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56 ひと時の安息

状況が悪化を辿る一方で、何やら良い事がありそうな予感!?



 マスター達を保護した翌日、珍しいお客さんに、川上さんとマスターが驚いていた。今リビングで色々説明を聞いてもらっているところだ。ボクと洋子さんは既に知っている事なので、二人で家の周りの瓦礫を片付けている。


 お客さんとは、善さんの事だ。今朝、ゆうこさんと一緒にこの街に来ていたところを、シャクシさんが連れてきてくれた。街の惨状を見て、善さんも驚いていた。

先程も言った様に、今はボク達が聞いて知っている事を、全て説明してもらっている。


「稜くんほらほら!見てこれ!ね、ね!ねえ!」


 前言撤回…。瓦礫の片付けはボクだけがしている。洋子さんはノイジーと遊んでいるところを、ボクに見せているだけだ。仕方のない事かもしれない。洋子さんは、人生の半分を強制的に、組織での訓練に費やしているから、遊んだ記憶がないらしい。物理的な記憶ではなく、ただの言い回しだ。


 そんな子供っぽい洋子さんがボクは大好きだ。堅苦しいのは性に合わない。


 しかし、今回のマスターの件でも感心させられたが、ノイジーはやはり頭が良い。洋子さんの指示でも、嫌な事は顔を背けて嫌がるポーズを見せる程だ。


 瓦礫の片付けも大体片付いた。しかし、善さんがまだ説明している最中だろう。邪魔をしてもいけないので、ノイジーの散歩がてら、洋子さんとプチデートする事にしよう。


「洋子さん、プチデートしよっか?ノイジーの散歩しながらさ。」


「え!うんうん、する〜!じゃノイジー!ハウス!」


 いやいや、散歩……。あ〜、ノイジー帰っていったよ…。


 デートの言葉しか聞いていないと思われる洋子さんが、ノイジーが家に入るのを確認した後、ボクの腕にしがみついてくる。笑顔が無邪気過ぎて何も言えなかった。


 今日の洋子さんは、フワフワした感じのスカートに、ピンクのブラウス。その上に、フードが付いたコートを着込んでいる。わざとなのか、コートの前を閉めず胸を強調した着こなしをしていた。


 後方に折りたたまれたフード。そこで折れ曲って首元に絡みついた髪が、フワッとした感じを更に演出している。意外とこういうのが好きなボクにはたまらなく魅力的に感じる。出会った頃より髪が伸びているのが分かる。


 しかも美人なのだ。ボクは凄く幸運な男であるとつくづく思う。季節も冬に入ったばかりで、肌寒さが身に染みるところだが、そんな洋子さんを見ていると、温かい気持ちで満たされる。


 ボク達は随分遠回りして帰った。洋子さんもボクと同じで、あの日ゆうこさんに邪魔されたキスを成し遂げたかったのだ。


 まばらに残る街路樹の大きな幹に寄りかかり、ボク達はその想いを成し遂げた。やはりフワフワした髪が、彼女の可愛さを更に増している様で、愛おしさのあまり、二度もキスしてしまった。幸せだ。



「まぁたアンタ達イチャイチャしてきたんでしょ!稜くん、口紅ついてるよ!」


 家に帰るなり、ゆうこさんが冷やかしてきた。その言葉に反応して、自分の唇を思わず触ってしまうボク。


「ほーらやっぱり!洋子は口紅つけてないっての!分かり易ぅ。」


 騙された。洋子さんも、思い出しているのか、ボクをチラチラ見ながらモジモジしていた。お互い隠し事が無理なようだ。


 さて、昨夜はカップ麺で済ませたのだが、今日は善さんもいるからどうするか悩むところだ。街中心部が全壊したおかげで、電気が使えないのだ。供給元が中心部にあったらしく、全て吹き飛んだからだ。


 悩むボクに、善さんが何を考えているのか尋ねてきたので、夕食の事と、電気の事を話したところ、提案をしてくれた。


「気の毒な事だけど、家の残骸を燃やしてキャンプをしてみたいですよ。焼き肉というものをキャンプで食べてみたいのですよ。」


 この提案に、一同大賛成だった。中でも元気の無いかずちゃんが、笑顔を見せてくれたのが一番嬉しかった。不覚にも、その健気な姿に涙が溢れた。


「ふっふっふ〜、食材は豊富にあるわ!野菜も肉も海鮮素材もあるわよ!あ〜ハッハッハ!」


 いや、一番ノリノリなのはゆうこさんだった。何がそうさせている!トングを片手に持って空に掲げて言うそのセリフに、皆んなの顔が苦笑いに変わっていく。かずちゃんに悪影響を及ぼす可能性があると判断して、ボクはゆうこさんを善さんの管理下に置いた。


 うん!借りてきたネコとは、こういう態度の事なのだな!勉強になった。ゆうこさん、ありがとう!


 結局焼く係は、プチデートしてイチャイチャした罰だと言って、ボクと洋子さんに決定した。しかし、この家の持ち主だから、お客さんである皆んなをお持て成しするのは当然なのだ。


 食材を切ってくれたのは、シャクシさんだ。普段の善さんの食事は、彼女が作っているらしく、手際よく食材を準備してくれた。後は焼くだけだ!


 先ずはピーマンからだ!隣で洋子さんがお肉担当で頑張っている。タン塩、豚バラ、カルビ、ハツを焼いていた。焼ける香りが食欲をくすぐる。ボクも負けじと、ピーマン、タマネギ、ナス、キャベツ、イカ、エビ、といった海鮮も焼いていく。


 エビの焼ける香りが、またたまらない。徐々に色を薄紅色に変えながら、パチパチと身から離れる殻の音、少し焦げた部分から立ち昇る一筋の煙、やがて殻の間から吹き出す汁の香りが焦げた匂いと混ざり合う。この香りだけで食感まで想像出来るほど食欲をそそられる。


 善さんも満足そうに食してくれている。かずちゃんはお父さんと食べさせて合いっこしてる。ゆうこさんもフガフガ音が聞こえそうな勢いで頬張っている。川上さんは上品な食べ方だが、その箸は休まらない様子だ。シャクシさんは、こういう雰囲気が初めてらしく、食はそこそこだが、笑顔をこぼしていた。


「稜くん、あ〜ん。…えへへ、ね、私にもあ〜んしてぇ。」


 ボクと洋子さんは、こんな感じで懲りもせず、イチャイチャしながら頂いてます。焼き肉にしたのは正解かもしれない。電気が使えない以上、いくらこの肌寒さでも、生物は長く置いておけないからだ。


 色々暗い出来事が続く中で、皆んな笑顔になれた。善さんの提案が功を奏した。美味しい食事と楽しい歌は、人を笑顔にしてくれるものだ。かずちゃんが学校で覚えた歌が、キャンプの焚き火から立ち昇る煙に乗って、夜空に響き渡っていた。



 楽しいキャンプも終わり、片付けと余韻を残してボク達はそれぞれの部屋で休む事にした。その夜中に、ボクを呼ぶ声で目を覚ました。


「お気に入りさん、洋子も起こしなさい。後が大変ですよ。」


 ボクを起こしたのは善さんだ。後ろにはシャクシさんもいた。夜中に何だろう?とは思ったが、善さんがこんな時間にこっそり起こしたのだから、重要な事だろうと想像して、言われた通りに洋子さんを起こす。


「ん…、稜くん…ムニャムニャ…いつでもいいのよ……グゥ…」


 おい!良くないでしょ!結婚前に…、違う違う、起こさないと。


「洋子さん、洋子さん!…。シャクシさんにキスされちゃうタスケテ…。」


 バッ! 「らめぇ!むぅ…。あり?稜くん?」


 寝起きが悪すぎて毎回こうなのだ。ダシにされたシャクシさんは無表情だ。善さんが側にいるからだろう。後で謝っておこう。

 やっと起きてくれた洋子さんに説明して、着替えようとしたら、善さんに『そのままで良いですよ』と言われたので、二人でそのまま並んでベッドに座る。

何か話しがあるかと思いきや、『空間転移』と善さんが呟き、ボク達は見知らぬ場所に連れて行かれた。


 ベッドに腰掛けたまま転移させられたので、ボク達はそのまま尻餅をついてしまった。お尻を摩りながら(自分のだ!)立ち上がり、周りを見ると、先の方にベッドが一つポツンとおいてある『空間』だった。


 ベッドしか無いこの空間に置いてあるベッドには、女性が一人横になっているのが見える。


「お気に入りさんの母上ですよ。ゆうこと転移する時に見つけたのですよ。」


 まだ呆けていたボクに、善さんがそう教えてくれた。


 こ、この人がボクの……。


 そう聞かされたボクの腕を、洋子さんがしっかり抱きとめてくれている。おかげで落ち着きを取り戻した。




久し振りにワイワイと皆んなが楽しめたキャンプを終えて、またまた善のサプライズ行動勃発か!?

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