60 実験と罰
コソコソ何かやるのかと思いきや、チカラの実験を始める主人公達。無闇に使うと碌なことにならない。もう忘れたのか!?
部屋に戻ったと見せて、惨劇のあった中央部にボク達は来ている。ボクの転移はほぼ成功する様になっていた。ここにいるのがその証拠となる。活用出来るようになれば、敵の背後を一瞬で取れたりする筈だが、転移の瞬間のグラッとくる感覚に慣れる必要がありそうだ。軽い目眩の様なものだ。
手始めに、ボクが『治癒』で治せるという事もあり、洋子さんには指を少し切ってもらう事にする。意外と平気だと言って、想像以上に切ってしまった。少し慌ててしまったボクだが、ここからが本番なので、深呼吸で気を取り直す。
「洋子さん、集中して。治るイメージを集中するんだよ。」
ボクの説明に頷く洋子さん。少しして変化が現れる。指と言ったのに、手の平から手首にかかりそうな程切っていた。その傷が、チャックを閉じていく様に塞がり始めた。意外と早く塞がっていく。
「稜くん!これ、私がやってるの!?わぁ〜。」
ボクが使うところを何度も見ていたせいか、要領がいい洋子さんの傷は、あっと言う間に完治していた。洋子さんも自分に驚いている様子だ。次はボクの番だ。洋子さんの『瞬足』を試してみたいと思っていた。実はボク、凄く足が遅いのだ。楽しみで仕方ない。
洋子さんにやり方を聞いてみたが、返ってきた答えがこれだ!、、、
「グッ!としてピシュッ!としてシュバッ!とするんだよ〜。えへへ。」
わ、分からん!その変なジェスチャーも…。
右腕をクネクネさせて、今の説明で分かる人がいるのだろうか。洋子さんが拗ねるとマズイので、納得したフリをして想像で頑張ってみる。
む〜…。グッ!と…、ピシュッ!で……シュバッ!……むむむ…
ドンッ!!ヒュオッッ!!
「おお!洋子さん、出来た!!本当だ!…。グッ!としてピシュッ!としてシュバッ!だったよ!」
ボクも人の事が言えないと悟った貴重な体験だった。しかし、足が速くなるのは気持ちがいいものだ。少し乗り物酔い的な感覚が残るが、慣れれば問題ないだろう。
その他も、洋子さんと交互に色々試してみた。二人共全く同じ事が出来て、凄く盛り上がってしまった。洋子さんのはしゃぐ姿はいつ見ても可愛くて仕方ない。
さて、ここでメインイベントを。実はこの中央部に来たのには、訳があった。奈々子の使った『爆裂』を出来るか試してみたかったのだ。威力が凄まじかったのを覚えている為、広い場所が必要だったのだ。
「洋子さん、『爆裂』を使うから、『音壁』と、念のため『再生』『治癒』の準備をしておいてね。」
ボクの言葉に頷くと、かなり離れた場所で、洋子さんが集中を始めた。しばらくそれを見守った後に、ボクも集中して準備する。
爆裂…炎とかのイメージかな?大爆発みたいな?…爆発、爆裂…大爆発…むむむむ
『大爆裂』 あ、間違え……!!
シュゥゥゥゥゥ……カッ!ドドドドドドォォォォォォォォン!!…ズゴォン……。
えと…言葉間違えたんだけど…。あれ?
「洋子さん!大丈夫!?」
「う、うん、ちょっとキツかったかも…。治ってきた。」
間違えた筈のチカラが発動したのだが、それよりも驚いたのは、威力が桁違いな事だ。洋子さんも危うく消しとばしてしまうところだった。その姿を見た時は、本当に失ったかと怖くなった。こんな実験で最愛の人を失うなんて、シャレにならない。
みるみる元の姿に戻る洋子さんを見て安心した。ごめん。と何度も謝りながら強く抱きしめた。
「稜くん、こんなのがこの街に起きたなんて…怖いね。普通の人なら一瞬で…。」
「う、うん。でも、言葉を間違えたんだ。もしかすると、それ以上の規模に…!!」
自分でそこまで言いかけて、大変な事に気付く。
「洋子さん!家!?規模が大きかったのなら家が!!いくよ!『空間転移』。」
ボクは慌てて洋子さんの手を握り、転移で自宅へと飛んだ。
自宅の庭に飛んできてみると、そこには全員集まっていた。家も無傷だった。
「お気に入りさん!なんて事をしたのですか!私が気配に気付き、和美さんが『音壁』を使わなければ、家もろとも木っ端微塵でしたよ!反省なさい!」
善さんの凄い雷が落ちた。当然の事なので返す言葉もない。善さんとカズちゃんに感謝しなくては。やはりチカラは無闇に使うモノではない。ボクはその場にいる皆んなに深く頭を下げて謝罪した。洋子さんもそれに付き合ってくれた。
あの後ゆうこさんからも散々叱られて、更に善さんがチカラを制限します!と言って、『封印』というチカラを使った。洋子さんもボクの巻き添えでかけられていた。しばらく能力を使えない、普通の人間になってしまったのだ。今は部屋で反省中。洋子さんが慰めてくれている。
その夜は中々眠れず、何度もため息が出ていた。洋子さんはいつもの抱き枕体制で寝ていたが、多分起きてくれていたと思う。ボクがため息を吐く度に、ギュッとされた感覚があった。
あの凄まじい爆発の光景が、頭から離れない。奈々子のそれよりも遥かに危険なチカラだった。間違えたばっかりに、とんでもないチカラを使ってしまった事への後悔が絶えない。
結局朝まで眠れず、起きてコーヒーでもと思っていたのだが、今更になってという感じで、凄い睡魔が襲ってきた。ボクは、洋子さんの腕の中に再び潜り込み、深い眠りについた。
「洋子!おい稜くん!起きろ!アイツらが来たんだよ!早く起きろ!」
「う…ん、ちょっとゆうこ?なによもう…。」
ついさっき寝たと思っていたら、今度は起きろと?ん?ゆうこさんか?
「おい!しっかりしろよ!アイツらだよ!奈緒子と…その、アレだ…ユキ!来てんだよ!」
「えええ!?」(洋子さん、ボク)
慌ててベッドから這い出て、窓の外を覗いてみる。そこからは何も見えなかった。
「ゆうこさん、どこに来てるのさ?」
「今、街の中央部にいるんだよ!善さんは戦わねぇから、私らでやるしかねぇだろ!」
いつもより乱暴な口調でがなり立てるゆうこさん。焦っていると思われる。ボク達は『治癒』や『再生』といったチカラがあるから『絶対服従』は効かない。ゆうこさんには防ぐ手立てがないのだ。だから焦っているのだろう。
「とにかく落ち着いてよ、ゆうこさん。ボク達には『絶対服従』は効かないから。心配ないよ。」
そう言いながら着替えるボクの肩をグイッと引っ張って、ゆうこさんが怒鳴る。
「お前らチカラ封印されてんだろが!!」
すっかり忘れていたのだ。ボク達は…、いや洋子さんは強いが、ボクは元ホームセンターのチーフでしかないのだ。何が出来ようか。焦るべきだ。
「忘れてたよ。マズイね…。でも、どのみち戦わないといけないよね。作戦を立てないと。」
冷静なのか、悠長なのか自分でも分からないが、来ているなら、作戦を立てている時間などない。本格的にマズくなってきた。
カズちゃんの『音壁』は、直接的な物理攻撃しか防げないから、脳の一部を改変して精神を操る『絶対服従』には効かない。敵を撹乱して不意打ちするしかないか。それでも犠牲は出る可能性がある。
「グズグズしてる暇はないぞ!早く行くぞ!」
ゆうこさんがそう言いながら、ボクと洋子さんを部屋から引きずり出した。無駄な抵抗に終わるかもしれないが、行くしかない。
家も無事ならマイカーも無事である。という訳で今ボク達は、川上さんの運転で、中央部まであと少しのところまで来た。まだ姿が見えてこない。移動したのだろうか?と考えていた時、マイカーのボンネットに何かが落ちてきた。
ドゴォン!!ベコッ…。
「おやぁ〜ぁ、随分と久しぶりぃ〜!うふふふ。あぁ?なんで死んだヤツがいんの〜ぉ?ふふふふぅ。」
落ちてきた…いや、派手に下りてきたのは奈緒子だった。ボク達は急いで車から出て、奈緒子と距離を取る。不意打ち作戦もこれで使えなくなった。
ゆうこさんはユキもいると言っていたが、辺りにその姿は見えない。
「だ〜か〜ら〜ぁ、んふっ、聞いてんのよ!その胸のデカイおんな〜、『種』でも〜、使った?んふふふっ。」
「お前の人形と一緒にするな。ボクの洋子さんをバカにすると、泣かすぞ!」
頑張って啖呵を切ったのだが、泣かすぞ!は無かったな。と反省する。それに、奈緒子のチカラが何か分からない以上、迂闊に動く事は避けたい。会話してどんなチカラか言葉を引き出すしかない。
やはり碌でもない結果に。罰を受けて反省するも、一歩間違えばあわや大惨事!!しかも罰を受けてチカラが使えない時に、新たな襲撃者が!?




