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59 熱心なファン

今回は母上の重要な話しから始まる。しかし!?



 とても重要な事を話そうとする母だが、廊下で話す事ではないと、ボク達を部屋へと招き入れた。そして三人で床に腰を下ろしたところで母が再び話しだした。


「稜には辛い事かもしれないけど…、奈々子と稜の父親『伊町 幸雄』は、かつて恋人同士だったの。これは私と結婚した後も続いていた。気付いた時には、双子の子供までいたの。稜、貴方と同じ歳よ。『奈緒子』と『奈美恵』異母兄弟になるわね。」


 そう言った母の言葉に、軽くショックを受けて、オロオロしてしまう。そんなボクの頭を、洋子さんが抱きしめて、現実へと戻してくれる。ナミちゃんが告白してくれてそれを承諾した事実が、異母兄弟という言葉に砕かれてしまった。


「洋子?…。稜、貴方どちらかを知ってるのね?」


 女性という生き物は、なぜこうも勘が鋭いのか、理解に苦しむ。


「奈美恵さんが、私のいた病院の患者さんだったんですよ。稜くんもそこに通院していて、たまたま知り合ったんですよ。」


 母は知っていると思っていたが、どうやら知らないみたいで、洋子さんのフォローも信じた様子で頷いていた。


「そうだったの、なら知ってると思うけど、奈美恵は亡くなったけど、奈緒子は生きてるわ。奈々子の指示で動きながら、橋本の組織に潜り込んでいるの。いずれ組織ごとチカラを奪うためにね。」


「じゃあ奈緒子は橋本の部下のフリをして?少年と一緒だったけど、あいつは組織の人間じゃないの?」


 『絶対服従』を使う少年。ボクには驚異ではないが、他の皆んなはそうもいかない為、少しは気になっていたので、聞いてみた。


「少年?…あぁ、ユキの事かな?『絶対服従』を使うユキは女よ。しかも小さいけど大人よ?確か三十はいってるわね。組織の実験のせいでああなのよ。自分から望んでした事らしいから、哀れにも思わないけど。」


 女!?どう見ても少年にしか見えなかったけどなぁ…。


「あの、お義母さんは、なぜ追われていたんですか?」


 ボクがユキの事を考えている時、黙って聞いていた洋子さんが、申し訳無さそうに尋ねた。


「洋子、気を使わないで。ふふ、私の知識が必要なのよ。これでも昔は組織の研究員でもあったのよ。『善』と『悪』の存在について色々と調べていたわ。そしてある時、北の山奥にある打ち捨てられたお堂に、それに関する文献が残っていたの。解読に時間がかかったけど全て読めたわ。」


「じゃ、そこに書かれていた事が重要なんだね?」


 一区切り話す度にキョロキョロする母に、先を話すように促した。何か気になる事でもあるのだろうか?と思えてならない。


「ええ、その通りよ。【『善』と『悪』の『種子』について。】という部分が一番興味深かった。でも奈々子が知りたいのは、善か悪のどちらかの弱点なの。そんな事書かれてる訳無いじゃない。あの文献を書いたのは、多分歴代の善か悪のどちらかよ。自分の弱点なんて書いておくと思う?そんなバカなら種子を受け継げないって。アハハ。」


「じゃあ奈々子はその事を?」


 まただ、妙に先程から周りをキョロキョロと落ち着きがない。段々ボクの質問する言葉も短くなる。


「え、ええ。ん?ああ、何度言っても信じないのよ。そんな事書かれていないってね。で、しつこく追い回されて、あの人まで犠牲に…。」


「あ、ごめんお母さん…。言いにくい事は言わなくていいよ。」


 母のキョロキョロする姿に苛立ってしまい、つい無神経になっていたかもしれない。


「あ、いいのいいの。あの人とは、そんなので結婚したんじゃないから。稜のお父さんから身を隠す為に結婚して名前を隠していたのよ。お父さんは奈々子の言いなりだったから、私を売ろうとしたのよ。稜を盾にして脅してきたの。だから小さな稜を知り合いのお婆さんに預けたのよ。」


「ちょ!ええ!?知り合いの!?ボクのお婆ちゃんじゃないの!?」


 何サラッと言ってんだ!母よ…。どうりで可愛がられない筈だよ…。


「あら、知らなかったの?お金だけ渡して稜を預けたの。あの時は逃げている最中だったから急いでたのよ。ごめんなさい。」


 いやいや…宅配便でもサインくらい貰うよ!?手紙くらい残しても…。


「因みに…いくら渡したの?お金。ボクが聞いたのは、お母さん達の財産って聞いたけど?」


「そうね、確かに全財産だったわね。確か……七万円くらい?えへへ!」


 だーっ!それじゃ飯も出んわっ!!

えへへって洋子さんの真似しても許しませんっ!!

よくあの婆ちゃん八年間も面倒見てくれたな…。逆に感謝するべきだったよ。

というか、ちゃんと教えてくれても良さそうなものを…。


「りょ、稜くん、谷あり谷ありだよ。私がついてる!」


 洋子さん…二度も落としてどうすんの…。静寂が恋しい…。


「あらあら、母上様?あれほど真実を話してはいけませんよと言っておいたのに、話してしまったのですね。先程のサインは返してもらいましょうかね?」


 突如救世主現る!と思っていたのだが、善さんまで何か臭う事を言い出した。


「ちょ!善様!あのサインは私の宝なのですっ!どうかあれだけは!」


 行き過ぎた研究のせいで超絶なファンになった母に、善さんが『サイン会』を開いたようだ。

もうこの二人は放っておこう。真剣に聞いて損をした。


「よ、洋子さん、あっち行こう。」


 善さんと母の会話を目の当たりにして、キョトンといった感じの洋子さんの手を引いて、部屋から立ち去ろうと立ち上がる。そこに、善さんファンクラブ一号の母が声をかけてきた。


「稜、奈々子が狙っているのは、『悪』か『善』の命よ!全て自分だけのモノにしたいのよ。そして、奈々子は口伝である禁忌を破ればどうなるか知らないのよ。勿論『種子』の事も。私が捕まらない以上、奈々子は強硬手段を取る筈よ。そういう性格だもの…昔からね。」


 奈々子がやりそうな事だとボクにも分かる。この状況でファンクラブ一号が、これまでで一番まともな情報をくれた瞬間だった。


「お父さんの話はどうなったの?」


 そういえば!と気になった事をついでに聞いてみた。


「貴方のお父さんは、私の説得に失敗したばかりか、取り逃がしてしまったから、奈々子がアッサリ実験材料にしたのよ。自業自得だわ。」


 碌でもない父だった事は、母の話からも予測出来たが、その最後までもが碌でもないとは。もはや父とも呼ばないでおこう。会う事もないのだから。


 そう教えてくれた母だが、未だに善さんに、サイン取り上げ反対を懇願し出したので、洋子さんと部屋を後にした。まともな身内がいないものかと、頭が痛くなった。『治癒』では治らない類いのモノだ。



 昨夜に引き続き、夕食をどうするか悩んでいるところに、川上さんがやってきて、隣の『市』から、豪勢なオードブルを買って来たと教えてくれた。川上さんなりに、街に引き入れてしまった事を気にしているのかもしれない。周りにずっと気を使う彼女の行動が、ぼくにそう思わせて止まない。


 川上さんのチョイスした料理に、洋子さんが凄く喜んでいた。大好きな『伊勢海老』が、一人一つずつドーンと用意されていたからだ。いつぞやは『偽物海老』を握らされてしまった!と思い出す。


 洋子さんが、あまりにもそれを幸せそうに頬張るので、ボクのを半分皿に分けてあげたら、凄く喜んでくれて、お返しに『アスパラ肉巻き』の『アスパラ』だけを大量にくれた。とても嬉しくなかった事は言うまでもない。



 昨夜に続き、大所帯の食事は楽しくて美味しいものだった。母も善さんの隣に座り、研究の成果を本人相手に自慢していた。それぞれが思い思いの事をし出したので、ボクは洋子さんを連れて、部屋へと戻った。


 二人きりになったのは、変な事する為では無い!洋子さんも善さんから能力を授かったのなら、もしかして、と思ったからだ。


 ここで母の研究による解説を一つ。能力は、授かる者と、ご先祖様の誰かが授かり、それを引き継ぐ者。この二種類に限られるそうだ。


 『悪」は一度に三つ程しか授けられない。比べて『善』は一度に全てを授ける。これは、『善』が中々姿を人前に現さない理由でもあるそうだ。

 一方引き継ぐ者は、母もそうらしいが、チカラが弱いうえに、幾つかしか引き継がないそうだ。


 この話しを聞いたからこそ、洋子さんにも色々使えると思っているのだ。それを、二人で試してみる為に、二人きりになったのだ。真剣に!だ。




重要な話もあったが、露わになった自分の過去もあり、ある意味やり切れない感を漂わせる主人公。今宵洋子と部屋でコソコソと始める実験の成果は!?

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