子を戻してキッチンから出て行ってしまった。忠告してもらったと感謝しておく。


 電気が無いと実に不便だ。冷蔵庫をつい開けてしまうが、当然空っぽだ。仕方なく棚を探ってみると、カップ麺が幾つかあったので、お湯を沸かして準備する。


 そういえば、洋子さんが朝から側にいないなぁ?こんなに離れたのは最近では初めてだなぁ。どこに行ったんだろう?気になりだすともう止まらない。ボクはコンロの火を消して、カップ麺の事もどうでもいい程、気になって仕方がない。


「洋子さーん。……、洋子さーん!」


 キッチンから出て名前を呼んでみるが、返事がない。いつも側にいてくれるのに、いないと分かると、ソワソワイライラ?どちらか分からない程焦ってきた。


 そのまま外に出てみた。善さんとカズちゃんが特訓しているのが見える。ゆうこさんと川上さんの姿が見えない。一緒に出かけたのかもしれない。そう言い聞かせるのだが、脳が全く納得してくれないのだ。


 普通に生活しているのなら、こんなに心配しないのだろうが、ボク達は今も、奈々子という脅威と戦っている最中なのだ。


 う〜ん、洋子さん…。どこか心当たりは…う〜ん…。


 洋子さんの心配で頭の中でがいっぱいになる。しばらくオロオロしていたが、どこからか洋子さんの声が聞こえた気がした。耳を澄ませるが聞こえない。目を閉じて集中してみる。


 [ 稜くん………稜くん……帰りたい……稜くん… ]


 頭の中で響く感じがする。帰りたいと聞こえたが、知らない場所にいるのだろうか?もう一度目を閉じて集中すると、まだボクを呼ぶ声がしていた。その時、ふと頭に浮かぶ事が。善さんが橋本を連れて来る前の場面だ。『見つけた』そう言っている善さん。


 あ、もしかして、ボクにも出来ないかな?確か、気配を感じる。だったよね。


 ちょっとした思いつきだったが、試してみる事にした。目を閉じて、洋子さんの声に集中しながら、顔を思い浮かべてイメージする。 『空間転移』 フォッッッッ!


 ……「稜くん!ぇぇえええんん…良かった〜ぁぁああ…」


「洋子さん、やっと見つけた。どうしたの?ここはどこなの?」


 突然現れたボクを見て安心したのだろう、少し涙目になりながらボクの胸に飛び込んできた。辺りを見回すが、全く知らない場所だ。


「分からないの。起きたらここにいて、稜くんがいなかったの…。稜くんいないと何も出来ないよぉ…。」


 う…、それはボクも似たようなモノだなぁ。さっきまでオロオロしてたし。


 洋子さんの頭を撫でて落ち着かせながら、もう一度周りを見てみた。


 野原の様な場所で、近くに緑一色の山が見える。ここから道らしき道も無く、林と呼ぶには木がまばらで少ない。風も無く動物もいない様子だ。空にも雲一つない。来た事はないが、知っている様な感じはする。しかし記憶に無い。


 人影も無いなぁ。草の匂いもしないし…まるでリアルに作った世界みたい?ん!?作った?


 周りの状況から色々考えていると、ある仮説が思い浮かんだ。


 義父が世界を創る能力を持っていて、奈々子がそのチカラをもらうと言っていた。奈々子が既にチカラを手に入れて、ここを創ったとしたら、ボク達は奈々子の創った籠の中の鳥って事じゃないのか?


 とりあえずここから出る事が先決だ。洋子さんがここで泣いていたにも関わらず、誰も気付いていない。という事は、奈々子では無いにしても、気づかれる前に逃げ出すべきだ。


 ボクはなるべく小声で洋子さんに行動を伝える


「洋子さん、もしかしたら、奈々子の世界かもしれないから、直ぐに出よう。いくよ?」


「うん、もう離さないよ。」  「じゃ、『空間転移』。」 フォッッッッ!



 グラッとした感じが、転移成功を確信させた。近くでカズちゃんの声がする。


「洋子さん、お帰りなさい。会いたかったよ。」


「はい、ただいま!私も〜。チカラを使ったけどね、移動しなかったの。」


 移動しなかった?……ん?洋子さんは起きたらあそこにいて、出られなかった。ボクが迎えに行って、出られた。出られた?出してもらえた?これはもしかして!?


「善さん!まずいかもしれない!」


 そう叫ぶボクに気付いた善さんが、一瞬で目の前に来てくれた。先程行った場所と、ボクが考えていた事を善さんに説明した。


「可能性はありますね。シャクシの気配を察知する程の相手でしたら、お気に入りさん達の気配を察知するのは容易に出来ます。本来、他人の創った空間への出入りは出来ないのですよ。洋子が出られなかったのは自然な事です。逆に、出られた事が不自然です。エサを用意して、案内させた。と考えた方がいいかもしれませんね。」


 奈々子はボク達が転移を使える事は知らない筈だ。だから洋子さんを夢の中から引っ張り込んで、あの場所に放置したんだ。そこに、善さんが来ると思ったら、ボクが転移で現れたから、奈々子がそれに気付いて、ボク達を帰れる様に仕向け、案内させた。という事が考えられる。


 奈々子の海老で鯛を釣る作戦とでも言いたいのか?


 もし、ボクの考えが正しければ、痕跡が残ったままだから、この場所がバレてしまった事になる。どうもまた、あの嫌な予感がしてならない。




まんまと奈々子の罠に掛かってしまったのか!?今の主人公達に勝機はあるのか!?

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